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第1話 残された少女達

―― プロローグ


 高熱に包まれた地下洞窟はオレンジ色に染まっていた。

 足元の岩板は至る所でひび割れていて、マグマが地表への進出を伺っている。

 猛烈な熱気の中で少女がひとり、蜃気楼のように立っていた。

「何で……どうして?」

 少女の足元には黒髪を広げた女の子がひれ伏している。かち割られた頭部から流れ出る鮮血は蟻の群れのようにジワジワと岩板を浸食していく。それは少女のつま先を浸し、行き場を失くしたものは岩から垂れ落ちて隙間から顔をのぞかせたマグマによって一瞬で灰にされてしまった。

 少女は自問する。

「……何でこんなことに?」

 瞳から零れた涙が頬を伝い赤と混じり合った。頬だけではない。肩口、へそ周りにも大量の返り血が付着している。少女の膝、肘、肩には中世の鎧のようなものが装着されている。そしてその左には血まみれのハルバード(槍の穂先に斧が取り付けられた中世の武器)が握られていた。

 少女は思い出す。あの子の言った言葉を。

『逃げ道を選ぶのは悪い事じゃない。でもそれに抗うことを止めてしまったら行きつく先はドン底しかない』

 ぎゅっと目を閉じて言葉の意味を噛みしめる。ふいに少女の右腕が熱をもった。

「熱っ!」

 白い肌に紋章のような痣が浮かび上がる。それは青白い炎のような輝きを発し、やがて全身を青白い光で包んだ。すると身に着けた鎧の表面が沸騰したようにボコボコと変形していく。

「イヤァァァァ!!」

 そして、暗転……。

 走馬灯のように少女は回想する。そして改めて思い知る。

(悪夢は……この島に来た時から始まってたんだ)


   *   *   *


 小さな港は長閑な日差しに包まれていた。風は無く、波は穏やかだ。

 定期船の待合場は田舎のバス停のように屋根があるだけで、ふたつ並んだベンチには4人の少女が寄り添いあって眠っていた。待合場の外では壁にもたれ掛る形で2人、道路に寝転がるように5人、石碑の周りにも4人、まるで街の至る所でうたた寝をする猫たちのように少女達は眠っていた。少女達が着ている制服はバラバラで同じ学校に通う女子ではない。

 道路に転がっていた竹野たけの 詩織しおりが目を覚ます。

「……寝てた? え?」

 詩織は起き上がって周囲を見る。そして自分が横になっている場所に気付く。

「う、嘘!? なんでこんなトコに?」

 慌ててすぐ隣で眠っているもり 乙葉おとは関田せきた 利恵りえを揺り起こす。

「ちょ、ちょっと! 起きてよ!」

 豪快に大の字になっていた乙葉が目を開ける。

「ん……なに?」

 続いて利恵がゆっくりと上体を起こす。

「着いたの?」

 そう言って利恵は赤い額縁の眼鏡を直しながら無人の港町を見る。無人の波止場、待合場、そして大きな石碑のある広場が彼女の目に入る。

 おへそを出して寝ていた乙葉が目をこすりながら起き上がる。

「あれ? スタッフさん達は?」

 そう言って周囲を見回すが眠りこける少女達の姿しか見えない。

 利恵が首を捻る。

「ミス・サーティーンの撮影……だよね? なんで私たちだけ?」

 乙葉は顔を顰めながらセーラー服に付いた土を払う。その度にチラチラとおへそが見える。

「てか、何でこんな所で寝てたんだろ?」

 乙葉の疑問に詩織がセミロングの黒髪を揺らせて困った顔をする。

「わ、分からないよ」

「とにかく皆を起こさないと」と、利恵が提案する。

 3人は手分けして他の少女達を起こして回った。


 広場の真ん中には15人分のキャリーバッグが山積みされていた。

 それを囲んだ少女達が立ち尽くしている。

 栗毛の巻き髪を弄りながら大江おおえ 玲実れみが激怒する。

「ちょっと! スタッフはどこ行ったのよ!」

 最初に目覚めた詩織が戸惑ったように答える。

「そ、それが……誰も居ないの」

「そうなの。私たちだけみたい」と、利恵が眼鏡の位置を直しながら頷く。

 玲実は腕組みしながら怒りを露わにする。

「マジで!? 何なのよ! 帰ったら事務所の社長に言いつけてやるから」

 双子の加賀見かがみ 望海のぞみが不安そうに周囲を見る。

「てか、ここ、どこ?」

 隣にいた加賀見かがみ こずえは首を竦めて姉の顔を見る。

「グラビア撮影するところなんじゃないの?」

 しかし、無人の港に人の気配は無い。

 委員長気質の利恵は眼鏡に手を添えながら提案する。

「とにかく、ここがどこなのか確かめないと」

 へそを出して寝ていた乙葉が半笑いを浮かべる。

「確かめるって……どうやって?」

 スマホを弄っていたツインテールの花村はなむら 桐子きりこが首を振る。

「どうしようもないじゃん。スマホは使いもんになんねえし」

 ぽっちゃり系の渡部わたなべ 和佳子わかこもスマホを眺めながら泣きそうな顔をする。

「ホントだ。電波最悪……てか死んでる?」

 悪いムードを変えるために眼鏡っ子の利恵が提案する。

「ね、この辺に住んでる人が居ないかな? 固定電話があるかもしれない」

 それを聞いて中分けショートボブの鈴木すずき 野乃花ののかが同意する。

「そ、そうだヨ! 家、捜そ!」

 落ち着いた雰囲気の一之瀬いちのせ 愛衣めいも頷く。

「そうね。行ってみましょうか」

 愛衣にぴったりくっついていた二宮にのみや 敏美としみが元気よく手を挙げる。

「愛衣先輩が行くなら私も!」

 しかし、自慢の巻き髪を指に絡ませながら玲実はやる気が無さそうに首を振る。

「私はパス。ここで助けを待つわ」

 双子の妹、梢も同調する。

「アタシも行かな~い」

「アタシもヤダ。めんどくさ~い」と、姉の望海も同じく拒否の姿勢だ。

 利恵が何か言いたそうにするが小さくため息をつく。

「仕方ないね。行く人だけで行きましょう」

 結局、桐子・乙葉・愛衣・和佳子・野乃花・敏美が利恵に続いて歩き出すことになった。

 7人は港町があると思われる方向へ歩いていく。

 望海がその後姿を眺めながら鼻で笑う。

「バカみたい。遠足じゃないっての」

 同調するように妹の梢と玲実が含み笑いを浮かべる。高飛車なお嬢様風の玲実とギャル風の双子姉妹は気が合うようで、いつもツルんでいるようだ。

 広場に残った少女は8人。非協力的な態度の3人組、海風にブロンドの髪をなびかせる藤川イリア、水色のセーラー服に金髪のダグラス・ヘレン、スケッチブックを抱えたベレー帽の石原いしはら 智世ともよ、ピンクのジャージ姿の山上やまがみ モエ、そして最初に目覚めた黒髪ロングの詩織だ。

 ひとりだけ制服姿ではないモエが欠伸する。

「あの子ら元気あるなあ。ウチはまだ眠いわ」

 そう言って彼女は待合場のベンチに目をつけてスタスタと歩き出す。それを合図にイリアとヘレンがそれぞれ場所を変えようとする。共に無言で冷めた表情だ。

 皆を引き留める理由も無く、詩織はぼんやりと港に目を遣った。港には船が一隻も無い。船を繋ぐ為の係船柱ビットにはどれも紐が絡まったままだ。それを見て詩織が何かに気付く。

「あ、あれ?」

 詩織の様子に気付いて栗毛の玲実が尋ねる。

「ん? どうかしたの?」

「や、な、何も……でも何か変」

 そう言った詩織の目が泳いだ。

 彼女の見ていた方向に玲実が目を向ける。だが特に変わった事はない。

「なにも無いけど?」と、玲実は首を傾げる。

 双子の望海と梢はお喋りしながら髪を弄っている。

 その時、皆とは違う方向を向いていた智世が小さく声を上げた。が、誰も彼女の反応に気付かない。智世の視線は7人が探索に向かった方向とは逆方向に向けられていた。石碑広場の先は森になっていて、それが海岸線に沿ってずっと先まで続いている。智世は驚きの表情で固まっていた。なぜなら、上空から黒い物体が飛来して森の中に下りていくのが見えたからだ。それは遠目に見ても妙な生き物だった。形こそ鳥のようだが異様に尻尾が長く、また脚が太かった。それは、まるで鷹が地表の獲物を狙うように急降下して森の中に消えていった。智世は動揺しながら玲実達に何かを伝えようとするが、うまく言葉が出てこない。引っ込み思案なのか玲実達の態度に恐れを抱いているのかは分からない。結局、彼女はぎゅっとスケッチブックを抱きしめて大事なことを飲みこんだ。


 道路を挟んでは10軒ほどの民宿が並んでいる。恐らくは釣り人を相手にした商売なのだろう。どの建物にも軒先にバケツや釣竿、網が干されている。漁師が履くようなゴム製の長ズボンも吊るされている。それらはどれも民家を改造したような素朴な宿だった。

 雑貨店のような入口を構える民宿の前で野乃花とへそ出し乙葉が声を張り上げている。

「スミマセーン!」

「誰かいませんかぁ!」

 中からは何の反応も無く、2人は顔を見合わせる。

「駄目だ」と、乙葉が顔を顰める。

「誰も居ないのかナァ」と、野乃花が耳をそばだてる。

 しんとした店内には人の気配がまるで無い。カップ麺やスナック菓子、缶詰や米が陳列された棚は何となく埃を被っていそうな印象を受ける。洗剤やテッシュなどの生活雑貨も売られている。しかし、店番をしている人間が居ないのに入口は開けっ放しだ。しかも奇妙なことに柱の日めくりカレンダーの年号がなぜか26年前になっている。

「なんか怖いヨ」と、野乃花は乙葉の服を摘まんだ。そのせいで乙葉のお腹が露出する。乙葉のセーラー服は裾が短いので直ぐにおへそが見えてしまうのだ。

「ちょっと野乃花。引っ張んないで。お腹出ちゃうんだけど」

「あ、ゴメン」

 赤いリボンのセーラー服姿の乙葉に対して野乃花は赤い蝶ネクタイ付きのブラウスに膝上20センチのスカートを履いている。中わけショートボブの彼女は童顔な割に女らしいムッチリした体つきをしているので太ももの露出が目立つ。

 結局、誰も居ないので2人は諦めて通りに出た。すると他の民宿で同じように声を張り上げるぽっちゃり系の和佳子と桐子の姿が目に入った。

「あっちは駄目だったよ」と、へそ出し乙葉が難しい顔をしながら和佳子たちに近付く。

「ここも同じみたい」と、和佳子が首を竦める。

「人っ子ひとり居やしねえ」と、ツインテールの桐子も首を振る。

 そこに愛衣と敏美が合流する。

「駄目ね。誰も居ないわ」と、愛衣は首を振る。

 ラインが紫色の古風なセーラー服を着た愛衣がそう言うと何だか重みがある。その隣で敏美が三つ編みを揺らせながら大きく頷く。

 そこに眼鏡っ子の利恵も加わった。

「そっちはどう? こっちは誰も……」

 揃って首を振る面々。乙葉は呆れたように言う。

「なんで? 入口は開いてるのに?」

「みんなどこに行っちゃったのカナ?」と、グラマーな野乃花は鼻にかかったような声を出す。

 ぽっちゃり系の和佳子はアヒル口で首を傾げる。

「お祭りとか運動会とかでどこかに集まってるとか?」

 民宿街には住人の姿がまったく見られなかった。それどころか静かな街並みには犬や猫などの生き物すら存在しない。その奇妙なシチュエーションに7人は言葉を失った。

 沈黙を破るように愛衣が口を開く。

「もう少し奥に行ってみる?」

 愛衣が落ち着いて見えるのは古風なセーラー服のせいもあるが膝下丈のスカートを履いているのもある。やや茶髪がかった編み込みアップスタイルはヤンキーというほどではないが姉御肌っぽい雰囲気を醸し出している。そんな愛衣に敏美が同意する。

「ですよね。じゃあ、山の方ですかね」

「そうね。高いところに登ってみるのも手かも」と、愛衣は山を見上げる。

 それを聞いて和佳子がゲンナリする。

「ええ~ 山登るのやだ。疲れたし。お腹すいた」

 ぽっちゃり系の和佳子はデブではないが肉付きが良い。ただ、見た目の通り運動は好きではないようだ。

 姉御肌の愛衣が皆の顔を見ながら言う。

「じゃあ、二手に別れましょう。私は乙葉さんと利恵さん、それから桐子さんと上に行ってみるわ。敏美ちゃんは和佳子さんと野乃花さんで砂浜が見える方に行ってくれるかしら」

「ええ~ わたし、先輩と一緒がいいのに」

 敏美は不満そうにそう言ったが愛衣に「頼んだわよ」と言われて渋々、了承した。

 山登りを免れた和佳子はホッとしている。

「さ、行きましょ」と、委員長気質の利恵が先頭で歩き出す。

 民宿街の途切れたところで道が分かれている。山道に向かう愛衣・利恵・乙葉・桐子。砂浜の方面には敏美・和佳子・野乃花が向かうことになった。


 山道をしばらく登ったところで、こじんまりとした神社があった。短い石段を上って振り返ると民宿街を見下ろすことができる。小さめの鳥居から本堂までは10メートルほどしかない。そこに至るまでの石 畳には狛犬がワンセットで配置されている。

 眼鏡っ子の利恵が汗を拭いながら境内を見回す。

「ふう。ここも居ないか……」

 木製の鳥居には小さな穴が幾つも空いている。へそ出し乙葉がそれに気付いて苦笑いを浮かべる。

「ちょっと、なに? この神社。超ボロくない?」

 ツインテールの桐子が男言葉で「なんか色々と荒んでんなぁ」と、頷く。

良く見ると鳥居の穴は銃弾を受けたような痕跡だった。向かって左側の狛犬は顔の半分が欠けているというよりもスッパリと切り落とされている。それに石畳には焼け焦げたような跡が見受けられる。

 それらを観察しながら乙葉が呆れる。

「誰かが暴れたみたい」

 別行動で乙葉と桐子は真っ直ぐ本殿に向かう。

 桐子が本殿に入る階段の手すりに何気なく目を遣る。そして黒く変色した血の手形を発見した。

「ん!?  なんだコレ?」と、桐子の顔が強張る。

 その時、本殿の裏で愛衣が大声を上げた。

「みんなちょっと来て!」

 姉御肌の愛衣に呼ばれて利恵、乙葉、桐子が急いで本殿裏に集まる。

 裏手に回った途端に桐子が「え!?」と、立ち止まる。

 へそ出し乙葉も目を丸くする。

「お墓!? 神社なのに?」

 委員長気質の利恵は眼鏡を触りながら目を瞬かせる。

「お墓にしては真新しいように見えるけど?」

 集まった3人の反応を眺めながら愛衣が腕組みをして直立している。そして彼女の側には十字架を模った白い墓標があった。さらに墓標には白っぽい色のショットガンが立てかけてある。

 桐子がショットガンに手を伸ばす。

「この銃はなんだ? 誰がこんなもの……」

 桐子は細い腕を伸ばしてショットガンを拾い上げるとそれを構えてみせた。

「わお。ゲームの武器みたいだ」

 ショットガンのバレルや銃身は白く塗られていて神殿の装飾のような模様が金色で施されている。

「随分派手ねぇ」と、乙葉が感心する。

「やべぇ。本物みたいだ」と、桐子がふざけてショットガンを乙葉に向けた。

「ちょっと、やめてよ!」

「おもちゃだよ。ホラ。引き金、引けないし」

 桐子はそう言って引き金を引いてみせたがびくともしない。

 それを見て安心した乙葉が抗議する。

「もう。止めてよね」

 ショットガンで遊んでいる2人をよそに墓標を観察していた利恵の表情が引きつる。

「ちょっと……これ……」

 乙葉が利恵の横に来て墓標を覗き込む。そして「いっ!?」と、しり込みする。

 墓標には『OTOHA』と刻まれている。

「これは……」と、乙葉が激しく動揺する。

 利恵が顔を強張らせながら言う。

「ぐ、偶然だよ。偶然……」

 そこにショットガンを持ったままの桐子が寄ってきて冷やかす。

「縁起悪ぃ。てか、この銃の持ち主がオトハって名前の人なのかもよ」

 そう言って桐子はショットガンを乙葉に押し付けた。

「ちょっと止めてよぉ」と、乙葉が引きつった笑顔でそれを受け取る。

「乙葉。試しに引き金引いてみなよ」と、桐子が煽る。

「なに言ってんの。どうせ、おもちゃなんでしょ……」

 乙葉が苦笑いしながらショットガンをぎこちなく構える。そして引き金に指を掛けるとカチリと引き金が動いた。

『バンッ!』という発砲音! 

「ヒッ!」と、利恵が尻もちをつく。

「ちょ……マジかよ」と、腰を抜かした桐子のミニスカートからはピンクの下着が丸見えになっている。

 愛衣は腕組みしたまま固まっている。

「な、なんで?」と、撃った張本人の乙葉が呆然とする。

 銃口が向けられていた方向では散弾が本堂の壁に無数の穴を開けていた。

「玩具じゃないじゃん!」と、乙葉はショットガンを放り出す。

「嘘だろ? さっきは確かに……」と、桐子が信じられないといった風に首を振る。

 委員長気質の利恵が立ち上がりながら訴える。

「と、とにかく、そんな危ない物は返して!」

 桐子は納得がいかなそうな顔でショットガンを拾い上げる。そして試しに引き金を引いてみるが固くて動かない。

「やっぱダメじゃん。さっきと同じだ」

「ちょっと桐子さん! 危ないから!」と、利恵が青ざめる。

「おっかしいなぁ」と、首を捻りながら桐子がショットガンを墓標に立てかける。

 しばらく呆然としていた四人だったが、愛衣が疲れたような顔で皆を促す。

「いったん戻りましょ。島民はここにも居ないみたいだし」

 利恵も神妙な顔つきで頷く。

「確かに。これより上に行っても無駄だと思う」

 山道を登ることを断念して4人は来た道を戻ることにした。


 神社から山道を下ってきた愛衣達は砂浜の方へ向かった。

 砂浜では敏美・和佳子・野乃花が何かを囲んで話し合っている。そこに愛衣達が合流する。

 利恵が眼鏡を触りながら尋ねる。

「そんな所で何やってるの?」

 ぽちゃり和佳子が利恵達に気付いて振り返る。

「あ、そっちはどうだった?」

 愛衣が黙って首を振る。その様子を見て和佳子がガッカリする。

「そっか。こっちも全然。誰も居やしないよ」

 グラマーな野乃花が頷く。

「それどころか犬やネコも居ないヨ」

 へそ出し乙葉が敏美達の囲む物体をひょいと覗き込む。

「てか、みんなそこで何やってんの?」

 そこにあったのは白い十字架の墓標だった。

 桐子は「げっ!?」と、身を引く。

「ここにも!?」と、利恵が驚く。

 利恵の反応に気付いて和佳子が尋ねる。

「ここにもって?」

 利恵が山の方向をチラ見しながら説明する。

「実はこれと同じものが神社にもあったの……」

「マジで?」と、和佳子がキョトンとする。

 桐子が呆れたように言う。

「やばくね? これってお墓だろ?」

 姉御肌の愛衣は墓標を眺めながら冷静に聞いた。

「それで誰の名前が書いてあるの?」

 ぽっちゃり和佳子がモジモジしながら答える。

「それがね……アタシの名前と同じ」

 確かに墓標には『WAKAKO』と刻まれている。そしてその傍にトライデント(三つ又の鉾)が転がっている。それは鉾というには太くて二メートル近い長さを有している。さらには持ち手の部分に派手な金の装飾が施されていた。

 桐子がゴクリと唾を飲みこむ。

「凄……これも凄ぇな。RPGに出てきそうな武器だぜ」

 腰ぎんちゃくの敏美が桐子に尋ねる。

「そっちは何だったの?」

「ショットガンだよ。しかも乙葉専用」

 それを聞いて、へそ出し乙葉が口を尖らせる。

「ちょっと止めてよ! あれは偶然だよ!」

 桐子はブンブンと首を振る。

「いいや。アレは乙葉しか扱えないんだって。ボクが引き金を引いてもびくともしなかったんだから」

「それは分んないじゃない。他の子でも出来たかもしれないよ」

 乙葉の反論を無視して桐子がトライデントを拾い上げようとする。が、重くて持ち上がらない。

「重っ! 何これ?」

 桐子に代わって利恵がトライデントを両手で持ち上げようとするが失敗する。

「本当だ。これは無理」

 グラマー野乃花が胸元を見せながら舌足らずな声でいう。

「でしょ。私も敏美ちゃんも持ち上げられなかったのヨ。でも……」

 野乃花がチラリと和佳子を見る。

 和佳子がヤレヤレといった風に首を振る。そしてトライデントに手を伸ばす。

「なんでか分んないんだけど」

 そう言って和佳子は軽々とそれを片手で持ち上げてしまった。

 それを見て桐子が驚愕する。

「凄え……それって和佳子専用ってことか?」

「分かんない。こんなに軽いのに」と、和佳子は苦笑いを浮かべてトライデントを軽く振り回す。慌てて後ろに飛び退く少女達。

 委員長気質の利恵がそれを咎める。

「ちょっと! 危ないでしょ!」

「あ、ごめん」と、ぽっちゃり和佳子がシュンとする。

 桐子がポンと手を叩く。

「分かった! やっぱ十字架に書いてある名前と関係あるんだよ!」

 乙葉が半泣きになりながら否定する。

「ええ~ ぐ、偶然だよ」

「いいや。絶対そうだって! どういう仕掛けか知らないけど、墓に書かれた人間にしかその武器は扱えないんだよ」

 桐子の言葉に皆が言葉を失った。誰もが無言で疲れた表情を見せていた。

 GWを利用した楽しいグラビア撮影の旅のはずが無人の港町に少女達だけで放置されてしまった。しかも電波が届かないところをみると、かなりの田舎だと思われる。そして不気味な墓標と武器の存在……。

 しばらくして利恵が提案する。

「とにかく港に戻らない? 皆で対策を考えないと」

 だが誰も返事をしない。この異常な状況に、ただ力ない足取りで利恵に続くしかなかった。


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