72
あれから三時間後、いろいろあって俺は夜のファミレスに来ていた。
純花のバイトもあってここに強引に連れてこられた。
俺と一緒に来た客としていたのは佳乃。だけど、兄である部長を純花は入れなかった。
それでもあきらめの悪い部長だ、今頃部長はどこかでこのファミレスを監視しているだろう。
この場所をセッティングした純花は、今頃ウェイトレスとして向こうの客を接客していた。
従って俺と佳乃の二人きりだ、佳乃は水玉模様のワンピースを着ていた。
清楚でやはりかわいいクラスのアイドルが、俺の前に座っていた。
「本当にごめん……いろいろあって」
「いえ、きになさらずに」
「本当に純花が強引で……」
「純花ちゃんは魅力的ですよね、正しいと思ったことをまっすぐにできて憧れます」
「あら、わかる?」
そういいながら出てきたのが純花。
ウェイトレス姿の純花は意外とおしとやかだが、格闘98の強者だ。
短い髪をヘアピンで飾られていて、スタイルもいいからウェイトレスの制服が似合っていた。
「佳乃とはあたしは気が合いそうね」
「私もそう思います」
佳乃と純花は互いに笑顔で向き合っていた。
ある意味いいような……怖いような。
優等生クラスのアイドルと、プロレス技使いの変わり者女。
妙な組み合わせがなぜかかみあっていた。
「そんなことより、佳乃。どういうことだ?」
「なにがですか?」
「なぜ部長がストーカーになっているんだ?」
「えと……それは」
憮然とした顔で俺の指摘に、佳乃が不意に困った顔を見せた。
純花も気になったらしく、じっと佳乃を見てきた。
「お兄ちゃんは私に過保護なんです」
「過保護?」
「ええ、わたしはお兄ちゃんが過保護に困っているんです。
何かあるとすぐつけてきますし……」
「そうよね、なんか超オタっぽかったから。もちろんミツノマルもそうよなってあたしは心配だわ」
「菅原君は違いますよ、少なくとも」
純花の愚痴を否定した佳乃は、俺にはっきりと笑顔を見せた。
だけど俺は浮かない顔でじっと見ていた。
このまま部長が大人しくしていればいいのだが。
「それでどうすればいいんだ?部長はこのまま落ち着いてくれるといいのだけど」
「私は……どちらでもいいです」
佳乃はなぜかいつも通りにこにこしていた。
少し間があったのが、気になったが。
「すいません」
と純花を呼ぶ声が、少し離れたテーブルから聞こえた。純花に手招きをしていた。
「あっ、はーい」
バイト中の純花は愛想よく向こうのテーブルに向かっていく。
二人に取り残されて佳乃をじっと見ていた。
いつもながらににこにこしている佳乃は、何事もなかったかのようにパフェを食べていた。
あれ、もう頼んだのか。
「いつの間に、パフェ?」
「頼んじゃいました、どうぞお好きなのを」
「……俺はいいよ」
俺の前にはなぜか前菜のシーザーサラダ。
何を隠そう、俺はベジタリアン。肉はあまり好きじゃない、もちろん肉食系女子も好きじゃないが。
それでも佳乃はおいしそうにパフェを食べるのを見て、ちょっと意識してしまう。
(デートっぽい、純花がやりたがったリア充ってやつか……)
俺の前にはクラスのアイドルと二人きりだ。
だめだ、今はデート気分を味わうわけじゃない。追求しないと。
「佳乃は部長に話はしたのか?」
「えと……話せません」
「なんでだ?」
「えと……大丈夫です。私が思った以上に難しい問題ではありませんから」
「そんなことないよ、佳乃の口からそんなことが出ているんだから。
俺でよければ力になるよ」
「ありがとうございます、ではパフェを私に奢ってくれますか?」
「は?」
そういいながら佳乃はパフェを平らげて満足そうな笑みを浮かべていた。
そんなかわいい佳乃を見て、俺に断る選択がなかった。




