第4話 アタフ
いよいよ戦闘です。
早朝6時―――すでに日は出て空は青く澄んでいる。清々しい風に交じってエンジンの音と燃料の臭いが漂ってくる。
ロストック飛行場では、滑走路に大量の戦闘機及び爆撃機が出撃していった。
爆撃機は、連邦の主力戦術爆撃機「テリッサ」。その後ろから護衛の戦闘機であるチーターSが飛び立って行く。
「あいつらの内・・・何割が返ってくることやら・・・。」
ロストック空軍基地司令の男は飛び立って行く戦闘機たちを見つめながらそんな事をぼやいた・・・。
ロスカより出撃して行った戦爆連合はまっすぐアタフを目指して飛んでゆく。
青い空を飛ぶ銀翼の鳥たちは今、戦場へと旅立った。
「なぁ〜ルクス〜。・・・俺達無事帰って来れるかな?」
「さぁ・・・。」
無線のスイッチを入れそんな無駄話をするルクスとオーウェン。彼らの乗るチーターSは、綺麗な編隊飛行を続けながらかれこれ数時間は飛び続けている。
「ま、今日も無事に生きて帰るさ。」
「そうだな!生きて帰ってまたあの店に行ってやる!!」
『お喋りもいいがなガキ共。そろそろママの“おちち”が恋しくなるころだぜ。』
そう言って無線に割り込んできた声は、初めて聞く声だった。
「10時の方向!空中給油隊!!」
『さっさとてめぇの相棒に“飯”をご飯をたらふく食わせてやりな!』
そう言って空中給油隊は、編隊に近寄ってきた。各機は其々順番に空中給油機から給油を開始する。航続距離がテリッサと比べて短いチーターSは、ここで給油しなければならない。
“飯”の食べ終わった機体は給油機から離れ、また別の機体が給油を開始する。
約1時間前後に渡った給油作業が今最後の一機で終わり、それと同時に空中給油機からこちらの編隊に無線が送られた。
『こちら給油機隊隊長機。貴君らの作戦の成功を祈る。』
「了解。補給感謝する。」
『あぁ、じゃあな。』
そう言うと空中給油機隊は、機首を編隊と逆の方向へ向け飛び去って行った。作戦空域まであと1時間。
「全機に通達。これより戦闘空域に入る。目標は帝国軍物資集積所!!健闘を祈る!!」
「2時下方より敵の迎撃機!!」
「全機かかれぇ――ッツ!!」
無線に聞こえてきた声と共に護衛機は、敵の迎撃機へと向かう。迎撃機はセイクウだった。数は約20機。速度はチーターSより遅いが、迎撃機なので20mm機関砲2門及び30mmガトリング砲を装備している。
チーターSは降下しながら、セイクウは上昇しながら正面から向き合い打ち合った。激しく火花を散らしながら機関砲弾が敵目掛けて飛んで行く。
ある一機のセイクウに狙いを定めたチーターSの20mm機関砲が火を噴いた。圧倒的速度で飛翔する複数の銃弾が清空の左翼に命中し、翼が折れた。そしてセイクウはバランスを崩して地上へと落ちて行く。
その隣のチーターSには2機のセイクウからの30mmガトリング砲弾が浴びせられた。連射速度の速いそれは瞬く間にチーターSをパイロットごと鉄屑へと変えてしまう。チーターS“だったもの”は見る影も無く空に消えた。
ルクスのチーターSは、敵の射撃を躱してカウンター攻撃を加えて撃墜し、そのまま一気に降下していった。
隣を見るとオーウェンのチーターSもいた。編隊はすでに崩壊し乱戦状態となる中で、二人は、二機編隊を組んで乱戦の中を暴れまくった。
三機のセイクウが護衛の機体を振り切って爆撃隊に襲いかかって来た。30mm弾がテリッサの胴体に穴を開ける。
「ぎゃあっつ!?」
機内に飛び込んで来た30mm弾が乗員達の体を切り裂く。さらに砲弾は4基のエンジンの内一発に命中。発火した。
「こちらエターラ2!!我エンジン発火!!戦―――――」
エターラ2の無線士がそんな事を叫んだ直後、エンジンが爆発した。爆発は、搭載していた爆弾に引火して、空中に“花火”を咲かせた。
丁度2機目を撃破したルクスは真上で花火が咲くのを見ると、すぐさま爆撃隊に取り付いた敵機を追い払おうと上昇を開始した。
「回避行動!!及び各機射撃開始!!あのハエ共を叩きおとせッツ!!」
編隊長の命令に答える様にテリッサに取り付けられた機銃が火を噴いた。もう一機に狙いを付けようと欲張ったセイクウ3機が弾幕の中に突っ込んでくる。コックピットに命中した弾が、風防を真っ赤な血で染め上げ、次の瞬間には爆散した。
さらにもう一機も弾幕により撃ち落とされていく。運よく生き残った一機が、反撃しようと機首を変えた瞬間、突如機関砲弾を全身に浴びクルクルと回転しながら落ちて行った。
「爆撃隊は進路を変えず直進せよ!!」
そう叫んだのは先程のセイクウを撃墜したルクスのチーターSだった。
「サンクス!あと3分で目標地点!全機爆撃よ―――――――――――――」
通信が切れると同時に、隊長機が火を噴いて落ちて行った。
「上だ!!」
誰が叫んだのか分からない。だが、その叫びと同時にもう一機のテリッサが爆散する。その横を3機の影が駆け抜けた。
「あれは―――!!」
3機の内の一機―――機体の後ろにプロペラが付いている狼のマークが描かれた機体。
―――ウルフだった。
3機は見事な編隊飛行を組んで次々とテリッサを撃墜していく。ウルフ達を撃墜しようと多数のチーターSが仕掛けるが、そのたびに3機の見事な連携によって撃墜される。
終いには、テリッサと衝突するものまで出てくる始末である。
瞬間、二人の目の前に突如チーターSが現れた。機体に書かれた番号を見るとそれはロスカ所属の機体―――
サイラス准尉の機体だった。
「准尉!!」
「二人とも無事だな!?編隊組んであいつ等を落とすぞ!!」
階級ではサイラスの方が上なので従わなければならない。二人はサイラスと共に三角編隊を作り、暴れ回っているウルフの編隊へ突撃をしかけた。