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第16話 誤算

 衝撃的な映像を見せつけられて桐子は身動きすることができなかった。口を動かそうとするが声が出ない。まるで酸素不足の金魚のように口をパクパクさせることしかできない。何とか深呼吸して、ようやく言葉を発する。

「そういうことだったのか……」

 桐子はそう言って無意識に自らの後頭部に手をやった。

 イリアが怪訝な顔で尋ねる。

「今ので何か分かったの?」

「ああ。思い当たる節がある。そうか。それであの時、ボクは……」

 桐子は2日目の出来事を思い出していた。島内を探索する際に山道から滑落して頭を酷く打った時のことを。

 桐子はイリアと智美の顔を交互に眺めながら告白する。

「実は、ボク、利恵達と山の探索に行った時に死にかけたんだ」

「えっ!?」と、イリアと智美が同時に声をあげる。

「崖から落ちたんだ。何か変な動物に突き飛ばされてね。それで後頭部を岩で強打したんだよ」

 桐子はサラリとそんな風に言うがイリアと智美は驚きを隠せない。

「そんなことが……」と、イリアが桐子の顔をまじまじと見つめる。

 桐子は何でもないといった風に首を竦める。

「あ、でも、結果的に何ともなかったんだよ。だから皆にも言ってなかったんだ。けどさ、ガツーンってきた時はマジで死んだと思った。目の前が真っ赤になってさ、火花が目の中に捻じ込まれる感じ。分かるかな? あ、ちょっと変な例えだね」

 イリアが顔を顰めながら尋ねる。

「どれぐらいの高さから落ちたの?」

「んーと。そうだな10メートルぐらいかな?」

「まさか!? それで無傷だったっていうの?」

 イリアは信じられないといった表情で桐子の顔をしげしげと見つめた。

「いやあ、その時は超ラッキーだったと思ったよ。ていうかそう思い込むしかなかった。だって確かに感じたんだ。後頭部が割れて血がドクドク出る感覚を。だからボンヤリと死ぬんだなって諦めてた」

 桐子はそう言ってビデオカメラに目を遣った。そして軽く頷く。

「でも、このビデオを見て理解した。なぜ、あの時ボクは助かったのか。つまりはそういうことだったんだ」

 イリアがぽつりと言う。

「武器でしか死なない」

 それはビデオメッセージで映像の子が最後に言った台詞だ。彼女は自らの身体を刃物で傷つけることでそれを立証してみせた。

 桐子はひとつ頷いてから呟く。

「すっかり忘れてたけど、ここは異世界なんだ……やっぱり普通じゃない。というか、もしかしたらボク達は既に死んでいるんじゃないか?」

 桐子はサラリとした口調でとんでもないことを言う。

 いつも冷静なイリアが珍しく動揺をみせる。

「死んでるって!? そんな……」

「い、いや、ゴメン。流石にそれは無いな。ちょっと突飛な発想だね」

 桐子は慌てて自分の発言を取り消した。だが、イリアと智美の表情は硬い。桐子の考えは少なからず2人にショックを与えてしまったようだ。

 空気を変えようと桐子が膝をポンと叩いて勢いよく立ち上がる。

「さ、次の家に行こうか。日が暮れるまでに出来るだけ多く回らないと!」

 そんな風に努めて明るく振る舞う桐子を見上げながらイリアと智世は不安そうに互いの顔を見合わせた。

 桐子がビデオカメラを手に首を竦める。

「これは他のメンバーにも見せておかないとね……」

 そう言って桐子がハッとする。

「待てよ! そういえば訳の分かんないこと言ってたよな? 能力とか武器を奪えるとか何とか……あれはどういうことだ?」

「さあ?」と、イリアは何か思い当たる節があるのか視線を逸らした。

「殺せば奪えるって確かに言ってたよな。なんだか嫌な予感しかしないんだけど」

 そう言って桐子は顎を触りながらツインテールを微かに揺らせた。


    *    *    *


 玲実は平静を装いながら、ゆっくりと矢倉に向かった。

 モエの指示は単純だった。普通にお喋りしながら矢倉の真下に行く。そして真上に向かってソレをぶっ放して逃げる。ただ、それだけだ。

 作戦内容を知らされていない双子は歩きながらよく喋った。流石に野乃花の死は少なからずショックだったが、矢倉にヘレンが潜んでいることを知らされていたのは玲実だけだ。

 望海は伸びをしながらボヤく。

「ふぁあ、久しぶりに運動したから疲れちゃった」

 梢が呆れ顔で言う。

「お姉ちゃん、運動不足だよ。それ」

「まあね。それは否定しない」と、望海はケラケラ笑う。

「私も足が疲れたから人のこといえないけど」と、梢も苦笑いを浮かべる。

 玲実はグレネードを小脇に抱えたまま周囲を見回す。

「それにしても変な所よね。この辺は人の気配が全く無いわ」

 その台詞は若干、取って付けたようなぎこちなさが含まれていた。自分でもそう感じたのか、玲実は口を真一文字に結んでスタスタと先頭を進んだ。それに遅れること、望海が呑気に考えを口にする。

「港町と同じなんじゃない? 人だけ消えちゃった、みたいな?」

 それに対して梢は小首を傾げる。

「どうして誰も居ないんだろうね。避難したのかな?」

「は? 避難て、何から?」と、望海が顔をしかめる。

 梢は少し考えてから首を振る。

「いや、何かは分かんないけど……火山活動とか地震とか?」

「火山? そんなのあったっけ?」

「無い……ね」

「地震も無いでしょ。それなら家具とか引っくり返って室内メチャクチャなはずだよ」

「じゃあ、怪獣。怪獣が出たから逃げたのかも?」と、梢は適当なことを言う。

「それこそ無いでしょ。まあ、変な生き物がいるらしいけど」

 そういって望海はモンスターの話を思い出して嫌そうな顔を見せる。

 そんな双子の会話を黙って聞きながら玲実は矢倉に接近する。そして小屋を見上げた。

「この辺で建物っていえば、これだけど……」

 玲実につられて望海と梢も上を見る。

「高いねえ」と、望海があんぐりと口を開く。

 梢が目を細めながら不思議そうに言う。

「なんでこんな高い小屋に住んでたんだろ? まさかこの辺、水没するのかな」

 望海が「まっさかあ」と、バカにしたように笑う。

「だって不自然だよ。きっと理由があるんだって」と、梢はムキになって言い返す。

 双子のやりとりをよそに玲実はぎゅっと唇を噛んだ。緊張してはいけない。心で自分にそう言い聞かせながら玲実ゴクリと唾を飲んだ。


 その頃、モエと乙葉は湿地帯の様子を伺いながら待機していた。

 いつでも飛び出せるように武器を握り締めて湿地帯への入口付近に身を隠す。

 モエが呟く。

「今のところ順調や。予想通りヘレンは撃ってこおへん」

 玲実達はヘレンと因縁が無い。玲実が何かをしない限りヘレンは攻撃してこないというのがモエの読みだった。

 乙葉はショットガンを抱えて唇を噛んでいる。その目には生気がみなぎっていた。野乃花の死に呆然としていた彼女が今こうしていられるのはヘレンへの復讐心かもしれない。

 モエが乙葉に声を掛ける。

「乙葉。冷静に……冷静に、やで」

 乙葉は無言で頷く。

「もうちょっとや。うまいこと一発で命中させてくれたらええんやけど……」

 モエが独り言のようにそう呟いたところで「ぎゃー!」という叫びが背後で生じた。ビクッとしてモエと乙葉が身を竦める。

「な、なんやねん?」と、モエが振り返る。

 その絶叫の主は詩織だった。野乃花の遺体に付き添っていた詩織が叫び声を上げたのだ。

 詩織はオタオタしながら泣き叫ぶ。

「野乃花ちゃんが! 野乃花ちゃんの身体が! 消えちゃった!」

 それを聞いた乙葉が血相を変えて走り出す。詩織に向かって一直線に向かう乙葉を見てモエが慌てる。

「ちょ、乙葉!」

 モエの制止も聞かずに乙葉は詩織のもとに駆け寄った。そして血の付いたシートがペタンコになっているのを見て両膝を地面に着いた。

「ああっ!」と、乙葉はシートに縋りつく。が、そこにあるはずの遺体は無かった。シートをめくるがそこには何も無い。押しつぶされた草があるだけだ。

 詩織は頭を抱えて恐怖に慄いている。

「わ、わか、分かんないよ! な、なん、なんなのよう!」

 2人の様子を見守りながらモエは迷った。野乃花の遺体が消えてしまったというのが事実ならそれは一大事だ。それにパニックに陥った2人を放っておくわけにはいかない。一方で作戦は佳境を迎えている。今まさに玲実達が矢倉の下で砲撃の準備にかかっているのだ。

「クソッ! タイミング悪すぎや……」


「これは見張り台なんじゃないかな」と、望海が腕組みしながら小屋を見上げる。

「でも、どうやって上るの?」と、梢が首を傾げる。

 玲実がその疑問に答える。

「たぶん梯子なんじゃないかな。今は無いみたいだけど」

 会話の途中で玲実はさりげなくグレネードの持ち方を変えた。そして無言で小屋の底を見上げてグレネードの砲口を向けた。

 それを見て望海が「え?」と、驚く。梢も玲実の行動を見てキョトンとする。

「ええい!」と、玲実がヤケ気味に引き金を引く。

『ボシュッ!』と、放たれた弾が白煙を引きずりながら小屋の床に向かう。そして当たったように見えた。間髪おかずに爆発が起こる。思ったよりも近くで爆発したので爆風と熱気、そして細かな破片が降りかかってくる。

「ギャッ!」と、望海が頭を抱えてしゃがみ込む。梢は口を開けたまま玲実の横顔を見つめている。

 当の玲実は頭を守りながら熱を孕んだ煙を浴びて「いやだ! もう!」と、顔を顰める。

 小屋の床がどうなったかは煙で確認できない。そしてやたら焦げ臭い。モエのリクエスト通りに撃つことは撃った。が、それで何がどうなったのかはまるで分からない。玲実は小屋を見上げながらぼんやりとしていた。と、その時、『ガタガタッ』と、上の方で音がした。そしてバッと何かが落ちてきた。

「キャッ!」と、玲実が飛び退く。それが縄梯子であることに気付いたところで上を見る。すると白っぽいものがキラリと光った。

「なにアレ?」と、玲実が目を凝らそうとすると、それは一直線に落下してきた。

「あっ!」と、玲実が危険を感じて距離を取ろうとする。

 そこに「あああっ!」と、いう絶叫と共にヘレンが落ちてきた。

衝突を避けようと反射的に玲実が身体を捩る。が、ヘレンは白い槍を突き立てるように落下し、玲実の足を掠めて地面にそれを突き立てた。

「ギャー!」と、玲実ではなく望海が絶叫する。

 玲実は驚愕しながらも、つい先程まで自分が立っていた位置に突き刺さった槍を見て怒りを沸騰させた。

「危ないじゃない!」

 玲実がヘレンに向かって叫ぶ。が、ヘレンは髪を振り乱して玲実を睨み返す。そして、素早く地面から槍を抜くと今度は突きの要領で玲実に襲い掛かった。

「ちょっと! 何すんのよ!」と、必死で交わす玲実。

「ああああっ!」と、さらに突きを繰り出すヘレン。避けようとする玲実。

 が、槍の先端がまさに玲実の胸を捕えようかといったところで『ガキン!』と、金属の衝突音が生じた。そのせいで槍の軌道が左に流れる。そして『バチッ!』というスパーク音が生じてヘレンが思わず槍を手放す。

「え!?」と、玲実が見ると梢が棍棒を両手で持って肩で息をしている。梢は電撃を出す棍棒でヘレンの突きを払ったのだ。

「ユー!」と、ヘレンが梢を睨みつける。だが、その手に槍は無い。足元にも落ちていない。

「あれ?」と、梢が拍子抜けしたような声を出す。叩き落としたはずの槍が消えてしまったことに驚いたからだ。玲実もヘレンの周囲を探すが、やはり槍は無い。確かに大きなトゲのような円錐状の槍があったはずなのだ。

 その隙にヘレンは走り出した。山の方面に向かって全力で走る。その背中にはライフル銃が見える。だが、玲実達にそれを追う気力は無かった。ただ呆然と走り去るヘレンの後姿を見守るしかなかった。

 そこに遅れてモエが走ってきた。

「クソッ! 遅かったか!」

 その言葉に玲実が我に帰る。そしてキッとモエを睨みつけて文句を言う。

「聞いてないよ!」

 玲実は足に痛みを感じていた。それはヘレンの上からの強襲で槍の先端が左足を掠めた時にできた傷のせいだ。

「なんなの? あいつ! てか、聞いてないって! どういうことよ?」と、玲実はモエに詰め寄る。

 モエは一瞬、バツが悪そうな表情を見せるが直ぐにいつもの顔つきに戻って答える。

「せやから撃ったら早よ逃げろ言ううたのに」

「そうだけど! 急に襲ってくるなんて聞いてない……」

 そう言って玲実は上目遣いで恨めしそうにモエを見た。

 モエが首を振る。

「やれやれ。まさかアンタらにまで攻撃してくるとはな。やっぱ、アイツは頭がおかしいで」

 望海がそれを聞いて顔を曇らせる。

「どういうこと?」

 そこでモエは自分達とヘレンの因縁について改めて説明した。きっかけは狙撃されたこと、南風荘を出る時のいざこざ、野乃花の死、そして矢倉の上下に分かれての銃撃戦。

 モエはヘレンの異常な攻撃性について淡々と述べた。だが、それを聞いて玲実が憤る。

「酷いわ! あの子がそんな風だなんて、何で先に言ってくれなかったの? それ知ってたらもっと警戒したのに! 黙ってたなんて卑怯よ!」

 そう捲し立てる玲実に対してモエも怒りを露わにする。

「誰が卑怯やて? そっちかてドラゴンのこと黙っとったやないか!」

 モエは玲実達がドラゴンの存在を知りながら秘密にしていたことを責めた。

 それについて後ろめたく感じていたのか玲実のトーンが下がる。

「そ、それは……次元が違うでしょ」

 2人に割って入るように望海がモエを非難する。

「とにかくアンタのせいだからね! 玲実が怪我したのは」

「知らんがな。悪いんはヘレンや」

「そりゃそうだけど」と、望海がモエを睨む。

 玲実は怒りを押し殺すように顔を上げるとモエに向かって宣言した。

「絶対に許さないから。このままじゃ私達もあの子に狙われちゃうじゃない。あなたのせいでメチャメチャよ!」

「よう言うわ! 交換条件の約束やんか。その後でどうなろうか知ったこっちゃないわ!」

 そう言ってモエが玲実を睨む。玲実も強く睨み返す。

 しばらくそんな対峙が続いたところで、ふとモエが疑問を持った。

「それにしても……なんでアイツが武器をもう1個持っとったんや?」

 モエの言葉に玲実が虚を突かれたように口を開く。

「は? それってどういう意味?」

 モエは首を捻る。

「いや……ヘレンの武器はライフル銃や。けど、アンタを攻撃した時には槍みたいなものを持っとった」

 そこで梢が口を挟む。

「武器は持ち主にしか使えないはずなのに?」

 梢の言葉を聞いて玲実と望海が顔を見合わせる。望海が「そういえば……」と、前置きしてポンと手を打つ。

「それは確かに変だわ! 墓に名前を書かれた子しか武器は使えないんじゃなかったの?」

「せやねん。そやから分からへんのや……」

 他人の武器は使えない。それはこれまでの経緯からいって確実なルールだと思われた。しかし、現にヘレンはライフル以外の武器を使っていた。さらに不思議なのは、恐竜の角のような大きな槍が突然、消えてしまったことだ。

 玲実は最初にヘレンが槍を突き刺した箇所に目を凝らした。そこには地面に穴が開いている。なので見間違いということはないはずだ。

 モエが溜息をつく。

「クソ……チャンスを逃してしもた」

 ヘレンを取り逃がしてしまったのは失態だった。矢倉を放棄させることには成功したものの居場所が分からなくなってしまったことは、かえって危険が高まってしまったともいえる。それにヘレンがライフル銃以外の武器で玲実を攻撃してきたという事実にモエは嫌な予感がした。

「せや! 詩織!」

 ふいにモエは思い出した。野乃花の死体が消えてしまったということを! 

 モエは玲実達を矢倉の下に残して駆け出した。

 しばらく走ったところで『ボシュッ!』と、背後で発射音が聞こえた。

「えっ?」と、振り返る間もなく、モエの左前方で小爆発が起こった。

「うっ!」と、モエが熱風を受けて顔を顰める。

 足を止め、振り返ってモエが怒鳴る。

「おいっ! どういうつもりや!」

 着弾した場所からみて当てようとしていないことは明白だった。だがそれは警告というより玲実の宣戦布告とモエは解釈した。

 グレネードを撃った玲実は、モエの問いには答えずに微笑を浮かべる。その隣で望海が中指を立ててモエを挑発している。

「あいつら……」と、モエは唇を噛んだ。

 恐らく玲実はモエのせいでヘレンに殺されかけたと決めつけているのだろう。それは否定できない。だが、まさかこんな形で抗議してこようとは……。

 モエは戦斧を強く握り締めた。そして怒りを押し殺す。ここで玲実達と一戦交えることも頭を過ったが、今は詩織達のことが心配だ。そちらを優先すべくモエは再び駆け出した。

 走り去るモエの背中に向かって玲実は冷たい視線を投げかけた。そして吐き捨てる。

「このままじゃ済まないわよ……」


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