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翌日、俺は早く……七時には学校に来ていた。
部室に向かうが……部室は空いていた。
パソコン音楽部の部室は朝から一人先客がいた。
その先客は、俺が昨日の夜メールで挨拶をした人物だ。
何より俺のそばには部長がいた。
学生服を着た背の高い部長は座高も高い。
いつも通り真剣な顔つきでパソコンと向き合っていた。
俺が「おはようございます」とあいさつをするが、いつもの反応がない。
ヘッドホンをつけていたので、CGのKUNIをじっと見ていた。
俺は部長の隣に座ろうとしたとき、俺に気づいてヘッドホンを外して俺を見てきた。
「菅原、どういうことだ?」
いきなり声をかけてきた、やはり少し怒っている様子だ。
「部長、すいません」
「すいませんですむか!」
部長は俺を見るなり、険しい顔を見せていた。
明らかに不満で、怒りに満ちているようにも見えた。
何気に背も高いから迫力もあった。
「佳乃は狙われているんだ、黒づくめの男に」
「そうですか?そうは見えないんですが?」
「いいや、佳乃はとてもかわいいからな。
かわいい佳乃を拉致して、好きにしようとする悪い輩がいるのだ。
人の多い町中はとても危険だぞ」
「まあ、佳乃はかわいいのは認めますが……」
「というより菅原!なぜ名前で呼んでいる?」
伊勢ヶ崎部長は、腕を組みながら俺のことを睨んでいた。
不満そうな顔で、俺の方に身を乗り出してじっと見上げていた。
俺と部長の間に険悪な空気が漂う。
「えと……佳乃が」
「気安く呼ぶなっ!」
伊勢ヶ崎部長は机を激しく叩く。
そんな伊勢ヶ崎部長の言葉に、それまで押されていた俺は今までの想いを爆発させた。
目つきを鋭く部長を睨む。
「それが、おかしいんじゃないんですか?」
「なんだと!」
「佳乃は……俺のクラスメイトです。
クラスメイトが名前で呼ぶのはおかしくないし、部長が佳乃を街中でつけるのも変です。
佳乃のことが大事なのも分かりますが!」
「当然だ、できれば佳乃を家の外から一歩も出したくない」
「だったら、佳乃のことも……」
「考えている、佳乃は俺の意見に同意している!」
自信たっぷりに言っていた伊勢ヶ崎部長。妹のことになるとことさら熱くなる。
俺は当然のことながら問い詰めていく。
「でも昨日彼女に聞きました。彼女は同意なんかしていない」
「いいや、同意している。佳乃は俺がいないと何もできないんだ!」
「佳乃さんはもう高校生です!子供じゃないんですよ」
「それは関係ない、佳乃はいつまでも脆弱でとても弱いんだ!
だから俺は必要で守ってあげないといけない!」
そう言いながら伊勢ヶ崎部長は、俺に病院の診察券を見せてきた。
「なんですか、これは?」
「佳乃は体が弱い。呼吸器系、肝臓、脳にも障害がある。
過度な運動ができないんだ、だから佳乃は今もか弱いんだ」
「確かに……」
俺は思い当たる節があった。
一年も二年も同じクラスだけど、佳乃は体育をよく欠席していた話をクラスの噂で聞いていた。
だけど、そんな貧弱さがアイドルっぽく男子たちの幻想を作り上げていた。
「だから兄として俺は妹を守るのは当然なんだ」
そんな風に言われてしまうと、俺は伊勢ヶ崎部長をこれ以上非難できなかった。
それは、戸破と俺の関係にとても似ていたから。




