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それからいろいろあって俺はパソコン音楽部の部室に戻った。
結局佳乃の件を処理することで既に夜八時だ。
後一時間ほどで学校が完全に閉まる。俺は遅れたボイカロイト製作を急ピッチで進めていた。
この部活には顧問はいるけど、おそらく帰っているだろう。
部長は少し遠くの給湯室で、今頃カップめんを食べているはずだ。
(一時間か)
時計を見ながら、俺がパソコンに向かっていた。
部長はどうやら出かけていていない、カバンがあるので戻ってくるだろう。
そんな俺はそばに置いてあった指輪を見ていた。
(佳乃は何を隠しているんだろうか?)
だけど、逆に言えば佳乃は本音で話したことがない。
さっきビニール袋を持って帰った時、教室には誰もいなかった。
つまり佳乃は俺に嘘をついていたのだ。
佳乃には考えてみれば俺はいくつも騙されていた。
頼んだストーカーも本当は部長だったし。
佳乃の純粋さ、天然そうな雰囲気に俺は二度も騙されたのだ。
だけど一つだけ分かったことがあった。
(彼女は弱い……体が)
弱い女に男は弱いという事か。皮肉なものだ。
ただ一つだけDSPと指輪があれば彼女の本音が聞ける。
それは彼女を覗くことだ。
つまりこれは、ジュエル☆クイーン♡スクーリングのゲームに参加させること。
始めは面白いだけだった。
知っている人間がパラメーターの様に出てくる。
人間が数字の様に評価されて、それを俺は教育することで導いていく。
だけどそれには本人の問題があって、プライバシーもある。
(俺はどうしたい?)
自分に問いながらパソコン画面にいるGCキャラ『KUNI』に呼びかけた。
相変わらず同じ動きを見せたKUNI。同じ声と同じ場所で同じような笑顔で踊っていた。
(佳乃を知りたいのか……佳乃の闇を……)
そんな俺の中には、何か開いていたように見えた。
そこにいたKUNIは『あなたは好きにすればいい』とそう歌っていた。
これは俺が歌詞をつけたものだ。
純花をイメージしてつけた歌詞を、CGツインテールのKUNIが歌う。
機械音の感情のこもらない声で。
(そうだな、好きにすればいい……か)
そんな俺が振り返った先には、俺の気持ちを察してか佳乃が来ていた。
佳乃は俺に対して真っ黒なコートを持っていた。
どうやら俺にコートを返しに来たようだ。
「菅原君、あの……」
意を決した俺は、佳乃の方に振りかえっていた。
そこにはしっかりとあの指輪が握られていた。
「ああ、佳乃か。実は君に渡したいものがあるんだ」
そう言いながら俺は決意をした。
持っていたのは最後の女王候補、フローライトの意志の入った指輪。




