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第29話 特殊能力

 はじめから武器を使える人間が混じっていた!

 イリアが辿り着いた結論に桐子が同意する。

「ボクもそう思う。武器でしか死なないという事実。それに、あれだけ探しても凶器が見つからなかった。となると武器を使ったとしか考えられない」

 では、敏美を殺害した人物は誰なのか? 

 それについてイリアは考察を進める。

「どの武器が使われたのかしら? あの子は鋭利な刃物で首を斬られてた。死体をマジマジと見たわけじゃないから断定できないけど……」

「うーん。となると、だいぶ絞れるね。ボク達の持ってる武器で刃物となると……」

 そう言って桐子は首を捻った。そして、これまでの経緯を振り返る。

「利恵はハンマー、和佳子は鉾だったな。アレは刃物ではないよな。ヘレンがライフルで乙葉がショットガン。モエの斧は……刃物といえなくもないな」

「そうね。それは刃物に分類していいと思う。それとこれ……」

 イリアはそう言って左わき腹の痣を2回タップした。すると詩織が使っていた鎖鎌が『スパァン!』というラップ音と共に出現した。イリアはそれを宙でキャッチして桐子に示す。

「この鎌が一番近いような気がする」

 イリアの台詞に桐子が大げさに驚いてみせる。

「マジかよ! まさか、あの大人しそうに見えた詩織が?」

「分からない。ただ、今のところ、これが一番近いというだけ」

 しばらくして『ポフン!』と鎖鎌が跡形もなく消え失せる。

 それを眺めながら桐子が言う。

「他には……他には何だろ? ボクの大剣はあんなだし、君の武器は……」

 そう言う桐子の視線がハルバートに注がれる。イリアのハルバートは先端が槍になっているが、その近くに小ぶりな斧が付いている。それも見方によれば刃物といえる。

 桐子が言葉に詰まったのを見てイリアが苦笑いを浮かべる。

「私のこれも刃物だね」

「い、いや! イリアは違うよ。それはボクが保証する。それと智世も除外でいいと思う」

「そうね。となると残りは……」

「分からないのがあの双子と玲実だ。あいつ等の武器は何だろ?」

「分からない。あの子達は単独行動だったから……」

「そうだな。じゃあ、武器で犯人を特定するのは難しいか」

「ただ、仮に使用可能な武器で犯人を特定したとして、なぜあの敏美って子を殺したのかが分からない。動機が不明すぎるわ」

「だったら、とっ捕まえて吐かせればいい! 大丈夫だ。それで真相が分かるぞ!」

 桐子が自信満々にそういうものだからイリアは困惑した。

「吐かせるって……どうやって?」

「いや。それはまだ考えてない。けど、犯人は必ずボク等の中に居る。仲間のフリをしてるけど、この事件の黒幕である可能性が高い。それが許せない!」

「黒幕……」

「ああ。そうだ。考えてみなよ。そいつはボク達がこの世界に放り込まれて右往左往してるのを間近でウォッチしてたんだぜ? 頭にくるだろ?」

「もしそうだとしたら許せないわね。けど……本当に黒幕なのかしら?」

「そうに決まってるさ! たぶん、そいつがボク等をこの世界、いや、この妙な島に連れて来たに違いないよ」

 桐子はすっかりその考えに支配されているようだがイリアは半信半疑だ。

「それはさすがにどうかと思うけど……嵌められたって可能性はゼロではないかもね」

「行こう! 雪の町に! 利恵達がまだ居るかもしれない。出来れば双子達にも接触して確かめるんだ!」

 暴走気味の桐子にイリアが釘を刺す。

「焦っちゃ駄目よ。それにモエ達に会ったらどうするの? 只じゃ済まないわ」

「ああ……そっか。あいつ等が居たか」

「あの2人は私を恨んでいるはず。できれば争いは避けたいけど……」

「うーん。確かに厄介だな」

「でも、やっぱり行ったほうがいいわね。少なくともこの情報は共有すべきだと思う」

「そうだな。とにかく今はそれしか突破口はなさそうだし」

 この情報を持って雪の町に向かう。しかし、雪の町が大変なことになっていることを2人は知る由も無かった……。


    *    *    *


 ヘレンに油臭いと言われたので望海と梢は交代でシャワーを浴びることにした。

 先にバスルームに入った望海が一通り全身を洗い終わったところで梢が声を掛ける。

「ね、お姉ちゃん」

「なに? もうちょっと待ってよ」

「なんでホントのこと言わないの?」

 シャワーのお湯を止めて望海が振り返る。その冷めた表情に梢がたじろぐ。

「お、お姉ちゃん……」

 望海は濡れた髪を雑に掻き上げると「分かってる」と、吐き捨てた。

 梢は恐る恐る尋ねる。

「ヘレンちゃんは気付いてるよね? 先にあんな酷いことをしたのはアタシ達だってこと」

「酷いこと?」

 声のトーンが低い。明らかに不機嫌そうな言い方だ。

 それに負けじと梢が口を尖らせる。

「そうだよ。罠にかけて焼き殺そうとするなんて……」

「ふぅん。まるで他人事だね。アンタも同罪なのに」

「え? そ、それはお姉ちゃんが手伝えって言うから……」

「またそうやって逃げる。ホント、使えない妹」

 望海は冷たい目で梢を睨んだ。その言葉は梢の胸に突き刺さった。思い当たる節がありすぎて反論できないのだ。

 望海は濡れた手で梢を押しのけるとバスルームから出てタオルを頭から被った。そして「さっさと入れば?」と言い残してリビングに向かった。


 リビングではヘレンがクラッシック音楽を聴きながら紅茶を飲んでいた。

 髪を拭きながら望海が尋ねる。

「何の音楽?」

「ラフマニノフ。ピアノ協奏曲ね」

「そういうの好きなの?」

「他に聴くものが無いから」

「その割に詳しいじゃない。アタシなんか何の曲か全然わからないもの」

「詳しいって程じゃないわ」

 そう言うヘレンは寛いでいるように見える。望海はイライラしながら髪を乾かす。会話が無い中でピアノの複雑な旋律が室内に充満した。フル稼働する暖房具のおかげで寒くは無い。

 しばらくしてヘレンが思い出したように口を開く。

「玲実だっけ? 助けに行かなくていいの?」

 ヘレンの質問に望海は首を振る。

「いいのよ。どうせ手遅れだと思う」

「冷たいわね。フレンドじゃなかったの?」

「分かんない。ツルんでたのは事実だけど。ホントに仲が良かったどうかなんて……」

 そう言って望海は首を竦める。

 ヘレンはそれ以上深く追及してこなかった。望海は仲間を見捨てたことを避難されると思っていたのでヘレンのクールな反応に拍子抜けした。むしろ、その反応の無さに対して正直に話さなくてはならないような気がした。

「作戦を立てたのはアタシなんだけど、結局は大失敗だった……」

 望海は利恵達と対立するようになってしまった経緯について自白した。そして最後にこう付け加えた。

「武器以外では死なないなんて……それを知ってたら、こんなことにはならなかった。これじゃ、無駄死にだわ」

 ヘレンは黙って説明を聞いていたが、望海の口ぶりに軽く嫌悪感を示した。

「無駄死にってあんまりな言い方ね。ユーにも責任はあるはずなのに」

「それは認める。見通しが甘かったわ。そのせいで玲実ちゃんがやられてしまった……」

「自覚はあるようね。それで、どうするつもり? リベンジは?」

「復讐するつもりは無いわ。けど、あのメガネ女は倒したい。殺されたくないから」

 望海は仇を取るつもりは無いらしい。どちらかというと利恵の追撃をどう交わすかで頭が一杯のようだ。

 ヘレンが溜息をつく。

「そう。私も乙葉達に命を狙われているからユー達と同じ境遇ね」

「ああ、そういえばそうだっけ? ヘレンは何であの子等とそういうことになっちゃったわけ?」

「それは言いたくない。話せば長くなるから。それにどっちが悪いかなんて、今となっては何ともいえないわ」

 それは繰り返し自問した結果だ。発端は、食料を持ちだそうとしたモエを咎めた時のイザコザだった。こっちは威嚇のつもりで撃っただけなのに顔に大きな傷をつけられた。仕返しにと思って矢倉に立てこもったものの、誤って野乃花を撃ってしまったのは自分のミスだった。しかも、結果的に彼女を死なせてしまった。それは不幸な出来事ではあったが自分に非があることは明白だ。言い訳するつもりはない。だが、明確な殺意があった訳ではない。それが唯一の良心だった。

 そこに風呂から出てきた梢が合流する。梢は望海の様子をチラ見して次にヘレンを見た。そして2人と距離を置くように部屋の隅にあった椅子に腰かけた。

 望海がヘレンに向かって尋ねる。

「ねえ。ところで能力って何? 武器と一緒に移転するとか言ってなかった?」

 ヘレンは冷静な口調で答える。

「ああ。それね。武器とセットになっているスペシャルな戦闘能力よ」

 望海は目を丸くする。

「戦闘能力? 何それ? 具体的にはどういうもの? ヘレンも持ってるんでしょ?」

「うーん。暗闇で目が効くようになったのは自覚してるんだけど」

「で、移転した能力は? 槍と一緒に貰ったんでしょ?」

「それがハッキリしないのよ。野乃花って子の持ってた能力が何なのか未だに分からない」

「へえ、そうなんだ」

「そういうユーはどうなの?」

「アタシ? アタシは……もしかしたらなんだけど、一時的に凄く速く動けるの。なんか相手の動きが止まって見える、みたいな?」

「ワオ! それって一種のゾーンなんじゃない?」

「ゾーン? 何それ?」

「極限まで集中した時に発揮される能力よ。時間が止まったように感じられるの。一流のアスリートは持ってるらしいわ。いわゆるビッグプレイが出る時がそれなんだって」

「ああ……なるほどね。けど、それが続かないんだよね。困った事に」

「それは仕方が無いわ。能力の発揮にはインターバルが必要みたいだから」

「え? そうなの?」

「イエス。私の能力は分かり易いから気付いたんだけど。数えてみたら約13秒のインターバルが必要ね」

「そっか! だから連続して使えないんだ」

 望海は合点がいったという風に頷いた。

 ヘレンが会話に入ってこない梢に向かって尋ねる。

「ところでユーは? 能力を自覚してる?」

 急に話を振られた梢が首を振る。

「わ、分かんない。てか、アタシは殆ど戦ってないから……」

 そこで望海が代わりに考えを口にする。

「もしかしたらアンタのは、危険を察知するっていうか回避する能力なんじゃない? だって、あの槍みたいなのが火の中から飛んで来た時。アレに気付いたのはそれのおかげだよ」

「え? そ、そうかなぁ……」

 望海はニヤリと笑う。

「危険回避能力。それなら使えるわね」

「ちょっと、お姉ちゃん! 何考えてるのよ……」

「いや。今後その能力が重要になるかもね」

「やだなあ……そんなの」

「あれ? そういえばアンタ、武器は? さっき持ってなかったよね?」

 望海が思い出したようにそう言ったので梢が小さく首を振る。

「落としてきちゃった。逃げる時に」

「は? マジで? まさか、あの燃やした建物のところで?」

「たぶん、そうだと思う」

「バッカじゃないの! どうすんのよ!」

「そんなに怒らないでよう。だって逃げるのに必死だったから」

「困ったわね。取に行くにもメガネ女が……」

 そんな双子のやりとりを眺めながらヘレンは冷めた紅茶を飲み干した。

 

    *    *    *


 町中に入ってきたという感はあった。

 煙が立ち昇る場所まではまだ距離がありそうだ。が、モエと乙葉は雪に苦戦しながらも真っ直ぐに目的地へ向かった。

 足に絡みつく雪にモエが閉口する。

「なんやねん。この雪。やっぱ歩きにくいわ。こんな大雪、ウチの住んでる所で……」

 そこで乙葉が「しっ!」と、モエの言葉を遮った。

 モエが顰め面で黙る。乙葉は無言で前方を指差す。その方向に目を遣ったモエが「あ!」と、声を漏らす。

 乙葉の顔が険しくなる。

「足跡……この先に誰か居る」

 足跡は複数名のものと思われる。家の並びに沿って足跡が左方向から前方の曲がり角まで続いている。

 足跡のある場所まで進んで乙葉は良く観察する。

 この足跡はどちらから来てどちらに向かっているのだろう?

 乙葉は推理する。

「形からすると左方向に向かってるみたい。イマイチ確信が持てないけど」

「せやな。試しに行ってみよか?」

「うん。気付かれないように慎重に行こう」

 この先で待ち伏せされているとか建物の中から見られるとかは考えなかった。とにかく、あてもなく雪に埋まりかけた街をうろつくよりは、誰かを見つけるのが先だと思ったのだ。

 しばらく足跡を辿って2人はある家に目を付けた。この辺りでも比較的大きな家だ。

 乙葉が立ち止まって周囲を警戒する。それに倣ってモエもキョロキョロする。

 乙葉はじっと前方を見据えて頷く。

「うん。足跡はあの家に続いてる。恐らく中に居るはず」

「で、どうするんや? 仲間に入れて貰うんか?」

「まさか。気付かれないように接近する」

「なんでや?」

「みんな敵だから」

 乙葉の言葉にモエが息を飲む。彼女の目は真剣そのものだ。

 乙葉は目的の家に真っ直ぐには向かわず途中で左手に回った。そして、隣の家を経由して庭から侵入を試みた。敵地に潜入するような具合で2人は目的の家を偵察する。

 庭に入った時点で誰かが居ることを確信した。なぜなら音楽が微かに伝わってきたからだ。にわかに緊張が高まる。そこで二手に別れて乙葉が時計回りに、モエが反時計回りに家を半周する。そして裏に回ったところで合流。小声で報告し合う。

 乙葉が首を振る。

「ダメ。中の様子は分からなかった。侵入できそうな箇所は一箇所見つけたけど」

 それに対してモエは何かを見つけたようだ。モエは軽く咳払いをして、ゆっくりと言葉を選ぶ。だが、結局、出た言葉が「おるで」の一言だった。

 モエの表情から乙葉は察した。

「もしかしてヘレン?」

「そうや。双子も一緒や」

 それを聞いて乙葉が歯軋りする。

「あの女、いつの間に仲間を……」

「どうすんねん。2対3やで?」

「油断してるところを襲うしかないね。待ち伏せするとか」

「本気か? このクソ寒い中、どこに隠れるっちゅうねん。それにあいつ等、家の中から出てこおへんかもしれんで」

「それならそうで叩きだす。家に火をつけてでも外に出るように仕向ける」

「おいおい。無茶言いよるな……」

「とにかく奇襲するしかない」

 そう言って乙葉はショットガンの銃身を撫でた。

 それを見てモエが唾を飲み込む。そして左手の戦斧を見る。その刃に映った自らの目を見てモエは小さく身震いした。


    *   *   *


 玄関を出る寸前でヘレンが断りを入れる。

「一応、説得はしてみるけど保証はできないわよ?」

 ヘレンの格好は、この町で調達した白のコートに斜め掛けのショルダーと荷物は少なめだ。だが、ライフルはしっかり持っている。

「それでいいよ。けど、駄目だった場合はやるしかないから」

 そう言って望海は双剣をまじまじと眺める。

 ヘレンがやれやれといった風に首を振る。

「ミーの言うことに耳を傾けてくれるかどうか。利恵って子がどういう状態か分からないからね」

 望海はやや楽観的だ。

「上手くいけば会わなくてすむわ。まさか未だにアタシ達を探し回っていることは無いと思うよ。このクソ寒い中で」

 梢も出かける準備は終えたものの、あまり乗り気ではない。

「ねえ。もうちょっと待った方がいいと思わない? 明日とかでいいんじゃない?」

 望海は即座に首を振る。

「だめよ。今晩、襲われたらどうするの? アンタだけ武器を持ってない状態なんだよ?」

「そ、そうだけど……」

「妹だから無条件で守って貰えるなんて考えないでね。それは甘えだよ」

「お姉ちゃん……」

「望海の言う通りね。自分の身は自分で守る。それがスタンダードよ」

 ヘレンにまでそう言われて梢がしょんぼりしたように「分かった」と、頷く。

 ヘレンが玄関の扉を開けながら言う。

「暗くなる前に帰って来れるようにしないとね」

 ヘレンを先頭に望海、梢が続いて玄関を出る。

 と、その時、屋根の上から飛び降りたモエがヘレンに飛び掛かった。

 梢が「危ない!」と叫びながらヘレンを突き飛ばす。

 まさか交わされると思っていなかったモエが「嘘やろ!? 何で?」と驚愕する。

 予期せぬ出来事に望海が固まる。

 ヘレンは「ぐっ!」と、呻いて体勢を立て直そうとする。が、すぐ近くで『ガサッ!』という音が発生した。その方向に3人の視線が向けられる中、植込みから飛び出してきた乙葉がショットガンを撃つ。

 咄嗟に避けるヘレン。

 乙葉はさらに接近。

 近すぎてライフルでは対応しきれない。

「死ねっ!!」と、乙葉は2発目を狙う。決して外さないという強い意思をもって乙葉は銃口を出来る限りヘレンに近付けようと突き出した。

「危ないっ!」と、ゾーンに入った望海が目にも止まらぬスピードで乙葉のショットガンを左手の剣で跳ね上げる。

 銃身を跳ね上げられた状態で発砲してしまう乙葉。発砲音と「なっ!?」という乙葉の呻きが同時に生じる。

 望海は半回転しながら尚も乙葉に斬りかかる。

 が、迷いがあった。あと半歩踏み出せば深く斬り裂くことができた一撃だった。しかし、迷いが一振りを鈍らせた。雪の深さに足を取られたせいもある。乙葉の腹を狙った剣は浅く、乙葉のへそ付近を掠めて空を切った。

「うぐっ!!」

 それを横目にモエが追撃を図る。モエは雪から足を抜くと靴が脱げるのも構わずヘレンに突進した。そして素早く戦斧を横に振る。完全に間合いに入っていることを確信した。

「もろたで!!」

 だが、戦斧の刃が虚しく空を切る。捉えたと思ったはずのヘレンが突然、目の前から消えてしまったのだ。

「な、なんでや!?」

 ヘレンが消えたことにモエは唖然とした。


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