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あれから一時間、今は昼の二時ごろだろうか。
俺はすぐに行動に移した、いきなり佳乃が死ぬピンチだ。
おそらく佳乃を殺そうとするのは部長なのだと思う。
といっても画像は出ていなかったわけだが。
佳乃の問題はまだ解決していないい、むしろこれからが本番だ。
(やはり、こことは話をつけないといけない)
俺の顔が自然と緊迫感に包まれた。
部室には俺の他に部長が来ていたから。
部室のホワイトボードには『二時半集合・発表ミーティング』と書かれていた。
時間は一時半、そんな俺のそばにはスマホがあった。
そして何より、俺の目の前には部長が来ていた。
こうしてみると部長は時間に対してきっちりとしている。随分と几帳面なのだろうか。
「菅原、何のつもりだ?佳乃は?」
「ええ、話があってあなたをここに呼びました。
佳乃はここにはいません、クラスメイトと一緒にポップコーン屋でしょう」
「騙したな!」
早速怒りを見せていた部長。騙してでも俺は部長を呼んだ。
「部長とはどうしても話さなければならなかったので、佳乃について」
「佳乃を名前で呼ぶな!」
「それでも俺は介入します、由のためですから」
俺と部長が互いに顔を見合わせた。睨み合う俺と部長。
重苦しい空気が立ち込めて、一触即発の雰囲気漂う。
「ならばなぜおまえが干渉する?」
「干渉ではないです……協力です。佳乃が兄離れするために」
「兄離れだと?」
「佳乃はもう子供じゃないんだ、部長には悪いけどここは引いていただきたい」
「ふざけるな!お前に何が……」
「佳乃は泣いている、クラスメイトが泣いたんだ」
俺は毅然とした態度で部長に立ち向かった。
俺が部長の家族にどうこう言える立場じゃないのは、分かっている。
でも佳乃の涙を見て、フローライトの苦しみを知った。
彼女はもがいている、その助けにどうしてもなりたい。
人知れず苦しんでいる佳乃のことを助けたかった。
「何もわかっていない、佳乃は友達も何もいない。
そんな佳乃は誰が支えになる?」
「俺がやります」
「ふざけるな、彼女もいるお前が妹にまで手を出すな!」
怒った顔で部長は俺の横を通り過ぎようとしていた。
でも俺はまっすぐ向いていた。
「でも部長は佳乃の苦しみを知っているんですよね」
「……苦しんでなんかいない。俺がずっとそばにいればいい」
「それでも佳乃の成長を助けてこそ、兄じゃないんですか?」
俺の言葉に、部長は一瞬はっとした顔を見せた。
「佳乃はみんなに心配されないように、いつも穏やかな顔をしている。
にこにこして、俺たちのクラスでもアイドルだ。
だけど、佳乃はそこでせめぎ合って苦しんでいた。
佳乃にとって、自分の気持ちを言える人間がいなかったから」
「佳乃は……」
「佳乃は子供じゃないんです、いつか離れていくんです。
だから部長もそう考えているんじゃないかと」
俺の言葉に部長は肩から崩れ落ちた。
「甘えていたんだ、オレが」
崩れた部長のそば、俺もうつむいていた。
「知っていたんですね」
「……ああ。佳乃が誰かを頼った時から。
まさか、お前が最近の佳乃の変化に関わっていたとは」
「佳乃のことをやっぱり部長が一番見ていると思いますよ」
俺はせめてもの言葉を部長に送った。
部長には佳乃に対しての愛があったから。
それは佳乃が受け止めきれないほどの、とてつもない強い愛情があったから。




