第5話 ソラ
三角編隊で突撃しウルフの編隊の後ろに付いたルクス達は機銃をぶっ放した。ウルフ達は迫りくる20mm砲弾を回避すると、そのまま散開した。
「各機!!自由戦闘!!」
その言葉と共にルクス達も散開する。そして空での殺し合いが始まった。機体を上昇、降下、旋回させ相手の後ろに付こうとする。だがそれは相手も同じ事。お互いに後ろに付こうとするため強烈なGが機体とパイロットを襲う。
「うぐぁあああああぁ――――ッ!?」
強烈なGを受けながらもルクスは必死に操縦桿を動かし、敵の後ろに付こうとする。今ルクスの目の前に居るのはウルフ編隊のセイクウの一機だ。他の機は其々サイラスやオーウェンが相手をしている。
運動性の良いチーターSのおかげで相手の後ろに回り込むことが出来たが、肝心の射線上に敵のセイクウを持ってくる事が出来ない。それもそのはず相手だって必死に逃げているのだ。そうそう簡単に撃たせてくれるものではない。
一瞬射線に入ったセイクウに向けて発砲するが外れる。
「くそッツ!!」
ルクスは機体の速度を上げ、セイクウに可能な限り接近しようとする。確実に当たる距離まで接近する。それは空戦の鉄則とも言えるものだ。敵機との距離が徐々に詰まってくる。かなり近づいた所でセイクウは突如上昇を掛けた。距離を詰めていたルクスは反応できず上昇するのが一瞬遅れる。その隙をついて敵は宙返りをすると逆に後ろを取ってきた。
「なっつ!?」
その腕の良さに驚きながらも、体が反射で回避行動に入る。先程まで機体があった位置に30mmガトリング砲の弾丸が通り抜ける。
左右に機体を揺らしながら相手の射線に乗らないようにする。セイクウは30mm弾をばら撒きながらルクスに迫ってきた。
「このやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
叫びながら操縦桿を引き起こす。機体が急な宙返りを描き降下する。そしてその目の前にはルクスのチーターS目掛け上昇してくるセイクウ。
ルクスのチーターSと敵のセイクウの銃が同時に火を噴いた。
ルクスは敵のセイクウのパイロットの顔が一瞬だけ見えた気がした。
両者がすれ違った時、セイクウの機体が燃え上がり、地上に落下して行く。ルクスのチーターSは所々に弾丸のかすり傷を受けているが致命傷では無い。機体に異常がない事を確認するとすぐさまオーウェン達の姿を探した。
「くそッツ!!」
オーウェンは焦っていた。敵機に背後を取られ攻撃されながら今まで生きてはいるが次の瞬間はどうなっているか分からない。必死に機体を動かして獲物を見つけた敵機から逃れようとする。だが、敵の追撃を振り切るのに夢中で、前から現れたウルフに気付くのが遅れてしまった。
「うわああああああああああああああああああああああ!?」
慌てて操縦桿を引き回避する。どうやらウルフにとっても予想だにしなかった出来事だったらしく、攻撃もせずに咄嗟に回避し二人の空中衝突は免れた。
だが、残りの二人はそうはいかなかった。ウルフを後ろから追いかけていたサイラスと、オーウェンを追いかけていたセイクウが衝突した。
サイラスのチーターSは、慌てて回避をしようと機首を変えた。だが、セイクウはその事に反応が出来ず、そのままチーターSに突っ込んだ。
「准尉ッツ!?」
セイクウとチーターSの機体がぶつかり合い激しい爆発音が鳴り響く。爆発の煙から落ちていくのはぐちゃぐちゃになった飛行機の残骸だった。
「准尉ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!!」
オーウェンの叫びは虚しく空中に消えていく。
叫んだオーウェンの機体の横を素早く何かが通り抜けて行った。
――それはルクスのチーターSだった。その先には、先程2機がぶつかった場所を眺めるウルフがいた。
ルクスは引き金を引いた。20mm弾がウルフ目掛けて降り注ぐ。
「!!」
咄嗟にウルフは回避する。ルクスのチーターSは、回避したウルフの後ろを取っていた。
「絶対に・・・落とす!!」
そう言って狙いを付けて撃とうとする。だが、ウルフも必死である。機体を上下左右めちゃくちゃな方向に動かして、必死に後ろに付いたルクスを振り払おうとする。
――――ダダダダダダダダダダダダダッツ!!
機関砲弾がウルフの機体の下をすり抜ける。ウルフが上に急上昇しルクスもそれに続く。だが、上昇して追いかけていたはずのウルフが突如消えていた。
「!?」
慌てて辺りを見回す。だが、ウルフの姿は見当たらない。直後機体にガンガンガンという音と共に衝撃が走る。そして、その原因が何か確かめる間も無くチーターSのコックピットが真っ赤に染まった。
離れた所からオーウェンはすべてを見ていた。ルクスがウルフを追いかけて急上昇した時、ウルフの機体が失速して落下していき、ルクスのチーターSの真下に潜り込み失速から回復しそのままルクスの後ろに回り込んだ。
そして30mm弾を発砲したのだ。
後ろに付かれたことにも気づかず、ルクスは至近距離から30mm弾を喰らったのだ。一瞬にして機体が鉄屑に変わった。
ウルフは鉄屑となったチーターSを通り抜けると、そのままどこかへと行った。おそらく弾が切れたのだろう。20mmと違って30mmは装填数が少ないからだ。
残されたオーウェンはただただルクスが撃墜された所を旋回していた。それしか、今の彼には出来なかった。
蒼空には、真っ赤に染まったスクラの花弁が散っていた。
これでこの話は終わりです。ですがこのシリーズはまだまだ続きますので、
是非ともそちらをご覧になってください。
今まで読んでいただいた方ありがとうございました。