ねこ足バスタブ
本日は水曜日、現在の時刻は午後一時半、そして晴天。無駄に午後の講義をサボって帰路についた私は、家に着いたらまず真っ先にお風呂に入ろうと思った。
街は人と同じで、朝に起きて、昼は騒いで、夜になると静かに眠るのだと思う。大学から駅まで徒歩十分、そこから最寄り駅までは三十分弱、そこから更に家までは徒歩十三分。大体一時間程の時間をかけて街をすり抜けてきた私は、さっそくお風呂場に向かった。実家から大分離れたマンションに一人暮らしなので、こんな時間に帰宅した私を責める者は誰もいない。今日は暖かいから、お湯を溜めつつお風呂に入るのもいいかもしれないなぁ。……うん、よし、そうしよう。
途中でリビング(兼、自室)に寄って、奮発して買ったはいいけれど、使うタイミングが分からずお飾りになっていたアロマを持ち出す。音楽も聴きたいから、スピーカーも持っていって、それから……。そうこうしつつやっとお風呂場の扉を開けたら、バスタブに、それはそれは可愛らしい猫さんたちがみっちりと詰まっていた。
三毛猫、サビ猫、白猫黒猫。ペルシャ、ロシアンブルーにアメリカンショートヘア。よく見るとマンチカンもいる。
何かを考える前に扉を閉めて、考えた後開けても、やっぱりその猫たちはそこにいた。死体とかそういうホラーなオチではない。五秒くらいまた色々なことを考えた後、そっとその塊に手を伸ばしたら、その中の一匹から軽い猫パンチを喰らった。
「おっと、ごめんよ」
バスタブの淵に腰掛け、もう一度手を伸ばす。今度は違う猫の尻尾にはたかれた。ここで何故か顔がにやけてしまうのは、私が猫好きだからだろう。痛いにゃあとついつい猫語が出てしまうのも傍から見れば相当イタいだろうが、猫好きだから仕方ない。蹴られはたかれてもめげずに伸ばした手が、今度は邪魔されることなく、黒猫の小さな頭に着地した。
すりガラスから、いびつで少しぼんやりとした光が差し込んでいる。生きている街の喧騒は遠い。無防備に晒された素足めがけて、仕事のなくなった蛇口から一滴、しずくがおちた。