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ジュエル☆クイーン♡スクーリング  作者: 葉月 優奈
九話:兄と妹とフローライト
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あれから二時間後、俺たちは発表のために講堂に訪れていた。

この講堂は、朝から音楽系の部活が演奏を続けていた。

オオトリというのはプレッシャーがかかるのは当然だ。

部長のくじ運の良さに困惑するしかない。

しかも俺たちの前が、人気ナンバーワンの女子軽音部だ。


体育館は異様な盛り上がりに包まれていた。

「次、行くよ!」

などとかわいらしい女の声が聞こえると、体育館のステージにはギターの音が響く。

それに合わせての観客の歓声と盛り上がり。


「なあ、これって罰ゲームだよな」

と工藤先輩がすでに白旗モードだ。

「噂には聞いていたが、ウチの軽音部って週末は駅前で路上ライブしているらしいよ」

「うっそ、マジ?」

舞台袖から見える軽音部の盛り上がりはかなりのものだ。

アーティストと観客(オーディエンス)の一体感は、最高潮の盛り上がりだ。


「ああ、ここまで盛り上がられると出にくいよな」

明らかに空気に飲まれていた俺たち。だけどこの人は違っていた。

「何を言う!」

いきり立つ部長がノートパソコン片手に、自分の作品をチェックしていた。


「今まで約一年、この日のために俺たちはやってきたのを忘れたのか?」

「お、おう。そうだな」

そう、俺たちはパソコン音楽部に晴れ舞台が岩本祭のステージ以外にほかにない。


一年間ずっと来る日も来る日もパソコンに向かい続けた。

晴れの日も、雨の日も、雪の日も、純花に腕関節を決められて腕が折れそうな日も。

「そうだった、俺たちはこの唯一の晴れ舞台のために頑張って来たんだ」

「ありがとう、KUNI」

みんなが部長の言葉で一つになる。

部長はいつもの部長だ、妹に過剰すぎる愛情を与えたその顔はない。

ノートパソコンから顔を上げつつ、淡々としゃべる。


「じゃあ、順番の確認だけど……始めが菅原。

それから石野、工藤、難波、最後にオレこれで行く。パソコン操作は菅原な」

「はい」俺たち四人の部員が順番を確認した。


ステージに出るのは部長だけだ、スクリーンの調整とMC。

後の四人は、部長が出たらステージ奥に向かう。

俺の作品は、一分半のショートバージョンだ。

ボイカロイトにかけた一年の集大成、それを披露するからさすがに緊張する。

ましてやさっき部長と喧嘩もした。


「あの……さっきは」

「佳乃のことをお前はちゃんと見ている。今回のはお前の彼女の話だろ、女たらし」

「ええっ、よくわかりました」

「当り前だ、お前の彼女だろ」

「ええ、佳乃の友達です」

「……そうか。佳乃の友達になってくれたか」

すがすがしい顔で、先のステージの方を見ていた部長。


「佳乃は友達がいないからな、同性も異性も」

「部長は佳乃のことをよく御存じですね」

「伊達にストーカーはしていない」

そこは否定しないんだ、俺は苦笑いをした。


「そろそろ時間だな、菅原」

「はい」

「終わったら佳乃にちゃんと謝ろうと思う」

「ええ」俺は部長と軽くハイタッチをした。

だが、そんないいムードをブチ壊すかのように走る足音が聞こえてきた。

そして舞台袖に出てきたのは、


「ミツノマル、いる?」

「あ、純花っ!」

「ミツノマル、そろそろ出番でしょ!あたしがとうとうやって来たわ!」

そう言いながら、出てきたのは純花だ。

息を切らしながら、関係者立ち入り禁止のドアを平気で破って舞台袖に侵入してきた。

さすがは学校一の変り者だ。


「な、なんで来るんだよ!」

「いいじゃない、彼女が応援しに来たんだからむしろ喜びなさい。

そういえば、ここ舞台袖ってやつ?壇上が見えるわね」

「お前、前にここ来ただろ!」

「入学式以来かな、挨拶で」

純花は入学式の時にここで歌を歌った。

新入生挨拶に自ら立候補をしてなぜか歌を歌った純花。

たちまち、学校内の『変りモノ』レッテルが貼られたいわくつきの場所だ。


「それに、従弟が頑張っているところみたいじゃん」

「あっ、僕か」

工藤先輩はじっと純花を見ていた。太っている工藤先輩に純花が手を振った。


「まあ、あたしの彼氏の方が最高だけど」

「やっぱり自慢か、まあいいさ」

ちょっと悔しそうな顔を見せつつも、大人の返しを見せた工藤先輩。

工藤先輩って体も太いけど、こうしていると声も太いな。


「僕の音楽を見て、びっくりするなよ。スぺクタルな映像美を見せてやる」

「楽しみにしているわ。あっそれから、伝言よミツノマル」

「なんだよ?」

「佳乃がもうすぐ来ると思うから、みっともないのを出したら体固めするから」

「体固めって、佳乃は絶対言わないけど」

「分かった」それに反応したのはなぜか部長だ。

眼鏡をかっこよくかけてじっと純花を見ていた。


「いいんですか?純花の『体固め』腰折れるぐらい痛いですよ」

「……そうか」

俺の言葉に、部長は何事の無かったかのように振る舞う。ちょっと体が小刻みに動いているが。

純花……頼むから俺以外の奴にプロレス技をかけるなよ。

そう思っていると、奥から声が聞こえた。


文化祭実行委員のメガネ男子が、声をかけてきた。

「それじゃあ、そろそろ演奏終わるから。パソコン音楽部用意お願いします」

「はい、パソコン音楽部。オオトリをいかせてもらいます」

部長が一声かけて、俺たちは用意へと動いた。


ステージは軽音部があまりにもヒートアップし、アンコールも鳴り響く。

そんな中を退場する軽音部。

それが俺たちのパソコン音楽部のショーの幕開けの合図だった。

部長が軽音部と入れ替わるようにステージに上がったのだ。



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