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――俺は佳乃と一緒に文化祭を歩いていた。
学校は文化祭によって独特の変化をしていた。
綺麗に彩られた学校。あちこちのクラスや文化部の出し物を広告する看板が見えた。
それは華やかな学校の雰囲気。俺はこういうにぎやかな雰囲気は、好きではないが嫌いでもない。
そんな俺のそばには佳乃。少し照れた彼女の体温を感じながら俺と一緒に歩く。
「佳乃、今日はやっと文化祭を楽しみめそうだな」
「はい、菅原君のおかげです」
「いや、佳乃がクラスで頑張ったからだよ」
すぐさま俺は佳乃の頭を撫でてあげた。
佳乃は嬉しそうに俺に笑顔を見せてくれた。
クラスのアイドルの佳乃の笑顔を独占できる、本当に彼女ができたみたいだ。
「じゃあどこに行く?」
「えと……あれはどうですか?」
「お化け屋敷か、定番だな」
「ダメ?ですか」
「いや、行こう」
俺がそう言うと、佳乃の手を引いてお化け屋敷の中に入っていく。
……それから数分後、俺は顔を青ざめていた。
「怖ええっ」
「光輝君は怖がりサンですね」
「ははっ、情けないよ。男として」
かわいく佳乃に笑われてしまった。
俺は背筋が凍る想いで、震えが止まらない。
何故だろう、余計に今回のお化け屋敷は怖く感じた。
「それにしても、暗闇が苦手なんですね」
「なんか暗闇って怖いよね。あまり前が見えないと足がすくむっていうか」
「そうなんですか」
「うん……苦手なんだ」
暗いところが苦手な俺は、佳乃に逆にしがみついていた。
こういうところでは男として情けなく思う。
俺と佳乃は廊下を歩きながら、そんなたわいもない会話をしていた。
こんな時間が永遠に続けばいい、そう思える夢のような時間。
だけどそんな穏やかな時間は突如破られた。
その俺と佳乃の前には腕を腰に当てて現れた純花。
道を阻むかのように現れた純花は、じっと俺たちを見ていた。
「ミツノマル、何しているの。まさか……このあたしがありながら」
「純花……待て」
そんな純花が不敵な笑みを浮かべながら、ズンズンと俺の前に近づいてきた。
もちろん不満たっぷりの顔で俺を睨んできた。
「やばい、これは。逃げよう」
「えっ、はい!」
俺は手を引いて純花から背を向けて走り始めた。
威圧感を放つ純花という存在だ、捕まったら無事では済まない。
「待ちなさい……さもないと」
純花の声が徐々に太くなっていく。
そんな背後の純花の影が、だんだんと大きくなった。
大きくなった純花は、頭が天井まで突き上げて破壊していく。
ガラガラっと、天井が崩落する音が聞こえた。
(なんだ、何がどうなっているんだ?)
そんな俺たちの前に、さらにもう一人厄介な人物が立っていた。
「菅原、手を挙げろ!」
なぜか軍服を着て、拳銃を持ちながら目の前をふさぐように部長が立っていた。
ゾンビのような顔で顔の肉が削げ落ちた部長は、拳銃を構えていた。
背後から純花も襲い掛かってくる。
「部長これは……」
「お前は佳乃を奪った……絶対に許されない」
「佳乃……こっちに」
「待って、菅原君!これ……」
そう言いながら佳乃は、俺の頬にいきなり右手の掌を押し付けてきた。
グリグリと押し付けてきた佳乃に、俺はさらに驚いていた。
なんだか掌が冷たいな。
「佳乃……」
「菅原……起きて」
そんな声が、天から聞こえた気がした。
間もなくして俺の視界が明るく光が強くなった――




