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明日世界が終わるなら

「なぁ、俺さ。一年の頃からずっとお前のこと好きだったんだ」


 そう言い捨てると竜一はあっちを向いてしまった。幼稚園の頃からの癖だ、照れるとそっぽを向く。よく見ると耳が真っ赤だ。すぐ赤くなるところも、ずっと変わっていない。


「私もだよ」


 私はお前と違って中一からだけどな。そう言ってやたらと広くなった背中にふてぶてしく寄りかかってみたら、頭上から苦々しげな声が降ってきた。


「……言っとくけど、高一じゃなくて、小一からだぞ」

「……すみません」




 晴れて、私たちの恋が実ったロケーションは駅の中。いつもは人でごった返しているくせに、今日は私たち以外誰もいない。電光掲示板に次の電車の到着時刻は表示されていないし、線路とフェンス越しに見える街も空っぽだ。


「誰もいないね。駅員さんも」

「仕方ねーよ。最後ぐらい、家族と一緒に過ごしたいんだろ」

「それもそうか」


 空は青く清々しい。ふと、飛行機が尾をきながら飛んでいるのが目に入った。


「飛行機」

「……客なんていないだろうに、何で飛んでんのかな」

「空が家なんじゃない?」


 沈黙。この私がスベったみたいな空気をどうにかしてほしい。


「……ねぇ」

「なぁ。明日世界が終わるとしたら、お前、何したい?」


 沈黙に耐えきれず声を掛けようとした矢先、あっちが先に口を開いた。声から何だか不穏な空気がにじみ出ている。大人しく背中にもたれるのをやめて座りなおしたら、竜一も姿勢を正した。こっちを向いた竜一は、やっぱり何だか思いつめたような顔をしている。


「なんだよ急に」

「いいから」


 いつもはふざけてるくせに。真面目な顔をして見つめられると、何だか照れてしまう。


「……好きな人と一緒に過ごす。でもそれは今できてるし、もういいの。両思いだったみたいだしね」

「……そっか」


 私がおずおずと口を開くと、竜一は、くしゃりと笑った。不思議だ。笑ってるのに、泣いてるみたい。


「あ」


 遠くの空に、赤い点が見えた。その点はみるみるうちに大きくなる。


「ねぇ、来たみたいだよ」

「ん。……俺、ばかみてぇ。昨日のうちに言っときゃ良かった。そうすれば、今日が明日だったのに」

「馬鹿じゃねーよ。好きって言ってくれただけで嬉しいの。はやく機嫌直せや」


 今度は面積の割には薄っぺらい胸板に思いっきり飛び込んでみた。うっ、と、濁った声が落ちてくる。


「……うってなんだよ。失礼だな」

「……いや、この空気でタックルする奴はじめて見たわ」

「いいもん見れたじゃん」

「……なあ」

「ん?」

「大好き」

「うん」

「……明日はさ、デートでも行こうぜ」

「行けたらな」

「なんだよそれ」


 網膜を灼きつくすような白い光が、辺りを包み込んだのが分かった。終わる。でも私は幸せだ。疑う余地もなく、今私は世界中のどこの誰よりも幸せだ。


「竜一」

「なんだよ」

「大好き」

「……うん」


 骨がきしみそうなくらい、力強く抱きしめられた。負けじと私も抱きしめ返す。


「大好き」

































――「お知らせします。お知らせします。都市部に巨大隕石が落下しました。繰り返します、都市部に巨大隕石が……」

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