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~~エメラルド城・フローライトの部屋~~
これがジュエル☆クイーン♡スクーリング、そして三度目のゲーム開始だ。
三度目であっても、俺は自宅で始めるのにいつも緊張していた。
最初はあまり抵抗がなかった、純花も戸破もよく知っていた人間だから。
でも佳乃は違う、俺は佳乃のことをほとんど知らない。
何気なく指輪を渡しながら、後ろめたさや罪悪感があった。
それでも俺は、ジュエル☆クイーン♡スクーリングへ彼女を参加させた。
(ごめん……佳乃)
そう心の中で罪悪感にさいなまれながら。
最初に出てきた文字は『フローライト』、これが指輪だ。
関係ないけど佳乃は結構スタイルいいからな。
穏やかでかわいいし、足は細いし、胸も……って何を俺は期待しているんだ。
などといいながら最初の画面を見て、驚いてしまった。
見た目は青い部屋。壁、床、窓に天井までも青で統一された部屋だ。
その中に置かれた家具は、白や黒を基調としていた。
綺麗だけどどこかもの寂しさのあるそんな部屋。
「泣いて……いる?」
そこには裸だけど体育座りで泣いている佳乃がいた。
頭を下げて、嗚咽を上げて大声で泣いていた。
感情が爆発している彼女は、小さな体を震わせていた。
「私なんか……」
「佳乃?」
「えっ」
ふりかえった彼女の目は涙が見えた。目に涙をあふれさせながら。
慌てて涙を拭きながら、佳乃はいきなり俺から距離をとった。
それは純花や戸破と違う対応、警戒されていた。
「どうしたの?」
「来ないでください!」
「来ないでって……俺は一応大臣なんだけど」
「ご……ごめんなさい」
そう言いながらも、彼女は距離をしっかり開けて俺を見ていた。
まるでライオンに怯える小動物のようだ。
「君の本当の名前を聞いていないね」
「フロー……」最後まで発音したらしいが最後まで聞き取れない。
「フロー?」
彼女は明らかに怯えていた、警戒さえされていた。
俺はゲーム画面前で頭を掻いていた。
(困ったな、これは会話にならない)
半ばあきらめかけていた俺に、救いの手が差し伸べられた。
「フローライトじゃよ」
それは足元あたりから聞こえてきた。
見えた先には青い三角帽の小人、ドワ太だ。
そのドワ太も彼女同様、なんだか元気がない様子だ。
ドワ太を見るなり、佳乃と同じ姿のフローライトはさらに縮こまっていた。
体育座りをしたフローライトは、頭をつけてずっと泣いていた。
「まずは、やっとわしの担当する子を育ててくれたのじゃな。礼を言おう」
「はあ、担当……ねぇ」
誰が誰の担当か俺はよくわからないが。
それでも落ち込んでいるドワ太は、セクハラドワ太や襲い掛かるドワ太とは様子が違う。
「じゃが安心するのはまだ早い。フローライトはある問題を抱えている」
「ある問題?」
「フローライトには死亡フラッグが出ないのじゃ」
「出ないか……いい事じゃないか」
「そうじゃな……だが女王にするにはなかなか不憫なものじゃよ。
よく言うだろう、苦労は若いうちにしろってな」
「随分古臭い格言だ、俺はそれが正しいとは思わない」
俺は呆れた顔でドワ太を相手していた。
まあ小人と言えど、老人だから少し落ち着いていたが。
「という事は問題が彼女はないということ……じゃないのか?」
「それはない、むしろ彼女が大臣に心を開いていないのだろう」
痛いところをつかれて、俺は頭を抱えた。
確かに佳乃のことを俺はよく知らない。クラスメイトでも名前を知っていても話すことがない。
好感度ということを考えれば、顔見知り程度だ。
俺は佳乃と知り合ったのはつい最近だ。
クラスにずっといたのは知っていたが、佳乃はクラスではアイドルだ。
一方の俺は数字オタクで、しかも変り者の純花と恋人だ。
「ただ、佳乃は6が好きだならな。おおらかなのは間違いないさ」
「なんだそれは?」
「お前には永遠に分からないだろう」
俺の質問にドワ太がひいていた。
ドワ太の引きっぷりを見て、俺は両手を広げて首を横に振った。
「そんなことより佳乃を助けるには?」
「まずは近づく事が大事だろう」
「そうだけどな……近づくにはどうすればいい?」
俺が近づこうとすると、佳乃が座ったままで後ろに下がっていく。
もう一歩足を踏み出すと、佳乃が尻を動かしながら逃げていくように離れた。
明らかにこっちを警戒していた。
フェイントをかけても、佳乃は俺からどんどん離れていく。
全く距離が縮まらない、同じ距離感で泣いていた佳乃。
「ダメだ、距離が縮まらない」
「長い戦いになりそうじゃな。だが応援するぞ……きっとお主ならできる」
「なんと無責任な……お前は本当にヘルパーか」
「ヘルパーじゃ、だから助けん」
ドワ太は都合のいいことを言いながら、やはり佳乃と同じように俺から離れていく。
取り残されたのは水色の部屋に俺と佳乃。
「フローライト、俺は君についた新米大臣だから、こっち向いて……逃げないで」
そう語りながら近づいて行った。それだけしか俺には手段がなかったから。
困った顔で言う俺に対し、フローライトはやはりこちらを警戒していた。




