第19話 奪うということ
望海からの思わぬ提案にヘレンは警戒するように眉を吊り上げた。
「ユー……どういうつもり?」
そう言って銃口を向けてくるヘレンの圧力に望海が慌てる。
「だ、だから、そのままの意味よ!」
それを聞いてヘレンはしばし考える素振りを見せる。そして銃口を下しながら尋ねる。
「組むって言ったわよね。でも何の必要があって?」
ヘレンが話に乗ってきそうだったので望海は意味深な笑みをみせる。
「あなた、あのモエって子達に狙われてるんでしょ?」
「ええ」と、ヘレンが頷く。
望海は試すような顔つきでヘレンに告げる。
「死んだわ……野乃花って子」
ヘレンは驚く風でもなく僅かに目を伏せた。
「そう……」
「あなたが撃ったんでしょ? その銃で」
その質問にヘレンは答えない。それが答だ。
望海はモエ達とのやりとりを思い出しながら続ける。
「先に言っておくけどアタシ達はあなたに何の恨みもないわ。モエって子に騙されてただけ。玲実ちゃんがあなたの居た小屋を撃っちゃったでしょ? 中にあなたが居るなんて知らされてなかったの」
ヘレンは顔を上げて望海の目をじっと見る。まるで真偽を確かめようとするかのような強い瞳で。
望海は、その強い視線にたじろぎそうになりながら謝る。
「ご、ごめん。悪かったと思ってるわ。でもね。ホントに知らなかったの。モエって子が隠してたのよ」
ヘレンはやれやれといった風に首を振る。
「そういうことね……分かった。嘘ではないようね」
望海はホッとしながら、なおも続ける。
「あなたがモエって子達となんで対立してるかは分からない。けど、あっちはあなたを殺す気でいるみたいよ」
「分かってる……それはミーも同じ」
あっさりと殺意を認めたヘレンの表情を見て望海は鳥肌が立つのを自覚した。だが、それは恐怖というよりは大変なことが起こっている時の興奮に似ていた。
望海はゾクゾクする感覚を抑えながら頷く。
「そう。だから組まないかって言ったの。だって1対3じゃ分が悪いでしょ?」
望海の言葉に対してヘレンは首を振る。
「ノー。わたしはひとりで戦う。これがあれば十分戦える」
そう言ってヘレンはライフルに目を遣った。
だが、望海にとってヘレンの反応は想定内だったようだ。
「分かってる。一緒に行動しようとは言わない。アタシには妹と玲実ちゃんが居るから。でも、情報交換とか援護ならできるよ?」
その言葉を吟味するようにヘレンは望海を観察する。そして呟いた。
「情報交換ね……」
望海は軽く頷いて先に情報を提供する。
「モエが斧、乙葉が散弾銃、それは知ってるかもしれないわね。で、もうひとりの詩織って子。あの子は鎌みたいな武器を持ってるわ。鎖がついてる鎌」
「リアリィ?」
「つまり3人とも武器を持ってるってことよ。どう? 敵の手の内が分かったでしょ?」
「ユー……なぜそれを教えてくれるの?」
ヘレンの問いに対して望海はすまし顔で答える。
「あなたに殺られて欲しくないからよ」
望海の言い方は自然なものだった。だが、ヘレンには、かえってそれが不気味なもののように感じられた。
それを察したのか望海は含み笑いを浮かべて尋ねる。
「あなたも見たんでしょ? 小屋の中の落書き」
望海が言っていることを理解してヘレンは無言で頷く。
それを受けて望海も頷く。
「そうよ。アタシも見たの。あと3人とか生き残るとか書いてあったでしょ? たぶん、あれはアタシ達より前に、ここで誰かが殺し合った時のものなんだよ」
その可能性については思うところがあったのか、ヘレンはハッとしながらも強張った笑みをみせた。
「ユーは怖い子ね……」
「ふふ。そんなことないよ。アタシは死にたくないだけ」
望海とヘレンは、しばらく互いの腹を探り合うように対峙した。そして、ヘレンが大きなため息をつく。
「じゃあ、行くわ」
そう言ってヘレンは望海に背を向けると山の方に向かって歩き出した。そこで思い出したように立ち止まって振り返る。
「そうだ。あの野乃花って子はいつ死んだの?」
「いつ? 時間は分らないけど……アタシ達と会った時はもう死んでた。たぶん、あなたに撃たれてしばらくしてからじゃない?」
「野乃花の武器は? ひょっとして槍なんじゃない?」
「さあ? それは分らないな」
「そう……だとしたら」と、ヘレンは顎に指をあてて少し考える。「たぶん、野乃花の武器は槍だったんだと思う。そしてそれは今、ミーの物になった」
それを聞いて望海が目を丸くする。
「え!? それって!?」
「ユー達も見たでしょ? 小屋が破壊された時に」
「そういえば……」
確かに玲実がグレネードで小屋を攻撃した時、飛び降りてきたヘレンは大きな槍で攻撃を仕掛けてきた。おそらく、ヘレンはそのことを言っているのだろう。
「情報交換」と、ヘレンは微かに口角をあげる。そして自らの仮定を口にした。
「殺した相手の武器は自分の物になる」
そう言いながらヘレンは右手で左肘の『痣』をポンポンと2回タップした。すると『スパァン!』という破裂音と共に光が広がった。
「なっ!?」と、望海が眩しさに顔を背ける。が、次の瞬間に驚愕した。なぜならヘレンが白くて恐竜の牙のような槍を持っていたからだ。さらにヘレンの左腕には丸い盾がついた防具のような物が装着されている。
「え? どこからそんなものを?」と、望海が戸惑う。
ヘレンは無言で槍を持ち上げると何度か振ってみせた。見た目は重そうだが、苦も無くそれを扱うヘレンを見て望海は理解した。
「2つ目の武器……殺した相手の武器が……」
その時、『ボンッ!』と槍が突然、消え失せた。腕の防具も消失した。そこで望海がまた驚く。まるで手品だ。
ヘレンは左肘と手首の中間にある『V字型』の痣を示しながら言う。
「これを2回叩くと短時間だけど別な武器が使えるようになるの」
望海は「信じられない……」と、まるでとんでもない発見をした学者のような顔つきで呟く。
しかし、ヘレンの表情は冴えない。
「この痣は、あの子を殺しちゃった時に出来たもの。これは罰なのかもね……」
ヘレンはそう言い残して茂みの中に消えて行った。
* * *
こうなっては別行動をとるのも止むを得ない。イリアはそう割り切って智世と桐子を連れて家の探索を続けた。3人ともそれぞれに思うところがあるらしく、会話は殆ど無かった。まるで工場のラインで与えられた作業を黙々とこなすように皆、機械的に探索を行う。
ちょうど4軒目の家に向かうところで桐子が心配そうに呟いた。
「けど、この先、やりにくくなるな……」
隣でそれを聞いた智世が黙って桐子の顔を見る。イリアは聞こえないふりをしているみたいだ。
桐子は独り言のように続ける。
「モンスターのことを考えたら戦力が分散するのはマズいよな。とりあえず、あの虎は倒したからいいんだけど……」
それを聞いて智世が首を振る。
「ううん。まだ居るよ」
「なんだって?」と、桐子が驚く。イリアも驚いた表情で智世の顔を見る。
智世は上目遣いで答える。
「さっきのサーベルタイガーは別。前にイリアちゃんと私を襲ったのとは違う」
イリアが真偽を確かめようとする。
「それは本当なの? あれが複数いるってこと?」
智世は断言する。
「うん。一頭じゃないよ。さっきのやつ。前にイリアちゃんがつけた傷が無かったでしょ。それに模様が違う」
瞬間記憶を持つ智世がそう言うのだからそれは事実なのだろう。だとすればサーベルタイガーは複数、存在することになる。
桐子が困ったように言う。
「そいつはマズいな。利恵達にも注意するように伝えないと」
しかし、そう言った桐子の袖を智世が摘まんで首を振る。
「言わなくていいよ」
「え? だって油断してると危険……」
その言葉の途中で桐子は絶句した。なぜなら智世の瞳がピジョン・ブラッドのルビーのように赤かったからだ。
「言う必要なんてない」と、智世は怒りに満ちた顔つきで言う。
桐子が困ったような表情で呻く。
「智世……でも……」
智世は強く首を振る。
「ダメ! あの子も同じ目に逢えばいいんだから!」
智世が言うあの子というのは和佳子の事だろう。サーベルタイガーから逃げる時に和佳子は智世を突き飛ばして犠牲にしようとした。おまけに智世が頼りにしているイリアを背後から攻撃しようとした。和佳子の卑怯ともとれる行動に対して智世は怒りを抑えきれないのだ。
智世は訴える。
「痛かったんだから! 死ぬほど。痛かったんだよ! 今でも感覚が残ってるぐらい」
結果的に傷は残らなかった。それは、動画の女の子が伝えようとしたように『武器以外では死なない』ということに他ならない。現に智世はサーベルタイガーの長い牙で喉を貫かれてしまったのに無傷で済んでいる。だが、その時の痛みは本物で、未だに思い出してしまうような感覚だという。
いつもは大人しい智世の激しい怒りに触れて桐子とイリアは戸惑った。
* * *
次に探索する家に向かう途中で『ぎゃあ!』と、和佳子が悲鳴をあげた。
「な、何!?」と、利恵が驚いて振り返る。見ると最後尾を歩いていた和佳子が倒れている。それは転んだというより押し倒されたような体勢だ。そして和佳子から離れていく物体。その状況を見て利恵は我が目を疑った
「嘘!? なんで? 倒したはずじゃ……」
それは今朝、遭遇したサーベルタイガーにしか見えなかった。だが、それはイリアが止めをさしたはずだ。なぜそれが今、和佳子を襲っているのか理解できなかった。
「ぎゃあっ!」と、和佳子が再び絶叫する。
それを合図にショックで固まっていた利恵が「今行くわ!」と、ハンマーを手に愛衣を押しのけてダッシュした。利恵は走りながらハンマーを振り上げてジャンプする。そして和佳子の足に噛みついているサーベルタイガーの頭めがけてそれを振り下ろした。が、サーベルタイガーが素早く身を引いたせいで交わされてしまう。
利恵は眼鏡がずり落ちそうになりながら「くっ!」と、着地した左足を軸に踏ん張り、ハンマーを半回転させて追い討ちをかける。だが、敵を捉えるには至らず、ハンマーのヘッドが虚しく空を切る。
「熱っ! 痛いっ! 焼ける!」と、和佳子は足を押えながら雪の上で悶え苦しむ。どうやら右足を噛まれたらしく激しく出血している。そのせいで雪が赤く染まっている。
利恵はサーベルタイガーを目で追いながらハンマーを握り直す。
「動きが速い……」
サーベルタイガーは利恵から距離を取って『グルル』と、威嚇してくる。そこに突っ込む利恵。振り下ろされるハンマー。それを避けるサーベルタイガー。ハンマーのヘッドはサーベルタイガーの居た場所に衝突する。まるでボールがストライクゾーンを通過してからバットが空を切るように利恵の攻撃はワンテンポ振り遅れている。
「あああっ!」という利恵の掛け声とスイングの音が騒々しいのに対し、サーベルタイガーは軽い身のこなしで音も無く利恵の突進を受け流す。
二度、三度とそれが繰り返された。
「もうっ! すばしっこいんだから!」
利恵は肩で息をしながらサーベルタイガーを睨みつける。そして今度は工夫して打撃をコンボで繰り出した。軽めに縦に振り下し、3歩前に踏み出して突きを繰り出し、それを横に振って薙ぎ払いを狙う。それでも掠りもしない。
「これでもダメなの……」
だが、利恵は諦めない。今度はフェイントを織り交ぜながら縦、横、回転と三連打を試みる。しかし、ことごとくその攻撃は交わされてしまう。
「なんで当たらないのよ……」
めげそうになりながら利恵はハンマーを短く持ち替える。そして大振りにならないようにコンパクトな振りで突っ込む。一歩でも深く、思い切り接近してミートを狙う。が、無情にも利恵の打撃はひとつもヒットしない。流石に利恵の息が上がってきた。
「ハァ、ハァ、どうすれば……」
そこに立ち上がった和佳子が加わる。
「くっそぉ! やったな!」
足をやられたはずの和佳子だがトライデントを手にサーベルターガーに向かって突っ込んでいく。
『ザンッ!』と、サーベルタイガーの足元の雪が抉られる。
和佳子は「うぁぁっ!」と、奇声をあげながら攻撃の手を緩めない。トライデントを振り回してサーベルタイガーを執拗に追い回す。その様子に呆気にとられていた利恵だが、直ぐに和佳子との連携攻撃を図る。利恵は怒りで我を忘れた和佳子の滅茶苦茶な攻撃をサーベルタイガーが回避する先を予測し、先回りして打撃を当てにいくことにした。
「きぇぇ!」「あああっ!」と、2人の叫びが幾度となく響いた。
何度も何度もチャレンジする。相変わらずトライデントの攻撃は当たらない。利恵のハンマーも当てることが出来ない。が、利恵は少しずつタイミングを掴みかけてきた。やみくもに攻撃を繰り出す和佳子に利恵が合わせようとすることで、ハンマーのヘッドが惜しいところを掠めるようになってきたのだ。和佳子も緩急をつけたりフェイントを入れたりと攻撃に変化をつけようとするのだがサーベルタイガーはあまりにもすばしっこい。
終りの見えない戦いにストレスが溜まる。
「死ねっ! もう! 死んでよぅ!」
そんな和佳子の一撃がやはり空を切る。だが、心が折れそうになりながら放ったトライデントの突きは引きが緩慢になった。サーベルタイガーはそこを見逃さない。
「あっ!」と、和佳子が気付いた時には遅かった。サーベルタイガーが懐に入り込んでくることを許してしまったのだ。
「ヤバッ!!」と、和佳子が身を引くよりも早く、サーベルタイガーが前足を掻き込むようにして爪を和佳子の顔面に引っ掛けた。
「ぎゃあぁああ!」
和佳子はトライデントを放り出して両手で顔面を押えた。引っ掻かれた箇所が焼けるように痛い。もはや立っていることが出来ないような痛みだ。
「和佳子さん!」と、利恵が援護に回ろうとするが、利恵の接近よりも早くサーベルタイガーは和佳子の頭に飛びつき、押し倒すと同時に牙を突き立てた。成す術も無く仰向けに転がされて喉を貫かれた和佳子は声すら出せない。窒息感と恐怖で気絶寸前だ。
残酷なシーンを目の当たりにした利恵の足が止まる。
「あ……ああ……」
膝から崩れ落ちてしまいそうな脱力感に利恵も戦意喪失してしまった。
「無理……私達だけじゃ……」
そう呟いて利恵が呆然としているところにサーベルタイガーの標的が変わった。サーベルタイガーは和佳子の首から牙を引き抜くと、ゆっくり利恵の方に向き直った。その口元には大量の血が着いている。それはサバンナで獲物を屠るライオンの口元を連想させた。その距離、わずかに数メートル。
利恵は覚悟した。唇を噛み、ぎゅっと目を閉じる。そして、あの獰猛な牙が今度は自分の身を無慈悲に貫くであろうことを想像した。
と、その時、『ザクッ!』という音が生じた。
「え?」と、利恵が目を開ける。その目には動きを止めたサーベルタイガーの姿が映った。だが、何か変だ。恐るべき敵は頭を上げ、天を仰いでいる。さらにサーベルタイガーの額に角が生えたように見えた。
「な……」と、利恵が戸惑う。一瞬、何が起こったか理解できない。が、よく見るとサーベルタイガーが痙攣している。そして断末魔のような呻きを発して大きく震えると和佳子の横に倒れ込んだ。
利恵が立ち尽くしていると背後で人の気配がした。
「何とか間に合ったみたいね」
それは愛衣の落ち着いた声だった。
「め、愛衣さん!?」と、振り返った利恵が目を丸くする。
「ごめんなさい。遅くなっちゃって」
そう言った愛衣の手にはボウガンが握られていた。
「愛衣さん……それは……」
「すぐ裏のところで見つけたの。どうやらこれが私の武器みたい」
利恵は改めてサーベルタイガーの額に刺さった物を凝視する。そしてそれが愛衣の放った矢であることを確認する。
「これを愛衣さんが……凄い」
「まぐれよ。そんなに離れてなかったし」
愛衣は謙遜するが、あれだけ苦戦した相手を一撃で仕留めたのは大したものだ。
「そうだ。和佳子さん!」
利恵は和佳子に駆け寄り、容態を確かめようとした。本来なら血まみれであろう和佳子の頭部や首筋に血痕や傷は無かった。武器でなければ死なないということを頭では分かっていても実際に目にするとどうしても違和感が拭えない。
「和佳子さん! 和佳子さん!」と、利恵は和佳子の頭を抱きかかえながら何度もその名を呼んだ。しかし、ぐったりとした和佳子は目を半開きにしたままで反応が薄い。完全に気力を失っている。
愛衣も心配そうに声を掛ける。
「和佳子さん、身体は痛む?」
その問いかけに和佳子は微かに口を動かす。
「まだ……痛い……ような気がする」
か細い声に利恵が不安を覚えて和佳子の顔や首を撫でまわす。だが、傷や穴は認められなかった。むしろ十代前半の女の子特有のすべすべした肌の触感だ。
しばらく3人はその場に留まり和佳子の回復を待った。サーベルタイガーの亡骸を放置したまま利恵も愛衣も無言で和佳子を見守った。危機は去ったにもかかわらず絶望的な空気は余韻を残して3人を黙らせた。雰囲気を変えるにも言葉が見つからない。やがてチラチラと雪が降り始めた。雪はまるで桜の花びらが散る時のように落下地点を探しながら宙を彷徨った。はじめはチラホラと、やがてその数は増え、人通りの多い交差点のように交錯しながら、雪は本格的にその密度を高めていった。
頬に雪を受けた和佳子がキリッと表情を引き締めた。
「悔しい……」
利恵に頭を抱かれながら和佳子はそう呟いた。
「そろそろ移動しましょう」と、愛衣が空の様子を眺めながら言う。
利恵は和佳子に肩を貸して立たせる。和佳子はすっかり落ち込んだ様子で、その動きは無気力なように見えた。
「悔しい」と、また和佳子が同じことを口にした。
「仕方がないよ……」と、利恵が言葉を返す。
「力さえあれば、あんな目に逢わずに済んだのに」
そう言って和佳子はサーベルターガーの亡骸に一瞥をくれた。
利恵もそれにならって亡骸に目を向けると小さく首を振った。
「私達の武器とは相性が悪かったのよ」
「だね……けど、あの能力があれば違ってた」
和佳子は能力という単語を口にした。
「え? 能力?」と、利恵が聞き返す。
「そっか。奪えばいいんだ。あの能力を」
和佳子は真顔でそんなことを言う。
「ちょっと和佳子さん。それって本気で?」
「そうだよ。敵の動きを止める目。あの能力が私のものになればいいんだ」
和佳子は明らかに智世の能力の事を言っている。それを察して利恵の顔が強張る。
「まさか……本当にそんなこと……」
能力を奪うということは相手を殺すということに他ならない。和佳子がどこまで本気でそう思っているのかは分からない。だが、その真剣な横顔には只ならぬ気配が宿っているように感じられて利恵は身震いした。それは決して本格的に降りだした雪のせいではなかった。




