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第2話 スクラ

管制室ではルクスが敵機に遭遇した事が本人からの無線通信によって確認していた。


「この進路だと・・・帝国の空軍基地に向かうようですね。」


地図を見ながらそう答える管制官。だが今彼らの関心は敵機の進路ではなく


「狼マークの推進式プロペラ機・・・。」

「ウルフだ・・・。」


ルクスと交戦したあの狼マークの機体だった。


『ウルフ』


連邦の言葉で狼という意味だがその名前を管制室で無線交信していたシェリーには聞き覚えのなかった名前だった。そこで隣に座っていた先輩管制官に聞いてみた。


「ウルフってなんですか?」

「凄腕のパイロットだって聞いている。空であいつに勝てるパイロットは居ないって噂だ。俺は噂しか聞いた事が無いけどね。」


そう言って肩をすくめて見せる。いわゆる“エース”なんだろう。


『こちらルクス。敵機は東へ逃走した。指示を願う。』


無線機からの言葉に主任管制官を見る。彼は自分の机の上に置いてあった無線機を取るとルクスに指示を出した。


「こちら管制室。逃走した敵は放置してそのままパトロール任務を継続せよ。」

『ラジャー』


ブツッと言う音と共に無線が切れた。そして主任管制官はシェリーを見て


「司令にこの事を伝えて来い。」


そう指示を出した。










「失礼します。」


ノックをし中に居るメアリー司令に声を掛けてドアを開ける。

部屋の中には煙草の臭いが漂っていた。


「何か?」


煙草を吸いながらそう言うメアリーに対しシェリーは先程ルクスが敵に遭遇した事を話し始める。初めは興味無さそうにしていた司令だがウルフの名を聞いた途端眉をピクッと動かした。


「で、奴はどっちへ行った?」

「お、おそらく定期便の発着している基地だと・・・。」


定期便―――この場合は敵の偵察機が飛び立ってくる基地だ。いつもの小競り合いともいえる戦闘は大抵この基地の戦闘機と行われる。


「チッ・・・。」


メアリーは小さく舌打ちをすると煙草を咥えたまま命令する。


「パイロット全員をブリーフィングルームに集めろ。集まり次第作戦会議を始める。」

「それって・・・ルクスもですか?」

「当たり前だ!さっさと呼び戻せ!!」

「は、はいッ!!」


慌てて部屋を飛び出すシェリー。メアリーは煙草を灰皿に押し付けるとそのまま部屋を出た。









帰投するなりいきなり召集を掛けられたルクスは飛行服のまま作戦会議室へ入る。そこにはこの基地のパイロット全員がすでに集まっていた。

先程昼飯を食べ過ぎて自分にパトロール任務を押し付けたオーウェンを初め、腰に短剣を挿した男――サイラスや、眼鏡を掛けた優しそうな男――ヘンリー。部屋の端で無表情で腕を組んでいるキースの4人だ。ルクスも入れると5人になるだろう。


そこへ一枚の封筒を持ったメアリー司令と主任管制官。整備班長のササクラが入ってきた。


パイロット達は全員起立して司令に対し敬礼をする。それに敬礼で返すと司令は全員に座るように指示をした。


「全員揃ったな。これより伝えるのは司令部直々の作戦だ。心して聞くように。」


その言葉にその場にいた全員が緊張する。司令部直々の作戦ともなれば適当に聞き流すことなど滑走路3周ではすまない。ヘタをしたら自分の命に係わる。


「約1週間後、敵重要拠点の一つである“アタフ”に向けて爆撃をする。規模は戦爆合わせ約120機前後。」


その瞬間その場にいた全員が動揺する。120機もの戦爆編隊(この場合は戦闘機や爆撃機が合わさった部隊)を動員する作戦などこの場にいる誰も経験したことが無いのだ。

それ程の大部隊を動員してでも落とす価値のある場所が「アタフ」。そこは帝国の物資集積所や兵器工廠などの重要施設が集中している軍事拠点である。


「我々は明日部隊が集結するロストック飛行場へ向かう。だが全員じゃあない。最低でも2機は残る必要がある。」


説明を続けるメアリーをじっと見るパイロット達。彼らの内誰が残るのか?それが気になった。こういう重要作戦にはベテランが使われることが多い。そうすると少年兵であるルクスとオーウェンがこの基地に残る事になる。


だがメアリーが下した命令はパイロット達の予想とは違っていた。


「ここに残るのはヘンリーとキースだ。残りの三人は明日ロストックに飛んでもらう。」

「お、俺達が行くんですか!?」


思わずそう聞き返すオーウェン。

そのオーウェンにメアリーは肯定の意を示す。


「そうだ。ヘンリーとキースの機体はフーチャだ。それに引き替えお前等の機体は新型のチーターSだしそれなりに腕も良いと思っている。」

「よかったね。信頼されているんだよ。僕のフゥーチャーじゃそんな大規模な戦闘になっても足引っ張るかもね。」


そんな事を言ったのは眼鏡を掛けたフーチャ乗りのヘンリーだ。珍しく「フーチャ」を「フゥーチャー」と呼ぶ男である。


「まぁ足を引っ張るという訳では無いが基地の防空を少年兵に任せるのもどうかと思うしな。」


そう言ったのはサイラスと言う男である。


「まぁそれもあるが今回は大規模な戦闘の上に参加するほとんどの戦闘機がチーターSなんだ。二人にはすまないがこの基地を空にする訳にもいかないのでよろしく頼む。残りの3人はさっさと準備をして明日には出発できるようにしておけ。ササクラ、三人の機体のメンテを頼む。」

「分かった。」

「他に質問は無いか?」


そう言ってメアリーが辺りを見回すと一本の手が挙がっていた。手を上げた主は作戦が異議で一言も発せず腕を組んでいた男――キースだった。


「何か?」

「ウルフがその戦闘に参加する可能性は?」


低いそれでいてはっきりしたその声に全員が完璧に黙った。

その問いにメアリーはこう答えた。







――――確実に奴は来る――――









夜――基地の傍の原っぱで星空を見上げていたルクス。そしてその背後から近づく足音が一つ。彼はその足音の主を見ようと顔を上げる。暗がりでよく見えないが相手はゆっくりとこちらに近づいて来る。近づいて来たのはシェリーだった。


「こんばんは。」

「こ、こんばんは。」


たどたどしく返事をするシェリーにルクスは若干の違和感を覚えるが自分には関係の無い事かと割り切り再び空を見上げる。

対してシェリーは軍服のポケットに手を突っ込みそこから何かを取り出す。


「ルクス。これ。」

「ん?」


首だけを動かして見るルクスはシェリーの掌にある物体を見つめる。それは小さなお守りだった。ルクスは今度は体ごと向き直り差し出されたお守りを受け取る。


「開けて見て・・・。」


そう言われお守りの中身を空けてみる。すると中にはラミネート加工された一枚の花があった。蒼い花弁の綺麗な花は何所か儚げなようだった。


「これ・・・。」

「うん、スクラって言う花なの。お守り。」


そう言って俯くシェリー。スクラはここら辺では見られない花だというのにどこから手に入れてきたのだろうか?とかは考えずにルクスはお守りから取り出した花を月光にかざして眺めていた。


「それと・・・。」

「ん?」


俯い口をモゴモゴ動かすシェリー。そして何かを決断したように顔を上げると


「必ず・・・生きて帰って来てね。・・・伝えたい事があるから。」


そう笑顔で言うのだった。


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