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第28話 加速する殺意

 想像以上の強烈な炎に玲実が唖然とする。

 黒煙と炎の嵐。熱気に当てられて顔が火照る。轟音に意識を縛られる。ムクムクと湧き出す黒煙は、まったく勢いが衰えない。凄まじい燃え方だ。その爆発的な拡がりは町中を焼き尽くすことを意図しているようにすら見えた。

 玲実のグレネード弾は狙いが外れてしまったものの、梢が雪に隠したタンクを誘爆させることになった。自らのもたらした結果の重大さに玲実は震えた。

 一方、この作戦を立てた望海は呑気なものだ。

「タンクを仕込んでて正解だわ」

 望海はワクワクしているようにも見える。飛んで来る火の粉に大げさに驚いてみたり、迫ってくる黒煙を嬉々として避けたり、その様子は波打ち際ではしゃぐ女の子のようだ。

 玲実は恨めしそうに望海の横顔を見る。だが、何も言えなかった。

 そこに建物の裏口から脱出してきた梢が合流する。

 梢は強張った表情で業火を眺めながら言う。

「やりすぎじゃないの……火事になっちゃうよ」

「中途半端じゃダメなのよ。けど、さすがに、くたばったでしょ」

 そう言って望海は満足気に笑う。だが、梢と玲実は笑えなかった。

「アハハ、作戦勝ちだわ。苦労したかいがあったわね!」

 望海はそう胸を張る。利恵をここまで誘導したのは望海。そして建物の奥に誘い込む為に玄関口で待機していたのは梢。それは双子ならではのトリックだった。利恵は梢を望海と誤認して、まんまと罠だらけのコの字型建物に誘い込まれてしまったのだ。

 ところが高笑いする望海に向かって何か飛んで来た。

「危ないっ!」と、梢が突き飛ばさなければ確実に当たっていた。

 何が起こったか分からずに望海がきょとんとする。そして、積雪に突き刺さったものを見て「なっ!?」と、目を剥いた。

 炎の中から望海を掠めて飛んで来た物体。それは見覚えのある三つ又の鉾だった。

 望海が驚愕する。

「な、な……なんで? まだ生きてる!?」

 業火の向こう側から飛んで来たトライデント。それは利恵の生存を意味するものだった。

 3人の視線がトライデントに集中する。なぜそれが炎の中から飛び出してきたのか?  茫然としていると『ボフンッ』と、それが消失した。

 益々、意味が分からなくなって3人が顔を見合わせた時だった。背後から火の粉がまとまって降ってきた。そして『ブンッ!』と空気を裂く音と熱気を察知して3人は同時に振り向いた。

「あっ!!」と、悲鳴をあげたのは玲実だ。そして『バキャッ!』という、やや鈍い音がして玲実が「ぎっ!!」と、真横に吹っ飛んだ。

「なっ!?」と、望海が玲実を吹き飛ばした相手を見る。そして絶句した。

 そこには炎の渦から飛び出してきた利恵の姿があった。鬼の形相で3人に対峙する利恵は全身が真っ黒だった。制服は焼け焦げ、肌は煤≪すす≫で真っ黒だ。そのくせ白目の部分はしっかりと3人を見据えている。

 利恵はハンマーを構えて言う。

「やってくれたわね」

「あっ……ああ……」と、梢が腰を抜かす。

 玲実はハンマーに脇腹を痛打され、うずくまる。

 望海は顔を引きつらせながら後ずさりする。

 利恵は3人をギロリと睨むと宣言した。

「覚悟してもらうわ。そっちがそういうつもりなら遠慮しない!」

 しかし、真っ黒に汚れた利恵の表情は読み取れない。ただ、その低い声は猛烈な怒りを何とか抑え込んでいるように聞こえた。

 利恵はハンマーを持ってジリジリと間合いを詰めてくる。誰を狙っているのかは分からない。だが、その圧力は3人の動きを奪った。まるで最初に動いた者を討つといった風に感じられる。そのプレッシャーに耐えらなくなった梢が「あああっ!」と、電撃棒で利恵に殴りかかった。

「フンッ!」と、利恵がハンマーのヘッドを突き出してそれを受ける。『カンッ!』と、金属がぶつかり合う。ワンテンポ置いて『バリバリバリ!』と、梢の電撃が炸裂した。電撃は梢の棍棒からハンマーに伝わり、利恵を痺れさせた。

「ぎゃっ!」と、利恵が絶叫する。強い電気に打たれて身体が硬直する。そしてハンマーを落としてしまう。その隙に望海が「今よ!」と、梢の手を引く。望海は呆然とする梢の腕を強引に引っ張り、その場を離れようとする。背後で「待って」と、玲実が助けを呼ぶ声がした。だが、それに構っている余裕など無い。望海は必死で妹を引きずるように逃げる。とにかく、戦っても勝ち目は無いことは明白だった。望海にとってあの罠で仕留められなかったのは誤算だった。それよりも、あの業火の中でダメージを負っていない利恵に心底、恐怖した。

 置いていかれた玲実は望海達の背中を恨めしそうに見送ると、いったん目を瞑った。そして、カッと目を開くとグレネードをしっかりと握った。続けて、しゃがんだままの姿勢で銃口を利恵に向ける。

「いやああああっ!」

 玲実は叫びながら引き金を引く。が、いかんせん距離が近すぎた。弾丸が利恵の脇をすり抜けて飛んでいく。利恵は顔色一つ変えずに接近してくると軽くハンマーを振るった。『ガギン!』と、ハンマーヘッドが玲実のグレネードを叩き落とす。

「あ、あ……」

 腕の痺れを堪えながら玲実が利恵の顔を見上げる。そして彼女の異様な姿に言葉を失った。真っ黒に汚れていた利恵は、いつの間にかプロテクターのような物を肩と腕に装着している。その肩当てと籠手には煤が付着していない。プラチナのように綺麗な色をしている。まるで全身に墨を浴びた後でそれらを取り付けたみたいに防具だけが汚れていない。

 利恵は玲実を見下ろしながら尋ねる。

「直ぐに止めを刺さなかった理由が分かる?」

 その言葉の意味がまったく理解できずに玲実はプルプルと首を振る。

 利恵は口角を上げて自ら答えを示す。

「それは、あなたの能力を確かめたかったからよ」

「え? え? 意味がわからない……」

 ようやく言葉を発した玲実だったが、本当に質問の意味が掴めなかった。

「もういいわ。サヨナラ」

 そう言って利恵は自らの痣をタップしてトライデントを宙に出現させる。そして祈りを捧げるみたいに目を閉じる。その何ともいえない間が玲実の恐怖心を煽った。

「い、いやだ……」

 玲実は何とか立ち上がる。そして覚束ない足元を気にしながら、逃げる方向を探ろうと視線を泳がせた。が、その瞳には、まるで投球動作のように腕を後方に引く利恵の姿が映った。そして次の瞬間、利恵の放った三つ又の槍が『ザクッ!』と玲実の胸を貫いた。まるで肺を串刺しにされたかのように、それは深く、絶望的な痛みとなって玲実の呼吸を停止させた。


   *   *    *


 ステレオでクラッシック音楽を鑑賞していたヘレンは爆音に気付いて顔を顰めた。

「何なの……」

 チェアから身を起こして飲みかけの紅茶を飲み干す。そしてレコードを止めた。

 様子を見るために家の外に出る。耳を澄ますまでもなく爆発音が聞こえた。

「あっちだわ」

 見ると9時の方向に黒煙が立ち上っているのが目に入った。時折、聞こえてくる爆音はそこからもたらされたものだと知る。

「町はずれの方角ね……」

 ヘレンは少し考えてからいったん屋内に戻ると、ライフル銃を背にその方向へ向かうことにした。

 出てしばらく通りを真っ直ぐに進む。黒煙の位置を確認しながら向かう方向を調整する為に次の角を曲がろうと考えた。

 と、その時、建物の角から突然、望海が姿を現した。

「オウ!」と、ヘレンが声を上げたのと同時に望海も「うわっ!」と足を止める。望海はかなり慌てている様子だ。彼女の後からは妹の梢が顔を出す。

 ヘレンが怪訝そうに双子の顔を見比べる。

「ユー達……あの煙は何なの?」

 丁度、双子が来た方向の先に問題の黒煙が上がっている。

 望海が幾分かホッとしたような表情で答える。

「駐車場が燃えてるのよ。火事になりそうな勢いで」

 張本人のくせに望海は他人事のようだ。

「ホワイ、ユーはそんなに慌てているの? 現場からはだいぶ離れているみたいだけど?」

 ヘレンの質問に梢が「そ、それは……」と口ごもる。

 そこで望海が説明する。

「あそこに居たら殺されてしまうからよ」

「リアリィ? 殺されるって誰に?」

「利恵よ。たぶん、玲実ちゃんは、もう殺られた。このままだとアタシ達も殺される」

 望海の説明に梢は違和感をもった。本当は火を放って利恵を殺そうとしたのは自分達なのに、まるで被害者のような口ぶりだ。

「アンビリーバブル! 利恵って、あの真面目そうな眼鏡の子?」

「そうよ。ハンマーと変な槍を持ってる」

「分からないわね。なぜユー達と利恵がそんなことになってるのか……」

「ねえ、ヘレン。お願い。そのライフルで利恵を撃って!」

「ホワイ? なぜミーが?」

「同盟、結んだじゃない。助けてよ!」

「ノー。それは出来ない。理由が無いわ。それに同盟なんて考えてない。私は一人で大丈夫だから」

 ヘレンの回答に望海は小さく舌打ちした。そして何とかヘレンを味方に引き入れようと思案する。梢は不可解そうな顔つきで姉とヘレンのやりとりを黙って聞いている。

 望海は苦し紛れに言う。

「でも、このままだと、いずれ利恵はアナタのことも狙うわ。あの子、普通じゃないもの。誰かれかまわず襲うつもりよ」

「そうかしら? 理由もなく人を殺す? そんな子には思えないけれど。ユー達が何かしたんじゃないの?」

 ヘレンの指摘に望海が悔しそうな表情を見せる。

「でも、先に闇討ちしてきたのはアッチなんだもん。こっちは反撃しただけだよ」

「そうだとしてもミーが彼女を撃つことに正当な理由は無いわ。それに、さっき槍がどうとか言ってたわよね。それに玲実も殺されたとか。だとしたら、ミーの手に負える相手ではなくなっているかも……」

「え? どういうこと? 武器を複数持ってるから敵わないってこと?」

 望海の質問にヘレンは一呼吸おいてから頷く。

「ええ。武器だけじゃない。能力も得てるはずだから」

 ヘレンの言葉に望海がきょとんとする。代わりに梢が尋ねる。

「能力? 何それ?」

 ヘレンは冷静に答える。

「どうやら武器の持ち主にはそれぞれ固有の能力が芽生えるらしいの。それも戦いが有利になるような超人的なものよ。それが武器の移転とともに移るみたいね」 

 そこで望海が憤る。

「何ソレ? 聞いてない! てか、ヘレンはそれ、知ってたの?」

「ノー。最近知った。イリア達に教えられたの。だから南風荘の裏でユーに会った時点では定かではなかったわ」

 望海はそれを聞いて唇を噛む。そしてしばらく考えた後に首を振る。

「そんなことって……益々、厄介だわ」

 驚き落胆する双子の顔を見比べながらヘレンが付け加える。

「それともうひとつ。これもイリア達から聞いたのだけど、この世界では武器でしか死なないそうよ。おそらくアクシデントで死ぬことは無いはず」

 ヘレンが明かした衝撃の事実に望海が「そんな……」と、座り込む。

 梢は天を仰ぎ、大きな溜息をつく。

「ホワット? ユー達、どうしたの?」

「いや、何でもない」

 望海はそう答えるのが精一杯だった。武器以外では死なないという信じがたい事実。だが、あの業火の中で利恵は生きていた。あれを見せつけられては信じるしかない。

 ヘレンは思い出したようにブルっと身を震わせると2人についてくるよう促した。

「OK。匿ってあげるわ。こんな所で話し込むんのもなんだし」

 今のところ利恵が追ってくる気配は無かったがヘレンの言葉を聞いて望海と梢は少し安心したような表情で顔を見合わせた。


   *   *    *


 前方に見える煙の筋を見つめながらモエが首を捻る。

「なんやろ? 何か燃えとんのかな?」

 雪原を抜けて町に入ったばかりなので町の規模やら様子はまだ把握できていない。しかし、町並みの向こう側に見える一筋の煙は真っ黒で不穏な雰囲気を持ち合わせていた。

 歩きながら乙葉がつまらなさそうに言う。

「さあね。焚火でもやってるんじゃない?」

「せやろか? なんか煙が黒過ぎるで。誰かが火事おこしたんちゃうやろな」

 乙葉が黒煙をチラリと見て言う。

「確かに変な煙。火事かもね」

「おかしいな。ウチ等以外この島には誰もおれへんはずやのに」

「誰かがうっかりしてたんじゃないの?」

「何やってんねんな。アカンやろ……」

 モエは足に纏わりついた雪の塊を戦斧の先端で剥しながら顔を顰める。

 乙葉は急に立ち止まる。

「取りあえず行ってみようか? もしかしたら、あそこにあの外人女が居るかもしれない」

「ヘレンか? どうやろ。こっちの方面におるんやろうけど、あの火事はヘレンがやったとは限らへんで」

「だとしても、この町で火事があったなら気付くでしょ。少なくともあの近辺には現れるはずよ」

 乙葉は冷たい微笑を浮かべてショットガンをぎゅっと握る。モエがそれに気付いて恐る恐る尋ねる。

「なあ。やっぱりやるんか?」

「当たり前じゃない。野乃花の敵を討つんだから」

「せやけど、詩織もやられてしもたんやで。これ以上、戦う意味は無いんとちゃうか?」

「もちろん、イリアにも復讐する。その仲間の桐子も。智世って子は生きてるかどうか分からないけれど、生きてたら殺す」

 乙葉の言葉にモエは困惑した。やはり、乙葉は変わってしまった。平気で仲間を殺すと言い切るその横顔は良心をモンスターに食い散らかされた犯罪者のようだ。

 乙葉はモエの心中を見透かしたかのように上目遣いで言う。

「前に、みんな死ねばいいって言ったよね? あれは本心だから」

 その言葉にモエは戦慄した。もはや乙葉を止めることは出来そうになかった……。


   *   *    *


 食堂のガラス扉を割るのは躊躇われた。が、鍵が無かったのでイリアと桐子は止む無く泥棒紛いの侵入方法で南風荘に入った。

 真っ直ぐに目的の階段まで進み、バリケードを取り除いていく。バリケードといっても椅子や長テーブル等もともと動かせるものを積み上げただけなので、それをどかせば2階へは上がれる。

 何ともいえない緊張感。それを紛らわすかのように2人は黙々と作業をこなした。互いに声を掛ける余裕は無かった。ようやく一人分通れる隙間を作りだして、先にイリアが階段に足を踏み入れる。イリアの右手にはハルバードがしっかり握られている。まるで戦地に赴くかのような不安。それをなだめるには武器の存在が必要だった。一方、桐子の大剣は大きすぎて室内を持って歩くには不自由なので食堂のテーブルに置いてきた。

 階段を上りきったところでイリアが振り返って桐子の顔を見る。無言で頷く桐子。それを見てイリアが軽く頷き返して2階の廊下をまっすぐ進む。

 2階の客室は6つ。目的の部屋は一番奥の『竹の間』だ。扉は開けっ放しになっている。2日目の朝に敏美が惨殺されて直ぐに2階への階段を閉鎖したので、あれから誰も入っていないはずだ。

 あと数歩というところでイリアが唾を飲んだ。桐子の緊張感もマックスまで高まる。部屋の前で立ち止まり、互いに深呼吸をする。そしてタイミングを合わせて室内を同時に覗き込む。

「ああ……」と、イリアが声を漏らした。それは驚きというよりは、ある程度予想していた答えに落胆したという風だった。

「やっぱりか……」と、続いて桐子も肩を落とす。

 2人が想像していた通り、竹の間に敏美の遺体は無かった。

 敏美が息絶えた瞬間を2人は見ていなかった。騒ぎを聞き付けてこの部屋に来た時には既に敏美は死んでいた。興奮した愛衣が「誰がやった?」と皆を問い詰めるところに顔を出した形になるが、あまり直視出来るような状況ではなかった。

 意を決して桐子が室内に足を踏み入れる。そして問題の個所を眺めながら言う。

「血が残ってるな。それも結構な量だ」

 敏美が倒れていたのは窓の辺りだ。絨毯は無地のグレー。それが広い範囲で黒く汚されている。それは一見すると墨汁を撒いたように見える。だが、光の加減でそう見えるだけで、実際は純性の黒とは程遠い赤黒くてゴワゴワした質感を露わにしている。それが壁や出窓までも容赦なく侵食している。

 イリアがしみじみと言う。

「やっぱり死体は消えちゃうんだ……」

「みたいだな。けど、消えてどうなっちゃうんだろ? まさか元の世界に戻ったとか?」

 イリアは首を竦める。

「楽観的に考えればね」

 イリアのクールな反応に桐子が苦笑いを浮かべる。

「だな。元の世界に帰れるんなら苦労はしないか。確かめるなら死ぬしかないよな。ボクにその勇気は無いけどね」

 これで死体が消えてしまうという事実が立証されてしまった。おそらく、智世の死体も同様だろう。彼女を仮葬した場所が凹んでいたのは、やはりそれが原因だと思われた。

 しばらく、2人は惨劇の痕跡を無言で見つめ続けた。幸い、窓が開けっ放しだったのでいわゆる血の匂いというものは皆無だった。また、時間が経っているせいで血の色がどす黒く変色しているせいもある。2人にとって死体の無い殺人現場は、まるで城の跡地を見学しながら遠い時代の合戦に思いを馳せている感覚に近かった。

「そういえば」と、桐子がポツリと口を開く。「敏美は何で死んだんだろ?」

 イリアが一瞬、不思議そうな表情を浮かべて桐子を見る。

 桐子は顎を擦りながら疑問を呈する。

「なあ。変だと思わないか? 誰が敏美を殺したにせよ、あの時点でそれが可能だったろうか?」

 あの事件があった後、有志で凶器の探索を行ったがそれらしきものは発見できなかった。

「おかしいだろ? だって、武器でないと死なないんだぜ?」

 そこまで聞いてイリアは神妙に頷く。

「確かにね……」

 そこまでは分かる。だが、その後がどうにもしっくりこない。あの事件が原点であるような気がしてならないのだ。

 桐子は髪を掻きながら苛つく。

「ああ、分かんねえ! もどかしいな、もう!」

 イリアはイリアで自らの考えを整理する。

「私達が武器を発見したのはあの事件の後だった。それもこの島に散らばる形で。それに武器は自分のものしか使えない。けど、武器が消えたということは……」

「そうか! 他人の武器を使ったんだよ!」

 桐子も気付いたようだ。なぜ、密室から凶器が消えてしまったのか? その謎は、他人から奪った武器を使ったものと考えれば解ける。他人の武器は一時的にしか使用できず、時間が経つと消失してしまう。それはヘレンが実証してみせた。

 イリアが爪を噛みながら険しい顔を見せる。

「もし、その推理が当たってるとしたら……考えたくはないけど……」

 イリアが何を言わんとしているのか桐子は薄々感づいていた。2人がそれぞれに推理した結論が同じものだとしたら、それはかなりの確率で真実といえる。

 どちらが先にそれを口にするか互いに躊躇した。そして桐子が力強く頷いたのを見て、イリアが頷き返す。

「そうよ。最初から武器を使える人間が私達の中に混じっていた!」


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