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それは見慣れたパソコン部の部室。
俺はいつの間にかパソコンの前で眠っていたようだ。
頬に感覚があって、頬のあたりには缶コーヒーが見えた。
それと同時に血色のいい部長。顔の肉が削げ落ちていない、人間の部長だ。
「起きたか」
「ぶ、部長。人だ!」
そこにいたのが伊勢ヶ崎部長だ。
コーヒーの缶を、机の上でうつぶせになった寝ている俺の頬に押しつけていたのだ。
「何を言っている寝言か?」
「あっ、すいません」
目をこすって体を起こして、俺はぼんやりとする頭で少し理解した。
どうやら製作途中に眠ったらしい、画面内のKUNIがエンドレスにダンスをしていた。
「菅原、終わったか?」
「えっ……あっ……まだのようです」
パソコン画面には、未完成のCGキャラの振り付け途中が残っていた。
「もう、朝だぞ」
「えっ、ホントですか?」
俺は部室の中で必死に時計を探した。
探さなくても分かった、窓があいていて朝日が差し込んでいたから。
それははっきりいって、俺が事の重大さを感じていたからだ。
「ヤバイ、間に合わない!」
頭を抱えて、パソコンのCGをじっと見ていた。
今日は既に文化祭当日、徹夜をして途中で眠ってしまった。
時計は既に六時半を回っていた。文化祭の開始は九時だ、後二時間半切っていた。
「菅原、大丈夫か?」
「あっ、すいません。展示の方が……」
「データを渡せ、昼までに片づけないと夕方の発表に間に合わん」
「部長、手伝ってくれるんですか?」
「ああ、工藤もいる」
そう言いながら部長が言うと、工藤先輩がにこやかな顔で見ていた。
事の重大さを聞いてか、ほかの二年生部員も俺のそばに集まっていた。
「しょうがないな、今回だけだぞ」
「ありがとうございます」
俺はデータを分割して、部員全員に僕の仕事を頼んだ。
だけど、俺はそんな手際よくやる部長をじっと見ていた。
(この人には話さないといけない)
そう単純に思えたから。




