第1話 ロスカ
初の戦争ものですので文章力はご容赦ください。
だだっ広い草原の中に大きな飛行場があった。
その飛行場に一機の飛行機が降りてきた。戦闘機だ。
そして滑走路に着陸した戦闘機はそのままハンガー前まで移動する。そしてハンガー前で止まる。そこでパイロットがエンジンを切ると機体の前に付いているプロペラが回転を止める。そしてパイロットは風防を開けて機体から降りた。
少年―――まだ18歳の少年パイロットだった。
「よう、ルクス。今日も生きて帰ってきたみたいだね。」
そう言って整備服を着た人が声を掛ける。
「ササクラ班長。」
そう言ってパイロット――ルクスは整備服を着た人――この基地の整備班班長のササクラ整備班長の名前を呼ぶ。
ヘルメットを脱ぎながら彼は
「今日も機体の調子は抜群ですよ。おかげでいい散歩になった。」
「パトロール任務を散歩呼ばわりとは、お前さんもデカい面出来るようになったね。」
「ここに来てもう2年ですから・・・。」
そう言って牽引車に引かれながらハンガーへと入って行く自分の機体を見つめる。連邦空軍の傑作戦闘機である『チーターS』。初めての自分の機体であり、彼と共に空を飛んできた相棒であるその機体を見つめているとササクラが
「ほらルクス。さっさとパトロールの報告済ませないと司令にドヤされるよ。」
「やばッ!!」
そう言って慌てて司令室のある建物へ向かうルクスを見送ってササクラはルクスのチーターSの整備に取り掛かった。
コンコンッとドアをノックして指令室へ入る。そして目の前の人物に敬礼して
「ルクス!ただいまパトロール任務より帰還いたしました!!」
「ご苦労。」
そう言って目の前の人物――ロスカ空軍基地司令のメアリーは吸っていた煙草を灰皿の中に捨てた。
「特に異常はなかったか?」
「はい。いつも通りの空でした。」
「いつも通り・・・の空か・・・。」
そう言ってメアリー司令は自分の椅子を回して窓の方を見る。
「羨ましいな・・・。」
「は?」
「いや、なんでもない・・・。戻っていいぞ。」
司令の小さな呟きはルクスの耳には届かず彼は敬礼をして部屋を出た。残された女性は煙草を取り出して火をつけた。
ルクスは更衣室で飛行服から通常の軍服に着替えていた。水色を基本としたこの服は空の青さをイメージしたものらしいが特にこれと言っての意味は無い。
そして自室で彼は日記を書いていた。パイロットとしての訓練課程を修了しこの基地に所属した記念に買ったこの日記帳は3冊目である。これは彼の数少ない楽しみでありそして記録でもあった。
そんな中、自室の扉の前に一人の男が立っていた。その男はルクスの居る部屋の扉を開けると
「よう、ルクス!!キャッチボールの相手が欲しいんだ!!一緒にやろうぜ!!」
自分の左手にはめてあるグローブを見せながらそう言った。
「オーウェンか・・・。せめてノックくらいしてよ。」
「別にいいじゃないか。それよりも早くやろうぜ。」
右手に持っているボールをグローブに投げる事を繰り返しながら彼―――ルクスと同じ18歳の少年パイロットのオーウェンは急かした。それに対しルクスは若干呆れたように笑うと書きかけの日記帳を閉じて部屋の棚の上に置いてあったグローブを持つ。早くキャッチボールがしたくてたまらなくウズウズしているオーウェンと共に外へ出た。基地の裏にあるスペースを使ってそこでキャッチボールをする。
「ヘイ、ルクス!」
オーウェンが放った勢いのあるボールはまっすぐルクスのグローブに収まる。それをルクスはグローブをしていない方の手で投げ返す。
「そう言えばルクス。今日のパトロールはどうだった?」
「特に何も無いよ。」
そう言って投げ返されたボールを受け取る。オーウェンのグローブに狙いを定めるとそこへ投げる。
「そうか・・・、敵機が出てくれば功績が増えて昇進できるんだけどな。」
そんな事を言いながらボールを投げるオーウェン。実際戦闘になれば敵機を撃ち落として功績を立てるという事も出来るだろう。だがそうなれば此方が撃墜される恐れもある。だからルクスは戦闘が嫌いだった。あれは敵を・・・仲間を・・・人間を殺す。
戦闘機に搭載されている20mm機関砲は機体を抉り穴を開ける。燃料タンクやエンジンに喰らった時はそのまま爆発して脱出する間も無くパイロットごと空へ消えていく。
コックピットに当たった時はパイロットが一瞬で肉の塊となり血を風防にべったりと付けて落ちて行く。
ルクスはその光景を見た事があった。自分の撃った弾で相手のパイロットが肉塊へと変わる瞬間を。
「戦闘なんて無い方がいいさ。・・・ろくなもんじゃあない。」
「じゃあさ、お前はどうして空軍に入ったんだよ?軍隊は戦争をする所だぜ?」
ボールを投げながら聞いてくる親友に対し彼はこう答えた。
「何でだろうね?」
飾り気の無い小さな食堂。そこに二人の少年はいた。彼らはキャッチボールをした後、昼食を食べにここへやって来た。給仕兵からトレーに乗った昼食を受け取りテーブルに座る。
「あ、ルクスー!オーウェン!」
そう言って昼食のパンを食べながら談笑していた二人に声を掛ける少女がいた。
「おー、シェリーじゃん。」
オーウェンがその人物の名を呼ぶと少女はトレーを持ちながら二人の居るテーブルに来た。
彼女の名はシェリーでこの基地で無線士をしている少女だ。
「相変わらず良く食べるね。オーウェンは。」
「腹が減ったら戦争なんてやってられないんだぜ。」
そう言って2人分の食事をぱくぱく食べるオーウェンを見ながら残りの二人も自分の食事を食べ始める。今日の昼食のメニューはパンにスープとベーコンとサラダだった。
とそこで掃除機のように自分の料理を食べていたオーウェンが口を開く。
「所でシェリー。お前地上勤務はどうなんだ?」
「別にこれと言った事は無いわ。いつもどうり滑走路へ誘導とか他の基地との定期交信とかそのくらい。だけど・・・。」
「「だけど?」」
そう言って語尾を濁すシェリーを二人が見つめるとシェリーは周りが聞こえないような小さな声で話し始めた。
「近々帝国に向けて大規模な攻撃があるみたい。その攻撃隊の護衛にこの基地から戦闘機を出すっていう話を司令が無線でしているのを聞いちゃったの。」
「いいの?そう言うのって軍事機密じゃないの?」
「でも、司令に口止めはされなかったし・・・。」
そう言って今言ったことがかなり不味い事だったんじゃ無いかと思い始めるシェリー。
「まぁ、口止めされなかったんならいいんだろうけど・・・。」
そう言いながら口にパンを運び込むオーウェン。彼が食べたパンはこれでもう4個目だ。
二人も一度この話題は止めて自分の料理を再び食べ始める。だがルクスはさっきの事が気になってしょうがなかった。『帝国への大規模攻撃』大規模となれば戦術爆撃機がおそらく10機以上は出されるだろう。そしてその護衛にこの基地のパイロットが参加するとなると当然ルクスやオーウェンも駆り出される可能性がある。しかもいつものパトロール任務と違い攻撃任務だ。当然敵からも迎撃機が上がってくることだろう。そして侵攻する方面によってはそれが10機にも100機にもなる。そんな大規模な空戦の中を生き残る自信は彼には無かった。そんな中で生き残る運も無いと思っていた。何度も急上昇急降下を繰り返し機銃の残弾計が空になるまで引き金を引き続け敵を撃ち落とし続け・・・一瞬の油断と状況で撃墜“される”。そんな激しい戦闘の中で生き残れる程の自身はルクスには無かった。そしてその戦闘を想像しふと思い出す。
「そう言えばオーウェン午後パトロール任務入ってるだろ?そんなに食べて大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。俺の胃袋は頑丈だから。」
「何が俺の胃袋は頑丈だ。だよ・・・。」
そう言いながら少年―――ルクスは自分の愛機であるチーターSに乗りながらそんな事をぼやいていた。
本来ならばオーウェンが午後のパトロール任務の担当だったのだが案の定食べ過ぎで腹を壊し代わりにルクスが飛ぶ事になったのだ。まぁルクスからしてみれば空を飛べる時間が増えた事には感謝している。彼は戦争がしたかった訳でも戦闘機に乗りたかった訳でもない。ただ単に『空を飛びたかった』それだけの理由で空軍に入った。民間航空会社のパイロットでは空きが出来る事は少ないし年齢が25歳以上と決まっている。20歳で会社に就職しても5年は勉強しなくてはいけないし勉強を終えてもパイロットになれる保証はない。それに対し空軍は戦争によりパイロットの席は大量に空いている。戦闘で命を落とした者達の穴埋めとして新しいパイロットが起用される。それに軍隊なら2年でパイロットとして空を飛べるからだ。そんな理由が彼を軍人にした。
そんな空を飛ぶ事が好きな少年パイロットは青く青い空を飛んでいく。銀翼が太陽の光に照らされ綺麗に輝いている。いつまでもこの空を飛んでいたい。そんな事を考えながら飛んでいるとふと上空の雲の切れ間から小さな黒い影が見えた。数は3つ。それが段々とチーターSへ近づいてくる。ルクスが目を凝らして見るとそれは
「帝国の・・・戦闘機ッ!?」
その瞬間スロットを全開にし操縦桿を右へ倒す。その操作に素直に従い右へ急転進するチーターSが先程まで居た場所へ唸りを上げながら機関砲弾が飛んできた。
そして一気に降下してチーターSを通り過ぎる。その内2機はいつもパトロールで遭遇する帝国の主力戦闘機「セイクウ」だ。これまで何度も撃墜した事のある機体である。だがもう一機は見た事の無い機体だった。「セイクウ」やチーターSなどの牽引式プロペラ機と違い、機体の後ろにプロペラが付いている珍しい推進式プロペラ機で機体の横には狼のマークが描かれた機体だ。その3機の内2機のセイクウはそのまま降下してチーターSから離れていく。だが残りの狼マークの機体はチーターSへと機首を向けた
「―――――ッ!!」
それを見たルクスは慌てて操縦桿を動かすと、次の瞬間には狼マークの機体の機銃が火を噴いた。それを宙返りの要領で躱す。一度お互いの距離が離れると今度はルクスから仕掛けた。相手の後ろに回り込もうとするが相手は決してチーターSの射線に入ろうとしない。
一瞬照準器の中に入った敵機に反射で引き金を引くが当たらない。
そして相手が急上昇しそれについて行った。すると
「――!?」
“突如目の前から敵機が消えた。”
慌てて辺りを見渡すと後ろから自分の機体ではないプロペラ音が聞こえてくる。まさかと思い振り向くとそこには先ほどの機体がいた。
「え」
さっきまで目の前にいたはずの敵は何時の間にか後ろにいた。そしてチーターSを悠然と追い越すとそのままセイクウが去った方へと飛んで行ってしまった。
「あいつ・・・。」
そう呟きながらルクスは3機が消えて行った方向を見つめていた。
いかがでしたか?
こんなものですがよろしくお願いします。




