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第14話 交換条件

 突然の高熱と息苦しさでヘレンは気を失いそうになっていた。

「熱い……熱い……」と、うわ言のように体の不調を呪った。

 何の予兆も無くそれはやってきた。モエ達との交戦を終えてしばらくしてからのことだ。モエの姿を見失ったところで一休みしていると立ちくらみの症状が出てヘレンは小屋の壁にもたれ掛かるように座り込んだ。激しい銃撃戦ではあったが身体はどこも傷ついていない。怪我をした覚えも高熱の原因となる病気にも心当たりは無かった。それなのに全身がだるく、身体の芯から発熱するのを自覚した。

「熱い……ああっ……アウッ……アゥッ……シット!」

 息が上がる。目が回る。見張り小屋の中は真っ暗なのに時折、視覚に白のフラッシュが混じった。どれぐらい苦しんだだろうか。それほど長い時間ではない。気が付くと発熱はあっさりと収まっていた。

「何なの……」

 あの高熱は何だったのか? 発熱に伴う関節の痛み。身体の節々にその余韻が残っている。だが、目眩はもう無い。尋常ではない汗で濡らされたTシャツが身体に張り付いている。着替えるかどうか迷った。そしてふと目にした左腕の痣に気付いた。

「え?」

 手首から肘の中間地点に見覚えの無い痣がついている。場所が腕の外側なので肘を曲げてよく観察する。擦っても取れないことから汚れではない。

「火傷? なんで?」

 形は『V』の字に見える。右側が若干長い。アルファベットの小文字のようでもあり『レ点』のようでもある。

「痛くはないけど。なんだろ? これ……」

 そう呟きながら何気なくポンポンと2回、その部分をタップしてみた。と、次の瞬間、目の前に光が広がった。併せて『スパァン!』という破裂音も。

「ウッ」と、ヘレンは思わず顔を背ける。と、そこで『ガコッ』という鈍い衝突音が間近で生じた。

「ホワット?」

 見ると光は消え失せていた。室内は元の暗闇に戻っている。ヘレンが目を凝らすと彼女の青い瞳が白く変化する。そうすることでヘレンは暗視できるようになるのだ。そんなヘレンの目に映ったのは見慣れない物質だった。

「これは……武器?」

 そこにあったのは槍のようなものだった。突然、現れた武器にヘレンは戸惑った。そして恐る恐る手を伸ばす。が、次の瞬間、それはフッと残像を残して音も無く消え失せた。

「なっ!?」と、思わずそれがあった場所を撫でまわした。だが、何の痕跡も無い。見間違いかとも思った。そこで試しにもう一度、左腕にできた痣に触れてみた。だが、何も起こらない。ポンポンと2回叩いてみても結果は同じだ。

 さっきのは何だったのだろう?

 しばらく思いを巡らせてみる。が、疲れが眠気を誘う。やがてヘレンは考えることを諦めた。そして壁にもたれ掛り、天を仰いだ。

「アイム、ベリー、タイアド……」


   *   *   *


 遠回りに遠回りを重ねてモエはようやく湿地帯を抜けることができた。

 見張り台からの狙撃を警戒して湿地帯を囲む木々の隙間を縫うように進み、時にほふく前進を強いられながら乙葉達の居る反対側の森に到達した。もはや泥だらけなのも切り傷だらけなのも気にならない。夜が明けるのは2、3時間後だろう。が、とにかく野乃花の容態が心配だった。暗闇に目が慣れているので小走りで茂みに沿って野乃花達が居るはずの場所に急ぐ。

 湿地帯への境目である少し開けた場所に人影が認められた。

「野乃花!」

 返事は無いがモエは走る速度をあげてその場所に到着した。が、直ぐに足が止まった。というよりも只ならぬ雰囲気に勝手に足が止まってしまった。

「あ……」

 モエが言葉を失う。野乃花は仰向けで横たわっている。その傍で乙葉は女の子特有の内股座りで捨てられた人形のように呆然としている。少し離れた所で体育座りの詩織が膝に顔を押し付けて嗚咽を漏らしている。

「嘘やろ……」と、モエの口元が引きつる。

 モエの目に野乃花は眠っているようにしか見えない。だが、他の2人の様子が最悪の状況を物語っていた。

「野乃花……野乃花?」

 モエは、もつれる足に苛立ちながら野乃花に近付いた。そして倒れ込むように膝を着き、野乃花の顔を覗き込む。

「おい! 野乃花! しっかり……」

 伸ばした手。その指先に触れた最初の冷たい感触がモエを絶望させた。

「あ……ああ……なんでや……」

 モエの目から溢れ出た涙が泥だらけの頬をなぞった。

「嘘や……こんなん嘘や……」

 モエは野乃花の亡骸に縋りついて泣いた。そして生まれて初めて触れた死体の冷たさに震えた。

夜の森はどこまでも寡黙で理不尽に空気を縛り付けた。そこに言葉にならない乙葉の呟きがポツリと現れた。

「……ろそ」

 モエが「え?」と、顔を上げる。

 無表情な乙葉の口からは呪いの言葉が吐き出される。

「殺そ……火……つけて……殺そ」

 乙葉の目は死んだ魚のように見えた。まともな精神状態ではない。マズイと思ってモエが乙葉の両肩に手を置いて揺さぶる。

「乙葉! しっかりしい!」

 その言葉は自らを鼓舞する目的もあった。このような状況で自分がしっかりしなければという責任感がモエを駆り立てた。

 それに対して乙葉は何か悪だくみを思いついたようにニヤリと笑った。

「火を点ければいいんだよ。あの見張り台。燃やしちゃえばいい」

 乙葉の言葉にモエが驚愕する。

「な、なんやて?」

 乙葉はモエの顔を眺めながら淡々とした口調で説明する。

「ガソリンがいい。あの小屋にあったっけ。無ければ民宿に戻ってみればいい。とにかく燃やしちゃえばいいんだよ。全部燃えなくても煙が出るからアイツを焙り出せるよ」

 そんな恐ろしい計画を無表情に語る乙葉は完全に壊れていると思われた。モエは下手に刺激しないように乙葉の言動に合わせる。

「分かった。それは後で考えよ。とにかく冷静になろうや。な?」

 モエの説得に乙葉は不思議そうな顔をする。

「冷静……何が? 誰が冷静?」

 堪らずモエは乙葉を抱きしめた。活気が失われた乙葉の身体は壊れそうなほど弱々しく感じられた。


   *   *   *


 山海荘の大時計は間もなく朝の9時を指そうとしていた。

 ロビーでは出発準備を終えた玲実、望海、梢の3人が集合している。皆、ゆったり目のパンツにTシャツ、パーカーという軽装ながらリュックは水筒や食料でパンパンだ。

 気合の入った様子の玲実を望海が冷やかす。

「ヤル気あるねぇ。今日は早起きだったし」

 玲実は自慢の巻き髪を指先で跳ねながら応える。

「正直、よく寝れなかったのよね。悔しくって」

 プライドの高い玲実にとって昨夜の和佳子の暴挙は許せるはずがなかった。武器を持つ相手に成す術が無かったという屈辱が玲実をやる気にさせたのだ。

 望海は顎を引いて力強い視線を送る。

「アタシも同じだよ。絶対、やってやろうね」

「勿論よ」

 望海と玲実のやりとりを梢は強張った表情で聞いている。一卵性の双子ながら姉の望海と梢の性格は真逆といえる。激情型の望海は楽観的で男っぽいところがあるのに対して妹の梢は悲観的で慎重に行動するタイプだ。そんな風になってしまったのは、おそらく2人の成長過程にある。無鉄砲な姉の暴走に巻き込まれるたびに梢は冷静にならざるを得ず、そこに精神年齢の成長に差が生じたのかもしれない。

 玲実がふと思い出す。

「ねえ。そういえば地図は? 手に入れたの?」

 それを聞いて望海がニンマリする。

「言ったでしょ。バッチリだって」

 そう言って望海はパーカーのポケットから四つ折りの紙を取り出した。そしてそれを広げる。

「ジャーン! この島の地図。手書きだけど」

 チラシの裏に描かれた地図を見て梢が目を丸くする。

「お姉ちゃん、それ。どうしたの? まさか盗んできたとか」

「失礼ね。盗んでなんかないわ。描かせたのよ。あの子に」

 それで梢は理解した。

「なるほど。あの絵を描く子ね。だから昨日の夜、出かけてたんだ」

「そうよ。あの後、南風荘に忍び込んで描かせたんだ」

 玲実が感心する。

「よく書いてくれたわね。どうやったの?」

「脅したんだよ。心理的な揺さぶりをかけたの」

「お姉ちゃん怖いよ」

「何いってんの。駆け引きよ。駆け引き。だって、あの子どうみても『いじめられっこ』でしょ? だから敵を作りたくないって思いが強いのよ。そこを利用したってワケ」

 望海は「描かないと一生、恨むよ」「アンタのせいで私達が酷い目にあったら責任とってくれるの?」といった風に智世にプレッシャーをかけて「自分達に憎まれたくなければ絵を描いてくれればいい」と交渉したのだ。

 望海の説明を聞いて玲実が首を傾げる。

「でも、それならスケッチブックの写メでも良かったんじゃない?」

 玲実の問いに望海が首を振る。

「ダメダメ。スケッチブックは他の連中がいるところにあって、持ち出させるのが無理そうだったのよ。だから、あの子がトイレで1人になるのを狙ってチラシの裏にささっと描かせたの」

 玲実は地図をまじまじと見て驚く。

「さっと描いたにしては細かいところまで再現してるわね」

 地図を覗き込みながら梢が納得する。

「そっか。あの子、瞬間記憶があるとか言ってたわ。あれは本当なんだろうね。時間をおいても正確に再現できるなんて。凄いね」

 それを聞いて望海が自分の手柄に胸を張る。

「そうよ。それを知ってて利用したアタシも大したものでしょ」

 確かに望海の作戦はなかなか巧妙なものだった。南風荘のメンツを考えた時、和佳子は論外として利恵やイリアはまず秘密を漏らしそうに無いと考えられる。ボクっ子の桐子は何を考えているのか分からない。姉御肌の愛衣に頭を下げるという手もあったが、最もリスクが少ないとなると、それは必然的に智世になる。それに虐められっ子を従わせるという方法において望海は巧みに智世の心を揺さぶり、最終的には目的を達成した。そして狡猾なのが「新しく描く分には他の子を裏切ることにはならない」という屁理屈を付け加えたことだ。智世は南風荘のメンバーに対する仲間意識から独断でスケッチブックを開示することは拒んだ。現に望海に見せろといわれた際に彼女は「それは、みんなに相談してから」という反応を示した。そこで望海は、新たに描くという選択肢を用意して智世をそこに誘導したのだ。逃げ道として用意されたものが罠だったというのは良くある話だ。「スケッチブックを開示する」か「新たに描く」しか選択肢が無いように追い込んだ時点で望海の方が上手だったのだ。

 玲実が地図を眺めながら呟く。

「さてと。問題はどっから手をつけるか……」

 そこで望海が断言する。

「港方面、一択でしょ」

「え? どうしてそう言い切れるの?」

 そう訝る玲実に望海がその根拠を説明する。

「ここ。梢の武器があったんだってさ」

 テーブルの上に広げた地図の中で望海が指差したのは矢倉のある湿地帯だった。

「え? わ、わたしの?」と、梢がソワソワする。

「そうだよ。それで確実に1個はゲットだね」

 望海はそういって片目をつぶってみせる。

「はは、そうだね……」と、梢は作り笑いを浮かべる。

 玲実が地図上を指先でなぞりながら尋ねる。

「その後は? どういうルートで進むの?」

 望海は大事なことを教える教師みたいに人差し指を立てて答える。

「岬の方には行かずに森を抜けて上の方にあるバツ印を目指す感じかな」

「岬って……ああ。これね。この印はスルーでいいの?」

 玲実の質問に望海がコクリと頷く。

「いいの。今のところ判明してる情報を整理すると、持ち主が判明してるバツ印はこうなるわ」

 そう言って望海は左上から順にバツ印の横に名前を記入していく。山の中腹のそれには『ヘレン』、神社は『オトハ』、そして海岸のバツ印には『ブタ』と書き込んだ。それは和佳子に対する悪意が現れた表現だった。

 それを見て玲実がクスッと笑う。

「そこだけ『ブタ』って! 超ウケる」

 望海は次に森の部分のバツ印に『モエ』と書き加えた。

「ここまでが分かってた情報。これに智世って子の情報を加えると……」

 そう言いながら望海は病院の記号に重なるバツ印に『イリア』、雪原のバツには『リエ』、そして岬の部分に『ノノカ』『トモヨ』と書き足す。

 それを見て梢が首を傾げる。

「なんでそこは2人分なの? バツ印はひとつなのに」

「さあ? 全員分は描かれてないってことみたいよ」

「どういう意味?」と、玲実が眉を顰める。

「バツ印の数が11個しかない。ホントなら15人分あってもいいはずなのに」

 望海の言葉は智世からの受け売りだったが、それで玲実が理解した。

「なるほどね。つまり地図に描かれてない場所にも武器はあるってことね。でも、それは困るわ。もし残りのバツ印に私達の武器が無かったら自力で探さなきゃならないってことでしょ?」

「そうなるね……まあ、行ってみないと分からないよ」

 望海は楽観的にそう言うが本当にうまく武器が回収できるかは未知数だ。しかし、地図という有力なツールを得て玲実達は動き出した。


   *  *   *


 同じ頃、南風荘では雪の街へ向かう為の準備が着々と進められていた。

 イリアのアドバイスで防寒対策も行った。自分達が持ち込んだ荷物は夏向けの衣服ばかりだったので具体的には旅館にあった毛布と雨合羽を持って行くことにしたのだ。イリアと智世は前日に調達したジャケットとコートがある。だが、足が寒かったことを教訓にズボンを履くことにした。

 利恵が皆に声を掛ける。

「みんな、忘れ物は無い? たぶん、泊まりになるからね」

 それは皆も覚悟の上だった。イリアと智世が発見した街はここよりも建物の数がずっと多い。そこを探索するとなると半日では時間が足りない。イリア、智世、愛衣、和佳子、利恵、桐子の6人で手分けしたとしても何日かは要すると思われた。

 探検隊を結成したような気分で盛り上がる利恵のテンションを見ながら桐子が尋ねる。

「なあ、本当に留守番はいらないのかい?」

すると利恵が「留守番?」と、聞き返す。

「ああ。もし、救助の人が現れた時、ボク等のことに気付かなかったらどうすんのさ。やっぱり、連絡係は居るんじゃないかな」

 そこでイリアが利恵の代わりに答える。

「救助の可能性はゼロじゃない。でも、限りなく低いと思う。それなら皆で行動した方がリスクは低いはずよ」

「リスクって、そんな……」と、桐子が言いかけてハッとする。その目はリュクサックに食料を詰める和佳子に向けられている。

 嬉々としながらスナック菓子を詰める和佳子に桐子が尋ねる。

「和佳子。それ、どうしたのさ?」

「ン? これ?」

「そう。取られたって言ってなかったっけ?」

「そうだよ。だから返してもらったの」

「なっ!? いつの間に?」

 驚く桐子に向かって和佳子がニッコリほほ笑む。

「昨日の夜。あの子達に返して貰ったの」

 それを聞いて桐子は、まずいなあといった風に首を竦めた。

「まさか、あの子等ともめ事は起こしてないだろうね?」

「もめ事? ううん。すんなり言うことを聞いてくれたよ」

 和佳子は本気でそう思っているのかもしれないが、桐子は彼女のトライデントを眺めながら考え込んだ。そして苦言を呈する。

「あのさ。君は大したことないと思ってるかもしれないけど、相手はそうじゃないかもしれないんだぜ?」

 その言い方に和佳子が少しむくれる。

「どういうこと? 私が武器で脅したから?」

 その答えに桐子は頭を抱えた。

「おいおい。マジかよ……武器を持って行ったのか」

 そこでどういうやりとりが成されたのかは大体、想像がついた。それは利恵やイリア達も同様で何とも言えない気まずい空気になってしまった。

 しかし、和佳子は自分の非を認めない。

「だって仕方ないじゃん! 大事なお菓子を盗ったんだよ? それを返して貰って何が悪いの?」

 あの気の強そうな玲実が素直にお菓子の返却に応じたとは思えない。それにその前フリとして玲実が朝から言いがかりをつけてきた件もある。あの時は、山海荘の窓ガラスを利恵が割ったという何ら根拠の無いものだったが、そこに至るまでは積もる感情があったのかもしれない。

 桐子は溜息をついた。

「やれやれ。厄介な事になったなぁ……」

 利恵も思うところがあるのか小さく溜息をつく。愛衣は軽く首を竦める。それらとは対照的に和佳子は楽しそうに詰め込み作業を続けている。

 そのシュールな光景を眺めながらイリアが智世に耳打ちする。

「困った子ね。身勝手な行動はトラブルのもとなのに。その自覚が無い」

 その言葉に智世がビクッとする。イリアは和佳子の単独行動に関してそう言ったのだろうが、智世には望海に地図の情報を漏らしてしまったという秘密がある。それが智世の良心を委縮させたのだ。

 そんな智世の内心など知る由も無いイリアは、智世の頭にポンポンと触れて言う。

「いざという時は私達だけで行動しよう」

「う、うん」

 イリアは一見すると取っ付き難いクールそうな少女だが智世には頼もしく見えた。


   *  *   *


「ほら、あったじゃん!」と、望海がドヤ顔で棍棒と十字架を指し示す。

 玲実がマジマジと十字架を観察する。

「へえ……こうして実物を見ると何か不思議よね」

 望海が梢の腕を引っ張る。

「ほらほら。ホントに『KOZUE』って彫ってあるよ」

 梢は「なんか嫌だな……」と、それを確認してゲンナリする。やはり墓に自分の名前が刻まれていると良い気はしないものだ。

 十字架に立てかけられた棍棒を「野球のバットみたい」と言って玲実が顔を近付ける。そして「にしては短いわね。子供用?」と、首を傾げる。

 確かに玲実が言うように棍棒は長さが50センチぐらいしかなく、ビニール製のおもちゃのバットのように見える。突起物など無く、つるっとした表面をしているために、余計にそう見えてしまうのだ。白地に金色の模様が施されているその形状はボウリングのピンにも似ている。

「なんか武器じゃないみたい」と、玲実が何気なく手を伸ばす。と、指先が触れる瞬間に接触箇所がスパークして「ぎゃっ!」と、玲実が手を引っ込める。が、指先から伝わった電気刺激が上半身にビリビリっと伝わる。その強烈な電撃に玲実は尻もちをついて呆然とした。望海と梢も武器の威力と玲実の反応に驚愕する。

 玲実が立ち上がりながら怒りを露わにする。

「バッカじゃないの! 誰よ! こんな物、放置したのは!」

 それは八つ当たりでしかなかったが確かに理不尽な罠だ。触ってみたくなるような形状をしておきながら触れると電撃を浴びてしまうなんて悪質な罠としか思えなかった。

 望海がゴクリと唾を飲む。

「凄い……てことはアタシが触っても同じことよね」

 望海はそう言って隣で立ち尽くす妹の顔を見る。そして触ってみろと促す。

「えぇ……怖いよ」と、梢は尻込みするが望海は「早く!」と、譲らない。

「分かったよ」と、梢が諦めたように棍棒に手を伸ばす。すると何事も無く、普通にそれを手にすることが出来た。

「ほらぁ! やっぱりぃ!」と、望海がはしゃぐ。

 玲実は「なんなの?」と、目を丸くする。

 当の本人は戸惑いながらも照れくさそうに棍棒を掲げる。

 それを見守りながら玲実が言う。

「とりあえずひとつ。この調子で行くわよ」

 そして3人は早速、次の目的地を目指すことにした。

 湿地帯を抜ける際に先頭を行く望海が中央の矢倉を眺めながらいう。

「たぶん、アレが地図に書いてあった建物なんだろうね。なんだろ? あれ」

「見張り小屋なんじゃないかな」と、梢もその方向に目を向ける。

「行ってみる?」と、望海は興味がありそうだが最後尾の玲実が却下した。

「無駄だよ。だって、あんなの上れそうにないもん」

「あ、そっかぁ。ハシゴでもないと無理だね」

 望海は少しガッカリしている。あの小屋の中にヘレンが潜んでいるとは知る由も無い。

 地図と地形を見比べながら梢が前方を指差す。

「お姉ちゃん。その先を左だよ」

「分かってるって」

 何事も無く順調なペースで3人は湿地帯を抜け、さらに奥の森へと足を踏み入れる。そして数歩進んだところで「あ!」と、望海が立ち止まった。それに呼応するかのようにモエが「あ」と、顔を上げる。

 ちょうど森の入り口付近で3人はモエと出くわした。

「なんや。あんたらか……」

 所在なさそうに突っ立っているモエのことを望海が不思議そうに見る。

「そっちこそ何やってんの? こんなところで」

「ああ……ちょっとな」と、モエは言葉を濁す。小屋の動きを見張っていたとは敢えて口にしなかった。

 モエの立っている位置から先の方にシートがあることに梢が気付いた。

「あれ? あれは……」

 見るとシートの傍でともに地べたに座り込んでいる乙葉と詩織の姿が見える。

 歩きながら玲実が異変に気付く。

「どうかしたの?」

「いや。ちょっとな……」と、ついてくるモエの歯切れが悪い。

「ねえ! 何やってんの?」と、玲実が乙葉達に声を掛ける。

 しかし、乙葉と詩織は玲実達に顔を向けようともしない。望海と梢が顔を見合わせて同じようなタイミングで首を傾げる。そして梢がシートの膨らみと血痕を見て青ざめる。

「え? まさか……」

 梢はモエ、乙葉、詩織を順に確認する。そして一人足りないことに気付いてしまったのだ。そんな梢の険しい表情に対してモエが力なく首を振った。

「野乃花や。ヘレンに撃たれて死んでしもた」

 先に望海が反応する。

「うそっ! なにそれ!?」

 玲実が物凄く嫌そうな顔つきでシートを二度見する。梢は手を口にあてて悲鳴を堪える。3人は何ともいえない暗い雰囲気に飲み込まれてしまった。

やがてモエが髪を掻き上げながら尋ねる。

「けど、あんたらこの先に行くつもりなんか?」

「ええ。そのつもりよ」と、玲実が顎を引いて答える。「武器が必要なの」

「そっか……なるほどな」と、モエはそう言って溜息をついた。そして考え込む。自分達と同じように玲実達3人も武器を集めようとしている。探索に非協力的でワガママだった玲実が武器を欲しがるなんて、どういう風の吹き回しかと思った。

 と、そこでモエにある考えが浮かんだ。あのオアシスで水中に沈んでいた武器が過ったのだ。それが『グレネード・ランチャー』という名称であることをモエは知らなかったが、形状からして乙葉のショットガンより威力がありそうだということは推測できた。

「せや。玲実。あんた、武器探しとる言うたな?」

「そうだけど?」

「だったら取引せんか?」

「取引?」と、玲実は真意を探ろうと上目遣いでモエの顔を見た。

「せや。ウチがあんたの武器の在り処を教える。その代わりにやって欲しいことがあんねん」

「はあ? 意味わかんないんだけど」

「交換条件や。どや? 簡単な取引やろ」

 モエの提案に対して玲実は得意げにチラシの裏の地図を見せた。

「要らない。自分で探すから」

「な、その地図……どこで手に入れてん?」

「フフ。それは内緒。どう? これってあなた達の持ってる画像と同じでしょ?」

 玲実にドヤ顔を見せられたモエだが挑発するように鼻で笑う。

「フン。無理やな。たぶん、自力で探しても見つからんで」

「え? なんでよ?」

「その地図には載っとらんからや。あんたの武器はバツ印のところやないで」

「え? そうなの?」

「ウチらが偶然、見つけた。めっちゃ分かりにくい所にあったで」

「そうなの? だったら教えてよ。どこで見つけたの?」

「せやから交換条件て言うてるねん」

「んもう。何なのよ。私に何しろっていうの?」

「そなに難しいことやない。あんたの武器で撃って欲しいんや」

「はあ? 撃つって何を?」

「ここに来る時、見たやろ。あの見張り台。あれを撃ってくれたらええねん」

「そんなもの撃ってどうするの?」

「あの中に立てこもっとる人殺しに復讐するんや」

「え……それ本気で? え? 中に人が居るの? でも……それじゃ、死んじゃうんじゃない?」

「ええねん。いや、できればホンマはこの手で殺りたいトコなんやけどな」

 そう言うとモエは冷めた目つきで含み笑いを浮かべた。


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