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第17話 幾つかの仮説

 モエが駆けつけた時、パニックは既に収まっていた。しかしそれは良い意味で、ではない。むしろ逆だ。詩織と乙葉にはショックを通り越して泣き叫ぶ気力すら残っていなかった。2人は、まるで意識の底が抜け落ちてしまったように虚ろな表情でへたり込んでいた。

 モエは一目で事の深刻さを理解した。「しっかりせえ」という言葉が喉元まで出掛かったが、それは逆効果だと悟って堪えた。その代りに無言で草が凹んだ箇所を見つめた。そこにあったはずの野乃花の遺体は消え失せている。

「マジか……」

 やはりモエにも信じられなかった。目眩を覚えてモエが座り込む。それは丁度、緊張感が切れた時のガス欠に似ていた。急に疲れが出たこともある。

 野乃花の遺体が存在したはずの場所を囲んでモエ達は日が暮れるまで動けずにいた。ゆっくりと赤みを帯びた日差しは、見た目ほど熱を持たないオレンジの領域を急速に拡げて森の木々を彩った。そして今度は急にそれに飽きたかのように光の供給を止め、夜へとバトンタッチしようとしていた。

「寒っ……」

 ブルッと震えてモエが我に返った。相変わらず乙葉と詩織は呆けている。乙葉の泣きはらした目には生気がなかった。詩織は詩織で体育座りのまま一点を見つめている。

 モエは深く溜息をついて呟いた。

「野乃花どこいってん……」

 ふと、ある考えが浮かんだ。

「ひょっとして、あの石みたいにどっかワープしたんやろか……」

 しかし、乙葉と詩織の反応は無い。モエは独り言を続ける。

「せや。きっと、移動しただけや。どこかにあるはずや」

 それは願望に近かった。だが、不可解な事象が当たり前のように起こるこの島では死体が移動するということも有り得る。きっと想像もできないような力が働いて野乃花の遺体をどこかに運んでしまったのだろう。

 突然、乙葉がすっくと立ち上がった。そしてモエに向かって尋ねる。

「あの女は?」

 それはまるで無人の音楽室で鳴ったピアノの一音のように聞こえた。そのせいでモエの反応が遅れた。

「あ……ヘレンのことか。ゴメン。逃げられてしもた……」

 そう言ってモエは申し訳なさそうに乙葉を見る。

 乙葉はチラリとモエと目を合わせて無表情で呟く。

「それは良かった」

「え? なんでや……」

「この手で殺すから」

 乙葉の口から出た言葉にモエが「乙葉……」と、顔を強張らせる。

 ヘレンへの復讐心が唯一のモチベーションになること。それが危険なのはモエにも分かっていた。だが、今の乙葉を見ていると、モエにはそれを否定することは出来なかった。


   *  *   *


 今夜の根城にすると決めた家で6人は今日の成果について報告し合った。

 やはり雪に包まれているだけあって日が暮れると寒さが急速に空気を凍えさせた。空気だけではない。床や家具も触れる物すべてが冷え切っていて、それらはまるで見えない棘を纏っているように感じられた。それなのでストーブが1台ではとても足りなかった。他の部屋から運んできた2台を加えて、居間を締め切った状態でやっと普通に過ごせる。

「時々、換気しないとね」と、愛衣が注意を呼びかける。リビングは日本のそれよりは遥かに広い造りになっている。が、6人が籠ってストーブを3台も使っていては定期的に空気を入れ替えなければ身体に良くないと思われた。

 他人の家を探索して回るという慣れない作業に皆、相当疲れていた。食事もとっていない。そこで手分けして、今日の探索で調達した食料の一部を使って夕食にする。

「いい感じで焼けてきたわ」と、イリアがストーブの上で焼くパンを裏返す。カチカチの塊みたいなパンはナイフで切り分けるのが大変だった。まるでノコギリで日曜大工に挑むみたいに苦労した。

 イリアと智世が焼いたパンを主食にして、おかずは缶詰を幾つか開けて用意した。勿論、ラベルの文字が読めないので絵を見て内容物を推定するしかない。

 利恵が魚の切り身だと思われる絵がついたラベルの缶を開けて顔を顰める。

「なんだか油が凄いわね……体に悪そう」

 お皿に缶の中味を移して皆で囲む。オイルまみれの切り身、脂の乗りすぎている正体不明の肉、やたら白っぽい豆の煮もの、どの皿も食欲がわかないような見た目と匂いで皆、手を出すのを躊躇った。そんな中、イリアが魚の切り身に手を出した。彼女はスプーンでそれをすくうとパンの上に乗せて頷く。

「うん。こうやってパンに乗せればいいんじゃない」

 イリアが先陣を切って毒見をする。もともとポーカーフェイスの彼女だが、特に表情は変わらずモグモグと口だけが動く。その様子を周りのメンツが見守る。するとイリアは澄まし顔で感想を口にする。

「悪くない」

 イリアのコメントを信じて利恵と智世が真似をして魚の切り身をパンに乗せる。愛衣と和佳子は謎の肉をスプーンで切り崩してパンに乗せる。各々がそれを恐る恐る口にして、皆同じように小さく口をモグモグさせる。

 イリアは何ともないというように2口目を飲み込んで首を傾げる。

「何の魚だろ?」

 イリアの疑問に愛衣が答える。

秋刀魚サンマの燻製ね。塩味だから何にでも合うんじゃないかしら」

 こっそり別な缶を開けて味見をしていた桐子が変な顔をする。

「こっちはトマトソースっぽいぜ。さすがに秋刀魚にこれは……」

 利恵が呆れたようにいう。

「あら。そっちも開けちゃったの? これだけでも食べきれるかどうか分からないのに」

「ゴメンゴメン。まだこっちの方が食えそうだったからさ」

 そう言って桐子が申し訳なさそうに空いている皿に中味を移す。

 リビングのローテーブルを囲んで6人は質素な食事を取った。途中で和佳子が何かを思いついたようで、食料の中から板チョコぐらいのチーズを取り出した。そして「チーズも固いから乗せっちゃおう」と、それをストーブに乗せた。途端にチーズ特有の匂いが一気に広がる。

「うわっ! くっさ!」と、和佳子が慌ててチーズを取り上げようとするが熱くて触れない。

「ちょっ! 何やってんだよ!」と、桐子が紙を鍋用のグローブみたいにしてチーズを掴もうとするが、グニャリと曲がったチーズが垂れてストーブの上面にこびり着いてしまった。

「うわ! 取れねえ!」と、奮闘する桐子の隣で和佳子は鼻を摘まんでオタオタする。

 そこへイリアが無言で割って入り、手にしていたナイフでチーズをストーブから剥がした。

「おおっ!」と、桐子が目を細める。「相変わらず冷静だな。イリアは」

 そんな騒ぎがありながらも6人は何とか空腹を満たした。取りあえずお腹が膨れたところでイリアが紅茶を入れてくれた。

「ありがと」と、カップを取って口に近付けた利恵が目を輝かせる。

「あ。これ……とっても香りが良い」

 桐子が一口飲んで「おお! このミルクティは最高だね! 甘さが絶妙だ」と、絶賛する。

 愛衣が鼻をヒクつかせながら尋ねる。

「ひょっとしてお酒が入ってる?」

 それを聞いてイリアが頷く。

「ええ。ラベルは何て書いてあるか読めなかったけど多分ブランデー。本当は寒いからウォッカが良かったんだけど」

 その回答に桐子がクスリと笑う。

「いいのかよ。未成年が酒なんか飲んじゃって」

 それは優等生タイプの利恵に向けられた言葉だったが、当の本人は美味しそうにそれを飲み干すと澄まし顔で言った。

「おかわりくださる? ブランデー多めで」

 利恵のリクエストにイリアの顔が綻ぶ。

「了解。寒いからね。アルコールが入った方が温まる」

 皆で食後のお茶を楽しんでいる中、和佳子がスナックをボリボリ食べているのを智世が見て少し羨ましそうな顔をする。その視線に気付いた和佳子が「あげないよ……」と、目を逸らす。

 そのやりとりを見て桐子が苦言を呈する。

「和佳子。独り占めはよくないんじゃないか? それじゃ玲実達のことを責められないぜ」

 しかし和佳子はツンとして聞く耳を持たない。

「いいの。これは私が取り戻してきたんだから。だから私の物なの」

 桐子はやれやれと首を振る。

「お菓子食うぐらいなら缶詰残すなよ……」

 桐子の指摘は最もだ。皆、慣れない食べ物で我慢したのだ。それなのに自分だけ好きなスナック菓子を食べるというのは空気が読めないと言われても仕方が無い。しかし、和佳子は口を尖らせる。

「だってこれが無いと死んじゃうもん」

 和佳子の態度にイリアと利恵が露骨に不快そうな表情を浮かべる。愛衣は呆れてコメントする気にもなれない様子だ。あの大人しい智世でさえ不満気な視線を和佳子に送っている。そんな険悪な雰囲気の中で和佳子のスナックを噛む音がやけに大きく聞こえる。

 そこで桐子が雰囲気を変えようと例のビデオを取り出した。本当はテレビ画面に繋ぎたいところだがケーブルが無い。それになぜかこの家のテレビはブラウン管の古い型だった。そこで止む無くカメラについている小さな画面を皆で見ることにした。先入観が入らないように桐子は内容については一切触れず、「とにかく見てくれ」とだけ伝えて再生ボタンを押した。

 その映像を初めて見る利恵、愛衣、和佳子が並んで画面を注意深く見守る中、問題の動画が再生される。そしてラストの自傷行為を見て一同は黙り込んだ。映っていたのは知らない女の子とはいえ、自らの首を掻き切る少女の行動は見る者に衝撃を与えた。初見ではない桐子達3人でさえ直視することが躊躇われた。

 誰もが言葉を失っていた中、利恵が眼鏡の位置を直しながら口を開く。

「て、手品じゃないわよね?」

 しかしそれには誰も答えない。それがかえって真実味を与える。利恵は顔を強張らせながら続ける。

「ち、ちょっとショッキングな映像だけど……参考になるかも」

 そこで桐子が頷く。

「ああ。ボク達の知らなかったことを教えてくれてる」

 利恵が桐子の言わんとすることを理解して応える。

「この子に見覚えは無いけど、知らない名前が幾つか出てるね。つまり、私達より前にこの町を訪れてた子達がいるってことよね?」

 イリアが軽く頷いて答える。

「ミーコ、ハルちゃん、カナ、マキリン。そしてこの子と『あいつ』と呼ばれた人間。多分、それが残り6人の内訳ね」

「あ、『あいつ』っていうのは……」と、利恵が顔を曇らせる。

 愛衣が利恵の代わりに尋ねる。

「このビデオの子が殺されるって警戒してた子ね?」

 桐子は眉間に皺を寄せて頷く。

「ああ。あいつと言われた人間がこの子の仲間を殺して、残りの人間も殺そうとしているのが分かる」

私達を入れて残りは6人。このままではあいつに殺される。力を合わせないと無理だという台詞は、彼女達が置かれている切羽詰った状況を表している。

 そこでイリアがリュックから取り出した手紙を披露した。縦読みすると『早く助けて殺される』と読める例のメモだ。イリアは海岸で拾った小瓶にこれが入っていたことを説明したうえで推察する。

「これは恐らく助けを求める手紙。もしかしたらこの動画に出てきた人達の誰かが書いたのかもしれない」

 利恵は青ざめた顔で力なく首を振る。

「誰かが戦った形跡とかお墓とか……そういう意味だったのね」

 そう言って利恵は神社で見た光景を連想する。血の手形や壊れた狛犬、壁の穴や焦げ……あれは誰かと誰かが激しく戦った跡だったのだ。

 イリアは病院で発見したバリケードや破壊された機器、どす黒い血痕だらけの病室を思い出す。ただ、疑問もある。イリアがそれを口にする。

「でも、だとしたらお墓に彫られているのが何で私達の名前なんだろ?」

 利恵はしきりに眼鏡に触れながら首を振る。

「分からないわ。さっきの動画に出てた名前の子達は誰ひとりとして私達と同じ名前じゃない……」

 考察が行き詰ったところで桐子が話題を変える。

「ここで分からないのが『能力』ってやつだ。ボクは武器を持っていないから分からないんだけど、君達はどう?」

 桐子に尋ねられて利恵が「能力? 分からないわ……」と、考え込む。

 次に桐子はイリアと智世の顔を見て回答を求める。が、2人とも思い当たる節は無いようで戸惑っている。

 桐子は腕組みしながら言う。

「能力というのは特技みたいなものかな。智世の瞬間記憶みたいな?」

 それを聞いて愛衣が首を捻る。

「それは違うんじゃないかしら。智世さんの能力は生まれつきのものでしょ。多分、ここでいう能力は後付けで与えられるものなんじゃないかしら」

 利恵は自信なさげに口を挟む。

「断言は出来ないんだけど、それって武器を持つと能力が身につくってことなんじゃないかな。だって、あのハンマーを持った時の腕力……尋常じゃないもの」

 桐子が苦笑いを浮かべる。

「確かに華奢なキミがあんな重たそうなハンマーをブンブン振り回せるっていうのは未だに信じられないもんな」

 利恵はうつむき加減で告白する。

「それと、はっきりした自覚は無いんだけど、武器を持つと武者震いするっていうか、やらなきゃって意欲が湧いてくるっていうか、変に気分が高まるような気がするの」

 それにイリアが同調する。

「分かる。私も武器を手にした時に妙な高揚感を自覚した」

 桐子は智世に向かって尋ねる。

「智世は? やっぱり銃を持った時にそういう気分になったかい?」

 智世は驚いて首をブンブン振る。そして申し訳なさそうに言う。

「そんな余裕ないよ……持ってるだけで怖くって……」

 桐子は考える。そして降参した。

「ダメだ。やっぱり分からねえ。能力って何なんだ? おまけに奪うとか奪われるとか、さっぱり理解できねえや」

 そこで「そういえば」と、口を開いたのは和佳子だった。彼女はスナックを口に含みながら呑気そうに言う。

「なんか投げる力がついた」

 その言葉に利恵が驚く。

「投げる力? どういうこと?」

 和佳子はアヒル口で答える。

「あの鉾を投げる時だけなんだけど、凄く遠くまで飛ばせるんだよね」

 和佳子の武器はトライデントだ。重くて他の者には扱えない。だが、和佳子はそれをやり投げのように何十メートルも飛ばせるというのだ。

 愛衣は冷静に分析する。

「和佳子さんの能力は『投げる力』、利恵さんは『怪力』ってことかしら」

 桐子がそれを受けてイリアと智世を見る。

「となるとイリアと智世にも何らかの能力があるんだろうね……」

 そう言われてもイリアは困惑するしかなかった。武器を手にすることで得られる普通ではない力……だが、イリアにはそれを実感することは出来なかった。


   *  *   *


 山海荘の浴場で汗を流しながら望海が宣言する。

「アタシ、やっぱり自分の武器を探す!」

 隣で身体を洗っていた玲実がそれを聞いて言う。

「なんで? 大丈夫よ。私の武器があれば十分だと思うけど」

「いや。安心できない。あの小屋の落書き……アレを見ちゃったからね」

 望海はモエが立ち去った後、玲実が動けるようになるまでの間に縄梯子を使って小屋の中を見てきたのだ。ヘレンが籠城していた小屋はグレネードの直撃で床に穴が開き、室内には燃えた箇所があったが半壊までは至っていなかった。それなのである程度は中の様子を窺い知ることができたのだ。

 梢が身体を洗う手を止めて姉の横顔を見る。

「例の地図が書いてあったんでしょ?」

「うん。でもそれだけじゃない。『あと3人』とか『殺ス!!』とか書いてあった。それ見てぞっとしたんだよね。凄い怨念というか執念?」

「やだ、お姉ちゃん。『あと3人』、『絶対生き残る』っていうのは仲間が3人になっちゃったけど生き残りたいって意味なんじゃないの?」

「そうかなぁ。アタシは、あと3人も残ってるって意味だと解釈したけど」

「怖いこと言わないでよ……それじゃ、その落書きを書いた人は皆殺ししようとしてたってこと?」

「そうなんじゃない? あるいは殺し合ってたとか?」

 望海がさらりと口にした恐ろしい考えに梢は目を見開いた。

「殺し合い!? 誰が? 何のために?」

 梢は泡を流すシャワーヘッドを持ったまま身震いした。

 望海は泡を流しながら首を振る。

「さあ。それは分らない。けど、アタシ達より前に何かあったんだよ」

「誰かが殺し合ったなんて……映画とかドラマのセットじゃないの?」

 梢は恐々とそう尋ねるが、小屋で実物を見てしまった望海はすっかりそう信じている様子だ。

 そんな双子の会話を聞きながら傷ついたふくらはぎを慎重に洗っていた玲実が顔を上げる。

「皆殺しって……その殺人鬼がまだこの島に居る可能性はあるのかしら」

 玲実の疑問に望海が即答する。

「それは無いと思う。だって、そんなのが居たらとっくにアタシ達、襲われてるよ。だって油断だらけだもん」

 玲実がそれを受けて苦笑する。

「そうね。私達、緊張感が無さすぎよね。確かに殺人鬼が居たら最初に狙われるのは私達だわ」

 望海がドヤ顔で頷く。

「でしょ? だからもう居ないんだって。島を脱出したか自滅したかで」

 しかし、小心者の梢は安心できない。

「ホントにホント? 殺人鬼なんて嫌。ねえ、もう外に出るの止めよ?」

「なに言ってんの。アタシの武器がまだ見つかってないじゃない」

「もういいよぅ! お姉ちゃんの武器が無くても私と玲実ちゃんのがあるじゃない」

「それじゃダメなの! 絶対、要るの」

 その後に続く言葉を望海はあえて口にしなかった。本当は『アタシ自身が生き残る為に』というフレーズが続くはずだったが、梢と玲実の前でそれを言うことは適切ではないと思ったからだ。

 玲実が少し考え事をした後で何気なく言う。

「殺人鬼は居ないとなると、あの子は誰に殺されたのかしら……」

 それを聞いて望海が「あ!」と、何かを思い出す。

「どうしたの? お姉ちゃん」

「2日目の朝に殺された子! そうだった……」

 南風荘の惨劇が過った。2日目の朝に愛衣の妹分である敏美が何者かに喉を切り裂かれて殺害された事件。このように非日常的な状況下において、しかも誰も口にしたがらないのでこれまで思い出すことが無かったが、普通ならそれはとんでもない大事件だ。

 望海がうわ言のように呟く。

「誰が……何のために……」

 真剣な表情でしばらく考えていた望海の目が光る。

「明日、朝イチで確認しよう」

「え? 何を?」と、梢が怪訝そうに姉の顔を見る。

「あの旅館に行ってみる。気になることがあるから」

 そう言って望海は解決の糸口を見つけた名探偵のように考え込む仕草を見せた。そして自らの考えを口にする。

「もしかしたらこれは仕組まれたことなんじゃないかな?」

 望海の言葉に玲実が驚いて尋ねる。

「なぜそう思うの?」

「あの小屋の落書きを読んで大体のことは理解できた。それにね。お墓のこと。なんで位置がバラバラなんだと思う? あれってアタシ達の名前が刻まれてるようだけど、本当は前にここで死んだ人たちのお墓なんじゃないかな? アタシは落書きを見てそう思った。あの地図を書いた人は誰かが死んだ場所にバツ印をつけてた。それって殺し合いをした記録なんじゃないかなって思うの」

 望海の言葉に梢が怖がる。

「お姉ちゃんは怖くないの!? だって誰かが人を殺すんだよ?」

「うーん。でも、顔も知らない人達だからねえ。怖いも何も……」

 望海は他人事のようにそう言うが、玲実も真剣な表情で頷く。

「なるほどね。殺し合いか……冷静に考えれば私達と同じ目に合った人たちが居るってことよね」

 望海は確信めいた自らの考えにウンウンと頷く。そして立ち上がった。

「アタシの推理が合ってるかどうか……明日、確かめてみる!」


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