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第3話 ロストック

今回は後書きにおまけ小話がついてます。

連邦空軍でも最大級の規模を有するここロストック。今この基地にはアタフ爆撃作戦の為に各基地から大量の軍用機が集められていた。作戦に参加する機体はもちろん、元からこの基地に居た機体や輸送機。さらには作戦支援の為の部隊まで集まり絶え間なく離発着する光景は壮観だった。


「すげぇ・・・。」

「・・・・・・。」


その光景を口をぽかんと開けてみる少年兵が居た。オーウェンとルクスだった。


「何してんだ。さっさと行くぞ。」


不愛想にそう言うのは同じロスカからやって来たサイラス。階級は准尉だ。

3人はこの基地の担当官に着任報告をしてから割り当てられた宿舎で休むことになっている。担当官の男は適当な奴で、書類と一言確認を済ませたらさっさと退室許可を貰った。


「はぁ〜やっと一休みできる〜。」


そう言って割り当てられた部屋のベットに寝転がるオーウェン。


「にしても今回の作戦、かなり大がかりなものになってるな。」

「当たり前だ。ユーズの方面の海軍基地がこっぴどくやられただろ?その仕返しだ。」


腕を組み壁に背中を預けて答えるのはサイラス准尉。

ユーズ方面と言うのは、ここからはかなり遠い臨海部の方だ。

数か月前、この方面に侵攻してきた帝国軍の侵攻を何とか食い止めたものの、海軍基地は壊滅し、この損害を回復する為に連邦は多大なる資材と苦労を要した。

その仕返し――やられたらやり返す精神――の為に本作戦が行われると言っても過言ではない。

この報復の連鎖こそが戦争を長引かせているのだという事に、多くの人は未だ気づいていない。気づいていても見ようとしない。


「(・・・・・・この戦争は、いつになったら終わるのだろうか?)」


腕を組んだまま考えるサイラス伍長。彼にとって戦争とは止めなくてはならないものであり、戦争をどうにかする為に軍に入ったと言ってもいい。

実際軍に入って、そんな事は出来ないと悟ってしまったが。

そこでふとサイラスの頭にある事が浮かんだ。


「お前たちはどうして軍に入ったんだ?」

「俺?俺は唯給料が良いからですよ。うちは兄弟姉妹が多いから少しでも多く金が要るんです。だから軍に入りました。」


オーウェンの家は、地元では有名な花屋で、兄弟姉妹合わせて両手の指程の数が居る。

その大家族を養うためにオーウェンは軍に入った。

ちなみに何故空軍を選んだかというと、本人曰く「かっこいいじゃん!!」


「そういやルクスは何で空軍に入ったんだ?」

「え?俺?」


オーウェンから突如話を振られるルクス。二人が見つめる中ルクスは少し考えてこう言った。


「空が好きだから」














ロストック基地のブリーフィングルームでは大量の航空士が集まっていた。無論作戦会議の為である。


「―――――以上が本作戦における部隊の割り振りだ。各自今日はゆっくり休んでくれ。解散。」


作戦説明が終わり士官達が部屋から出ていく。


「なぁルクス。ちょっと散歩しようぜ?」

「どこに?」

「まぁいいだろ?」


そう言って強制連行よろしくルクスは引き摺られていった。


「で、一体何をするんだよ?」

「ふ、出撃前に軍人がする事なんざ決まってんだろ。女だよ。女。」

「いや、知らんけど・・・。」

「いいから行こうぜッ!」


そのまま襟首を掴まれて強制連行、行先は


「楽園だぁー!!」

「何はしゃいでんだお前は?」















ロストック基地の傍には大きな街がある。基地の隊員達の為の娯楽施設などが整ったこの大都市にある一つの建物。その前に二人は立っていた。


「・・・なぁ、やっぱりやめないか?」

「どうしてだよ?」

「だって俺達未成年だろ?こんなとこ入るのは・・・。」


ルクスの言葉を聞かなかったかのように中へ入って行くオーウェン。何故かルクスの襟首は持ったままで。


「あら、お兄さん軍人?」

「そうっす!」


中に入ると甘い香りが鼻をくすぐる。受付の女性の質問にオーウェンが答える。

ここでの料金は軍人の場合、連邦軍から直接払われる。その為軍人が自分の懐からお金を払う必要がないのだ。


「お兄さんここ初めて?ならこの娘が相手してくれるよ。こっちのお兄さんも初めて?」

「はい。」

「なら、あたしが相手しようかしら?」


突然かけられた声に振り向くとそこにはドレスを着た一人の女性が立っていた。


「あ、じゃあお願いします。」

「じゃあ貴方はこっちの部屋へ。」

「じゃあなルクス、また後で。」

「それじゃ。」


二人は分かれて別々の部屋へと向かった。




「あたしはエーファ。よろしく。」

「僕はルクス・・・です。」


いかにも大人のお姉さんと言う感じのエーファ。エーファはテーブルにグラスを置くとその中に液体を注ぐ。紫色の液体からはブドウの香りがしていた。


「美味しい・・・。」


程よい甘さが広がるジュースを飲み干し、グラスをテーブルの上に置く。


「所でさ、どうして君みたいな子供が軍人なんてやってるの?」

「空が好きだからですよ。」


あの蒼い空にあこがれてパイロットを目指した。そして今に至る。

その事を話すとエーファは自分のグラスにもう一杯ジュースを注ぎながらこんなことを話しはじめた。


「私も昔、君みたいな人に会ったことがある。勿論大人だったけどね。」


―――もう何年か前になるかな?

友人の士官達と一緒にここに来たその“彼”は他の人とは違ってどこか心此処にあらずって言うのかな?何と言うか雰囲気が違ってたのよ。

私が“彼”の相手をする事になったのだけど、彼はこのブドウのジュースを唯飲んでいるだけだったの。

私は試しに「どうしたの?遊ばないの?」って声を掛けてみたんだけど、そしたら“彼”、こう言ったのよ。何て言ったか分かる?


―――自分は空が飛べればいい。あの蒼い空が好きだから。―――だって。


ジュースだけ飲んで少し話しただけで帰って行った彼は2度と会う事は無かった。―――


「どうして、その話を僕に?」

「“彼”と同じ目をしてたから。」


そう言ってエーファはルクスの目をじっと見つめる。

蒼い二つの目の色はまるで空の様だった。


「ふふふっ。こんな所までそっくりなのね。」


そう言ってルクスを抱きしめる。豊かな胸にルクスの顔が埋もれるがエーファは気にせず抱きしめる。


「どうする?一応、楽しんで行く?」


そう言いながら抱きしめてくるエーファにルクスが戸惑っていると、ふとあるものがポケットから落ちる。

それはシェリーから貰ったお守りだった。中からはラミネート加工されたスクラが出てきてしまっている。


「あら、これは・・・。」


ルクスを開放しその花を拾う。


「これ、誰か女性から貰ったの?」

「え?ええ、そうですよ。」

「そう・・・・・・。」


そう言ってスクラを見つめるエーファ。不思議に思ったルクスは


「あの・・・その花。何か意味でもあるんですか?」

「・・・この花の花言葉は、『あなたの無事を祈ります』。昔から大切な人にお守りとして送る花よ。」


確かにあの時、シェリーは「お守り。」と言った。なるほどそう言う意味か。とルクスは今納得した。だが、実はこの花にはもう一つの花言葉があった。


「これ、ちょっと貸して。」


そう言うとエーファは部屋にあるタンスから自分の鞄を取り出すと、そこから小さな裁縫セットを取り出した。

それから5分後、ルクスの元に帰ってきたお守りは、何故か首から下げられるネックレスに改造されていた。


「・・・・・・・。」

「ポケットに入れていたら落とすから、首から掛けられるようにしたわ。」


裁縫セットをしまいながらそう言うエーファ。

とりあえず、お守りを首から下げてみる。特に違和感も無く、サイズもちょうどいい。わずか5分でこんな事が出来る彼女の腕は相当な物だろう。


「そのお守り、大切にしなさいよ。それと、それをくれた娘も。」

「あ、ありがとうございます。」

「いいのよ別に。あら、もうこんな時間?どうする?もう少し此処に居る?」


時計を見てそう言うエーファにルクスはもうすぐ晩御飯だからと言って断った。


「気を付けてね。ルクス。」


玄関まで見送りに来たエーファに手を振りながらルクスは基地へと戻って行った。

後に残されたエーファはくるりと部屋へと戻って行く。


「(スクラ・・・花言葉は、あなたの無事を祈ります。そして・・・)」



―――もう一つの花言葉は“好き”


基地に戻って飯を食べてシャワーを浴びて部屋の中で寝ているルクス。突然部屋のドアが開いたかと思うと、そこには服が乱れたオーウェンが立っていた。


「ど、どうしたんだ?」

「ルクス・・・・・。」

「な、何?」


ずんずんと近づいてくるオーウェンに若干の恐怖を感じながらルクスが聞くと、帰ってきた言葉は


「・・・女って・・・すごいな・・・。」

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