第15話 ビデオメッセージ
森と砂漠を繋ぐワープ石による転送に興奮していた玲実だったが、モエが早足でどんどん先を行くので直ぐに音を上げた。
「超疲れた。もう無理。ちょっと休もうよ」
モエが振り返って溜息をつく。
「もうちょっとや。ホンマにすぐそこやで」
「ええ……じゃあ、せめてペース落としてよ」
「しゃあないな」
そういってモエは首を竦める。確かに焦っていたと自省する。玲実を連れてオアシスまで往復しても十分時間はある。それなのにヘレンに対する怒りにせき立てられていた。目的はただひとつ。玲実に武器を与えて、あの見張り小屋を攻撃させることだ。とはいえ、この我儘そうなお嬢様に言うことを聞かせられるのかとモエは内心、苦慮していた。交換条件とはいったものの玲実が約束を守るという保証は無い。うまくおだてながらコントロールするしかないのだろうが、こうやって2人で行動していても正直、あまり仲良くはなれそうになかった。
モエが歩く速度を緩めたので玲実はホッとして汗を拭った。
「暑いなぁ。砂漠って超暑いんだね。マジで参る」
「そらそうや。けど夜は冷えるんやで」
「ねえ。この辺は変なモンスターとか居ないよね?」
「モンスター? ああ、怪物のことか」
「さっきの森。あなた達、あの森の辺りをずっとウロウロしてたんでしょ。ドラゴンには遭遇しなかったの?」
それを聞いてモエが振り返る。
「え? 何でそれを?」
モエの反応に玲実が驚く。
「嘘? やっぱ居たの?!」
「ドラゴンか。確かにおうたで。けど、何でそのことを知ってるんや?」
「あ、いや……あの子がね。見たっていうか、絵に描いたっていうか……」
「知っとったんか!」
モエは立ち止まって大きな声を出してしまった。玲実はあの森にドラゴンが居ることを黙っていたのだ。なぜ教えてくれなかったのかと言いたい気持ちをぐっと堪えてモエは背を向けた。そして再び歩き出す。そのまま会話も無く2人は目的地へ向かった。
モエが前方を見ながら言う。
「ほれ。あそこに岩と緑が見えるやろ。あそこがオアシスや」
それを聞いて玲実は急に元気になる。
「ホント? やった!」
玲実はモエを追い越してオアシスに向かって走っていく。その後姿を眺めながらモエが呆れる。
「なんやねん。めっちゃ元気あるやんか」
玲実はオアシスに到着すると岩の近辺で武器を探し始めた。そこに遅れてモエが到着する。玲実は不満そうな表情でモエに尋ねる。
「なによ。無いじゃん。私の武器はどこ?」
「心配せんでええよ。ちゃんとあるから。それより約束、忘れてへんやろな」
「……分かってるわよ」
「なら、ええんやけど。アンタの武器やったら水の中に沈んどるで」
そう言ってモエは細長い水溜りを指差した。
玲実がキョトンとして水溜りとモエの顔を交互に見る。
「え? マジで。あれって深いの?」
「いや。そうでもない。一番深いところで腰の辺りぐらいやな」
「ヤダ。濡れちゃうじゃない」
「大丈夫や。すぐ乾く」
玲実は自らの服装と水面を見比べて少し考える。そして「もう!」と、言いながらその場で服を下だけ脱ぎ捨てた。そして下だけ下着姿になってから水に入る。
「意外とぬるーい」
玲実は子供のように嬉々として足で水を跳ね上げる。そして、しばらく足先で水を掻きまわしながらモエに聞く。
「ね、どの辺?」
モエは水には入らずに玲実の行動を見守っている。
「真ん中へんや。水が透き通っとるから直ぐ分かるはずやで」
「ええ~ 一緒に探してよう」
「いやや。自分のやろ。自分で探しいな」
「なんだ。ケチ」
玲実は口を尖らせながら水溜りの中央に向かって進んだ。確かに水は綺麗なのだが水底の砂が舞い上がって直ぐに足元が濁ってしまう。玲実は慎重に足を運びながら目的物を探す。そして黒い物体を見つけた。
「あ! これかな?」
水中から引き揚げた物体を確認して玲実は妙な笑いが出てしまった。
「何これ? 銃?」
それは丸い大きな回転式チャンバーが特徴的な『ダネルMGL』というグレネードランチャーだった。短い銃身にはグリップが垂直についている。銃床は太くて短い。その為、ライフル銃などと比較してずんぐりむっくりしているように見える。その分、火力はありそうだ。色は白く塗られていてグリップやストックに金細工が施されているが、その重厚なフォルムは華麗さとは程遠い。
玲実は武器を手に水から上がって一息つくと、早速それを構えてみた。しかし、その短すぎる構造と持ち難さから構えを安定させるのに四苦八苦した。そしてようやく左手でグリップを握り、本体を右の腰に接触させるように抱えるスタイルで落ち着いた。
「なんか恰好悪~い」と、玲実が情けない顔をする。
「どや? 重ないか?」
「ううん。意外とイケる」
「そっか。ほな、あっち向けて撃ってみ」
言われるままに玲実は大きな岩の方向を向いて右手をモゾモゾ動かす。
「うん。ええっと。こうして……引き金を……」
玲実が不器用に引き金を引く。すると『ボシュッ!』と、尾を引くような破裂音がしてグレネードが炸裂した。その反動で「きゃっ!」と、玲実が尻もちをつく。そして狙った先の大きな岩で爆発が起こった。それはさほど大きな炎を伴うものではなかったが、耳をつんざく音と拡がる黒煙の勢いはまるで小さな爆弾のようだった。
腰を抜かした状態で玲実が目を丸くする。
「ヤバイ……ヤバイって。何コレ? 超ヤバくない?」
撃った本人が一番、驚いている。
驚愕しながらもモエは顔が綻ぶのを押えられない。
「思ってた以上の威力や。これならあの床を打ち抜ける……」
玲実は玲実で念願の武器が手に入ってご満悦だ。立ち上がって鼻息も荒く宣言する。
「2発目行くよ!」
そして今度はしっかりと姿勢を維持して『ボシュッ!』という反動に耐えながら2発目を放った。が、弾は狙った場所から若干、逸れた。その弾道は煙の軌跡で判別できた。
2発目の爆発音を聞いて玲実は「うーん。惜しい」と、唸った。そして「もう1回!」と、引き金を引く。が、弾は発射されない。
「あれ? 何で?」と、玲実が首を捻る。
それを見てモエが笑う。
「連続では撃てへんはずや」
「え? どういうこと?」
「多分、それは1発ずつしか撃てへん。弾は要らんけど、次に撃つには13秒間、待たなあかんのやで」
モエの説明を聞いて一応、仕組みは理解したようだが玲実が妙な顔をする。
「弾が要らないのはいいけど……どうなってんの?」
「さあな。ウチにも分からん。けど、乙葉のも、あの人殺し女の銃も同じ仕組みやから、そういうもんなんやろ」
「ふうん。変なの」
「よっしゃ。そしたらもう少し練習しとこか。取りあえず真上に向かって撃つ練習や」
モエはそう言ってニヤリと笑った。
* * *
雪に覆われた町は音に乏しかった。まるで雪が貪欲に音を吸収してしまったかのように町は言葉を失っていた。自らが踏み込む足元で雪が押しつぶされる音が切ない。それは小動物の鳴き声のように聞こえた。
二手に分かれての民家探索は順調に進んだ。利恵をリーダーとした和佳子、愛衣のチームは並び順に家を回り、少しずつ食料を調達することに成功していた。とはいえ、他人の家を荒らすのは気が引ける。特に委員長気質の利恵にとって、それは略奪行為のように野蛮なもののように感じられた。利恵は家に入る前に深くお辞儀をして、出る時も同じように一礼して「ごめんなさい。ありがとう」と、付け加えた。そうすることによって罪悪感と折り合いをつけようとしているのだろう。また、家に入る時には靴に付いた雪や泥を丁寧に取り去ってから極力、床を汚さないように気を遣った。
一方、イリア、智世、桐子の組は回る家が重複しないように利恵達の順路と並行する形でひとつ道を隔てた並びの家を探索した。こちらの組はイリアが食料調達に的を絞ってテキパキと探索を進めるので、一軒当たりの所要時間は短い。ただ、不思議なことにどの家も自由に中に入ることが出来た。たまに鍵が破壊された扉があったが、それについては桐子が推察する。
「マリーセレスト号事件と同じだ。きっと人間だけが突然、消え失せたんだよ。だから鍵もかかってなければ作業途中のものが放置されてるんだよ」
確かに奇妙な痕跡は至る所で見受けられた。例えば、ある家では箒とチリトリが部屋の真ん中に放り出されていた。それもゴミを一か所にまとめて、あとはチリトリに移すだけの状態で、だ。なぜそこで止めたのかと問いたくなるような痕跡は至る所で見受けられた。室内干しの途中であろう洗濯籠、食べかけの皿が並ぶ食卓、作業途中と思われるデスクなどなど『人だけが消えた』という桐子の説が正しいのではと思わせる状況が幾つも存在する。
何軒目かの家で桐子が室内を見回しながら呟く。
「やっぱ、ロシア……なんだよな」
室内装飾はさほど変わったものではない。外国映画などでよく見かけるものと大差は無い。ただ、こういった類の背景はアメリカのものでも欧州のものでも大きな違いは無いように思える。それはどこの国を舞台とした映画と聞いて初めてそうなのかと認識する程度だ。桐子はリビングのローテーブルにあった雑誌を手に取って眺めた。そこに印字されている文字はアルファベットではない。
「ロシア語か……」
桐子はやれやれといった風に首を振って溜息をついた。そこにイリアと智世が戻ってくる。
イリアは手にしたパンのようなものを見せて首を竦める。
「焼けば何とか食べられそう」
智世がその横で強張った笑みをみせる。
「た、たぶん、もともとこういうパンなんじゃないかな」
桐子は受け取ったパンをしげしげと眺める。
「堅ってえな! こりゃ切るのにノコギリが要るな」
それはパンというにはあまりに異質なものだった。円盤型のそれは顔ぐらいの大きさがあって厚みも十センチ位だ。しかし、全体を覆う焦げ目は焼きすぎのような気がしたし、表面の固さはとても食べ物だとは思えない。
「まさかこれだけ? この家、他に食料は無かったのかい?」
「いいえ。あるにはあるんだけど……」
イリアが何か腑に落ちない様子なので桐子が尋ねる。
「だったら、何でそんな顔してるんだよ?」
イリアは腕組みしながら答える。
「荒らされた跡があった。今まで見た家も多分そうなんだと思う」
「そう言われてみればボクも違和感を感じてた」
「恐らくは私達と同じ目的で」
イリアの言葉に「うん」と、智世が頷く。
「なるほど。そういえば入口のカギが破壊されてた家があったよな。てことはボク達より先に誰かが……」
イリアは桐子の目を見ながら説明する。
「問題はそれが誰なのか……まだ、この島に居るのかもしれない」
それを聞いて桐子がぎょっとする。
「なっ!? そ、そんな……ボク達だけじゃないってことか?」
智世はイリアの横顔を見ながらオドオドしたように口を挟む。
「も、もしかしたら仲間かも? 会えれば協力し合えるんじゃない?」
が、イリアは否定的だ。
「友好的とは限らないわ。仮に生き残りが居たとしても」
「ちょっ、それはどういう意味だよ?」と、桐子が目を丸くする。
イリアはチラリと窓の外を見ながら自分の考えを口にする。
「生き残りが居る可能性は低いと思う。なぜなら、もし誰か残っているなら港町に居るはずだから。少なくともこんな寒い所には潜伏していないと思う」
桐子が顎に指を当てながら感心する。
「それは一理あるな。この島ではあの辺が一番、過ごし易いだろうからね」
智世のスケッチブックに描かれた地図によると、この島は大きく4つの領域に分類される。ひとつめは港の民宿街からこの雪の町に繋がるトンネルまでの部分。これは日本のどこかの島と考えられる。2つ目はこの雪が積もる町。3つ目が湿地帯や森のあるゾーン、そして4つ目が何も建物らしきものが存在しない地帯だ。ここはモエ達しか訪れていないので砂漠地帯であることをイリア達は知らなかったが、建物を表す四角がひとつも描かれていないことから長期間滞在するには不適切であることは予想できた。
イリアは神妙な顔つきで続ける。
「あまり考えたくはないことだけど。前にここに来た誰か……いや、誰かさん達と言ったほうがいいかな。その人達は全滅したか無事に島を脱出したか、どっちかだと思う」
そこで桐子が息を飲んだ。『全滅』という単語に思い当たる節があったからだ。智世は話の深刻さについていけずに戸惑っている。
桐子はイリアが自分と同じ考えを持っていることに安心しながらも苦笑するしかなかった。
「同感だね。ボクの考えもそれに近い。恐らくは、この島で誰かが争い合った。いや、殺し合ったと言ったほうが正確かな」
イリアも桐子の考えに同意する。
「そういう形跡があちこちにあるのは、その証拠ね。みんなモンスターにやられた可能性もゼロではないけど」
「ああ、その線もあるか。ヤバイのがいるからね。この島には」
桐子の台詞を聞いてイリアが何かを思い出す。
「あ、そうだ。みんなには言ってなかったんだけど。実はこういうものを見つけたの」
イリアはそう言ってリュックのサイドポケットから小さな紙切れを取り出した。桐子がパンをテーブルに置いてそれを受け取る。そしてそこに手書きされた文面に目を走らせる。
<はじめてのキャンプ。女の子だけで不安だったけど
やればできるじゃん!海辺のバーベキューは、おに
くがこげちゃったけど、食べれないわけじゃないし
たまには外で食べるのも悪くない。食後はわたしの
すきなカステラをデザートにしたかったけど残念!
けっきょくパイナップルになっちゃったんだ。みぎ
てにはケータイをずっと持ってたんだけどやっぱり
ここには電波がきてないんだよね。マジありえない。
ろく人の子が彼氏を地元においてきてたからホント
さみしそうだよね。つらいよね。せめて声だけでも。
れんらくできないならけいたいの意味ないじゃんか。
るすでんだらけになってても困るよね。帰ってから。>
桐子は変な顔をしてそれを読んだが直ぐに気付いた。
「これは! ひょっとして縦読み?」
イリアが頷く。
「うん。改行が変だし漢字の使い方も不自然でしょ。それに『6人』を平仮名で『ろく人』だなんて普通は書かない」
桐子は文字の先頭部分を読み上げる。
「早く助けて殺される……やっぱり何かあったんだな」
智世が上目遣いで言う。
「誰が書いたものかは分からないの」
桐子は眉間に皺を寄せて唸る。
「うーん。女の子だけでキャンプか。ボク達と境遇は似てるといっちゃ似てるんだけど」
イリアと智世は桐子の反応を見ている。桐子は首を竦めながら尋ねる。
「キミ達、これをどこで?」
それにはイリアが答える。
「海岸で見つけたの。瓶に入って海に浮かんでた。恐らく、外部の人間に助けを求めたものだと思う」
桐子が唸る。
「ううん。分からないな。今時、小瓶に詰めたSOSとか……不確実にも程がある。でも、それだけ追い詰められていたってことか?」
イリアが首を傾げる。
「それに何で暗号みたいな書き方なのかしら? 助けて欲しいなら『誰か助けて殺される』でいいと思うんだけど……」
桐子はさらに考えを巡らせる。
「少なくともこれを書いたのはボク等15人の誰かではないね。ということは、やっぱりこの島でとんでもない事が起こったんだ」
イリアは桐子に考えを求める。
「島の住民が襲われた可能性は?」
「どうだろう。第三者がこの島を襲ったという可能性もゼロではないね。ただ、何のメリットも無いような気もする。となると、この変な島でボク達より前に居た人間が争ったか、その中の誰かが仲間を襲ったかと考えられるね」
イリアは、なるほどといった風に頷いてさらに質問する。
「争うとしたら原因は何?」
「何って、それは食べ物……」と、そこまで言いかけて桐子はハッとした。
イリアは答えを持っている。そのうえで確かめる為に桐子に質問したのだ。桐子はその表情を見て悟った。
「そうか……それでキミは不思議そうな顔をしてたんだね? 分かったよ。つまり、食べ物が原因ではない。なぜなら食料が原因で奪い合ったのなら何で食料が残されているか説明がつかないからね」
桐子の答えにイリアが大きく頷く。
「ええ。そもそも民宿の売店に食料があった時点でおかしいと気付くべきだったわ。私達より前に、この島で誰かと誰かが戦った。そして、その原因は食料争いではなかった」
桐子は頭を抱える。
「ああ嫌だ。考えたくも無いね。理由が分からない。武器やお墓の存在。戦った痕跡。誰がそんなことを……」
桐子はそう言ってソファに勢いよく座った。そして疲れ切ったような顔で目を閉じた。その横に智世がちょこんと座る。彼女もまた不安に押しつぶされそうな顔つきで目を閉じた。そんな2人をよそにしばらくリビングを眺めていたイリアが「あれ?」と、何かを見つけた。
「これは……」と、イリアはボードの上にあったビデオカメラに手を伸ばす。それは少し古い型のものだ。
ソファの桐子が声を掛ける。
「何か使えそうなものがあったのかい?」
イリアはビデオカメラを持ってソファの2人に向かって言う。
「これ。日本製だよ」
「え?」と、桐子がキョトンとする。
ロシア製品で占められる部屋に日本製のビデオカメラがあるのはおかしいとイリアは思ったのだ。イリアはカメラのボタンを確かめながら少し巻き戻して再生ボタンを押した。そしてカメラ側面の小さな液晶画面に映し出される映像を確認する。
『……えっと……あれ? ちゃんと映ってるかな』
カメラのスピーカーから流れてきた日本語に3人が色めき立つ。
「ちょっ! これって!」と、興奮する桐子をイリアが「しっ!」と、制する。そして3人で小さな画面を覗き込む。
そこに映っていた女の子は知らない子だった。15人のうちの誰でもない。年齢はイリア達と同じぐらいだが、黒髪セミロングのキレイ系の女の子だ。どこかの学校の制服にベージュのハーフコートを羽織っている。その女の子は自撮りで動画を撮影しようとしているらしい。
『よし。じゃ、さっそく……』
映像の女の子はひとつ咳払いをしてカメラ目線で語りだした。
『ミーコ、ハルちゃん。これを見てくれたらいいんだけど。とにかく、分かったことを伝えるね』
「ミーコって誰?」と、桐子が顔を顰めるがイリアと智世は画面に集中している。
動画が撮影された場所はこのリビングに違いない。ボードにカメラを置いてそこの壁を背に撮影したものだ。
映像の子は悔しそうに首を振る。
『やっぱり殺すと能力を奪えるみたい。その証拠に、あいつ……カナやマキリンの能力を使ってた。てことは武器だけじゃなくって特殊能力も移るってことなんだと思う』
映像の子の言葉に3人は何を言っているのかさっぱり理解できないという表情で画面を見つめる。
『ねえ。もう私達を入れて残り6人だよ。このままじゃ、あいつに殺される。力を合わせないと無理』
映像の子は泣きそうな顔でそう訴える。そして一呼吸置いてから背筋を伸ばすと手にしていた刃物のようなものをカメラに向けた。
『それと大事な事。見てて』
何をしようとしているのか? イリア達は食い入るように画面を見つめる。そんな中、映像の子は手にした刃物を無言で自らの首にあてがった。
「え? な、なにを……」と、桐子が目を見開く。
智世は手で口を押えて泣き出しそうな顔をしている。
イリアは険しい顔つきで映像に集中している。
そうこうしている間に、映像の子はカメラを見据えたまま刃物をぐっと自分の首に突きたてた。『ウッ!』と、短く喚き声を発し、そして刃物を横にスライドさせる。刃物の動きに合わせて彼女の首から血が飛び出す。
「ひえっ!」と、桐子が悲鳴をあげる。智世は画面から顔を逸らす。イリアは唖然としながらも画像に釘付けだ。
それは凄惨な映像だった。十代前半と思われる少女の首切り動画。それも自分で喉を掻き切るという衝撃的な場面だ。だが、映像の子は倒れない。相変わらず厳しい目つきでカメラに向かっている。やがて血が止まった。というよりも白い首筋に刻まれた赤のラインがすっと消えていく。さらに真っ赤に染まっていたはずのブラウスが元の色に変色していく。まるでフェイクのようだ。確かに彼女は刃物で自らの喉を切りつけた。しかし、その痕跡はあっという間に消えてしまった。
「どういうこと?」と、イリアが呟く。
その声で智世が薄目を開けて映像を見る。そして驚愕する。
「え? なにこれ? 確かに切ってたよ。この子……」
智世の瞬間記憶をもってしても先程の首切りにトリックは発見できなかった。
そして映像の子は両腕をブランと下げながらカメラに向かって言った。
『見たでしょ。これもこの世界の特性。武器でしか死なない。傷つかない……』
その表情は真剣そのもの。そのくせその目は絶望的な眼差しだった。




