階級
ファストフードで女友達と待ち合わせをしていた。
お店は二階建てで、一階が注文カウンター、二階がガラス張りのイートインになっている。
カウンターで注文をすませてホットコーヒーと塩抜きのポテトをを受け取り二階へあがる。
外は肌寒かったが、暖房のおかげで二階はとても暖かい。
窓際に居れば女友達が来たときにわかりやすいだろう。
そう考えて窓際へ向かうが、そこには先客がいた。
三十台手前ぐらいだろうか、古代ローマ人を思わせるトゥニカを身にまとった男性だ。
背中から大きな羽根を広げて窓際にある七人分の席すべてを陣取っていた。
迷惑過ぎる。邪魔過ぎる。なにより私が座れない。
そんな気持ちをオブラートに包み伝えると、すぐに羽根を畳んで男は席を開けてくれた。
悪い人ではないらしい。
女友達が来るまでの退屈しのぎにと男に話しかけてみる。
意外にも気さくに応じてくれた。
その男は、自分を天使だという。
『大天使』と書いて『アークエンジェル』と読むらしい。
天使に階級があること自体知らなかった私にはどれほど偉いのかわからない。
おもしろい話が聴けそうだと思ったが、窓の外に階段をあがってくる女友達が見えた。残念だが大天使を尋問する時間はなさそうだ。
待ち人が来たという旨を大天使に伝えて話を切り上げた。
階段から女友達があらわれる。
女友達をひと目見ると、大天使は、かしこまって地面へひれ伏してしまった。
大天使は、必死で許しを請うような、懺悔をする罪人のようなクチぶりで女友達へ弁解と謝罪をしている。
ふたりの会話をなんとなしに聞いているが、話の内容はさっぱり理解できなかった。
わかったことは、女友達も天使であり『熾天使』と書いてセラフィムと読むらしい。
天使に階級があると知ったばかりの私でも熾天使が大天使よりは偉いということだけはわかった。
熾天使は大天使を適当にあしらい帰らせて私の隣へ座った。
私は、どうしたものかと考えあぐねいた表情で熾天使を見つめる。
そんな私を気にすることもなく「世の中そんなもんだよ」と言いながら熾天使は店の外を指し示す。
私が熾天使の指の先に視線を向けると、店を出て大きな羽根を広げ飛び立たんとする大天使がいた。
熾天使がクイッと指を動かした瞬間、大天使の頭上へ太い雷が刺さる。
周囲が白光に包まれ、一帯に轟音が響き渡る。
気がついたときには大天使は、歩道の黒い染みになっていた。
ボウ然とする私のほっぺたを、熾天使は六枚の羽根でなでさする。




