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るみちゃんと異次元ねこ





 わたしはるみ、くしるみ。雨上がりの朝は危険がいっぱいだ。踏んだら引きずり込まれる水溜りを飛び越えて、異次元ねこのねこを連れて、学校に向かう。

 ホームルームがまではまだ五時間ほど余裕があるけれど、なんとなく走ってみることにした。異次元ねこをつないでおくリードはわたしが持っているから、のたのた眠そうに歩いてたねこも走る羽目はめになる。本能が目覚めたのかあてつけか、ねこは七本あるカラフルな足をしゃかしゃかと動かしてあっという間にわたしを追い抜き、完全にわたしが引きずられるような形になってしまった。


 あ! あそこにいるのはクラスメイトの挟間さん? 水溜りを踏んだみたいでもう髪の毛しか見えないけれど、あのツヤツヤの髪は狭間さんのもので間違いないはずだ。となりの水溜りも誰かが踏んだみたいだけど、腕しか見えないから判別不能。

 自転車に乗っているときよりも速いスピードで、景色が後ろに流れていく。比喩じゃなくて今は本当に引きずられているせいで、下側の体が地面に擦れて痛い。時々三本の後ろ足に手を踏まれたり頭頂部を蹴られたりしているうちに、灰色の味気ない塀が見たことのある赤褐色のレンガに変わってきた。




 ホームルーム開始まであと四時間と五十一分と四十九秒。いつも一緒のねこは、どうやらちゃんと学校への道順を覚えていたらしい。

「おはようるみちゃん、今日もなんだか傷だらけだね」

 リードから手を離し、体についた土やその他もろもろを払いながら起き上がると、丁度後ろから声をかけられた。振り返ると、ゆるふわした髪をいつもどおりひとつに結んだあんなちゃんが不思議そうにわたしを見つめていた。

「おはようあんなちゃん。今日も引きずられたから」

「異次元ねこ、だっけ? どこにいるの?」

「そこにいるよ。あっ……」

「あっ」

 毛づくろいをしていたはずのねこがあんなちゃんに襲い掛かり、あんなちゃんを食べてしまった。白い腕も細い足も、胴体ごとねこの口の中に消えていく。ホームルーム開始まであと四時間と五十一分ジャスト。わたしはねこの頭を全力で叩き、捕食を中断させた。にゃあと悲しげに鳴くねこの口の端にそれが、丁度イチゴのジャムみたいにこびりついている。今日の朝ごはんがトーストじゃなくてよかった。


 ◇


「おはようるみちゃん、今日もなんだか傷だらけだね」

 教室に入ると、ゆるふわした髪をいつもどおりひとつに結んだあんなちゃんが出迎えてくれた。

「櫛田さん。ごめんね、ブラシもってない?」

 べちゃべちゃに濡れた狭間さんが声をかけてきた。やっぱりあれは挟間さんで合っていたみたい。

「にゃあああー」

「あっ」

 ちょっと待っててねとブラシを取り出す前にねこが挟間さんに飛び掛り、止める間もなく今度は狭間さんがイチゴのジャムになってしまった。


「異次元ねこって、わたしには見えないけど本当にいるんだね」

「うん」

 俯いているあんなちゃんの顔は、見えない。

「……今日はテストの日だから……。丁度、良かったね」

「……うん」



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