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佳乃は体が弱い、それ故に外の世界をあまり知らない。
ずっと教室で何気なく観察して気づいた。
佳乃はクラスでみんなとまんべんなく話すけど、とても親しい人間はいない。
彼女は上辺だけであわせているだけなのだ。
話しかけようとしても、思いとどまってやめてしまう。
そんな佳乃を見ながら俺は、あることを思いついた。
翌日の学校、俺はきっと初めてだろうアイツのクラスに向かった。
隣のクラスで、アイツは妙に笑顔で俺に近づいてきた。
昼休みに向こうのクラスに行くのは初めてで、向こうのクラスは昼休みになると生徒が多い。
友達同士で食事したりおしゃべりしたりの和やかな昼休みだ。
「あら、ミツノマルじゃない。あんたからあたしを呼ぶなんて珍しいわ」
それは佳乃と同じ年の純花だ。
お気に入りのヘアピンをつけて、少しご機嫌な純花。
「何胸を見ているのよ!あたしは忙しいんだから」
「いやいや、悪い。純花って友達いるか?」
「なによ、あたしをバカにしているでしょ」
「だったら美術の時間で余ることも……」
「うるさい、いないわよ!」
純花はものすごく不満げな顔を見せた。
リア充高校生活を目指す彼女にとって、友達というのはキーワードの一つと思うが。
「純花は友達になれそうな女子とかいるのか?」
「でもいいの、あたしは学校を卒業したら世界を変える人間になるんだから。
鬼才、天才ってそういうモノでしょ」
「まあ、天才より天災だけど」
「何か言った?あたし帰るわよ」
ふてくされた純花を俺は必死になだめた。
「わるいわるい。で、純花に友達になってほしい人がいるんだ」
「友達になってほしい人?」
「そう、そいつも友達が少なくてな……」
「ふーん、そう」
難しそうな顔で純花がじっと俺の方を見てきた。
眉をひそめて、俺を睨んでいるようにさえ見えた。
「ミツノマルも友達いないでしょ」
「ああ……まあ」
「だからそんな考えをするんだ」
「どういうことだよ?」
「友達って、頼まれてなるものなの?」
「あっ、そか」
純花のいう事は正論だ、なにも間違っていない。
友達になるのに頼まれてなるのはなんだか変だ。
「そうね、それにミツノマルが言うのって伊勢ヶ崎さんでしょ」
「そうだな……分かっていたのか」
「なんか、最近やたらと伊勢ヶ崎さんに対して必死になっていたから。やっぱかわいいから?」
「ち、違うよ。かわいいより……」
「じゃあ胸とか?」
「ば、バカ言うな!」
俺は必死に抵抗して、純花の胸を見た。純花の胸はさすがにAカップと言ったところか。
「何見ているのよ」
すかさず、純花は俺の腕を取って腕ひしぎ十字をかけてきた。
「ゴメン、ギブ!」
「ふん、あたしはどうせぺったんこですよ~」
「何ムキになっているんだ、佳乃はそんな乱暴なことはしないぞ」
「あっ、伊勢ヶ崎さんで思い出したんだけど……知っている?このクラスでのこと」
「何が?」
「伊勢ヶ崎さん、毎日ずっと一人でクラスの出し物を準備しているの。
だけど……なんていうか異様だったわ」
「純花……その話を詳しく教えてくれないか?」
それは純花に聞いて初めて知った。
少し悔しそうな顔で純花は全てを教えてくれた。




