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こうして運命の日曜になった、そして俺は奇妙なことをしていた。
富山の繁華街で、パーカー姿の俺はそばに純花と一緒にいた。
純花はなぜか水色のシャツを着ていて、険しい顔を見せていた。
待っていたのは、駅前広場の路面電車の停留所。
少し離れて奥には長袖ワンピースの佳乃。
俺と純花は佳乃から距離をとるように停留所に立っていた。
「なんで、あたしがここにいるのよ?」
「だから俺は佳乃に頼まれたんだよ、ストーカー調査」
俺と純花の誤解を解くのに何度も説明をした。
説明を何度も受けながら腕関節を何度も取られたが。
ようやく理解したが、それでも純花は不満を隠さなかった。
「探偵をしたくなければ帰っていいぞ」
「いいえ。ミツノマルを、信用できないわ。あたしもついていく」
「じゃあ文句も言うな、邪魔もするな」
「分かっているわよ」
帽子をかぶった純花が少し遠くの佳乃を見ていた。
停留所では路面電車を待つべく、大きな肩掛けバックを持った佳乃がいた。
その佳乃が、そばにいた老婆と楽しそうに談笑していた。
「純花……佳乃って遠目で見てもかわいいよな」
「どうせあたしはかわいくないわよ」
ふてくされた純花の前を通り過ぎて路面電車がやってきた。
その電車に前にいた佳乃は乗り込んだ。
俺と純花も一緒にその路面電車に乗り込んでいく。
路面電車の中には、十名ほどの乗客がいた。日曜朝にしてはすこし少ない。
「それにしてもストーカーなんか本当に現れるの?」
「さあな……少なくとも顔見知りの犯行だと思う」
路面電車の中を俺は見回していた。
目標の佳乃はそれでも穏やかにおばあさんと話をしていた。
市街地を巡回する路面電車、二、三分ほどで次の停留所に留まる。
間もなくして次の路面電車が止まっていく。
その路面電車には、一人の顔見知りが乗り込んで来た。
その男は背が高いが猫背で、茶色のコートを着て茶色の帽子を着ていた。
見た目は寒がりのサラリーマン風に見えた。でもその男を俺は知っていた。
「あれって、伊勢ヶ崎部長」
だけど、その時の伊勢ヶ崎部長は明らかに挙動不審だ。
俺と純花に気づくことなく、佳乃のすぐ後ろにつけていた。
「あの怪しい部活の?」
「シッ、なんか嫌な予感がする」
俺は部長を見守りながらずっと考えていた。
佳乃は、日曜日にストーカーが現れることを知っていた
だとすれば、そのストーカーが誰なのかも知っているかもしれない。
そう考えると、身近な人間であっても不思議ではない。
その伊勢ヶ崎部長はずっと佳乃を背中越しに見ていた。
俺は部長の目が、とにかく怪しいようにさえ見えた。
すると部長は茶色のコートから取り出したのがスマホ。
「あいつ、怪しいわ!」
「ああ。なんとなくそんな気がしてきた。でも、俺の部活だし、一応兄だからもう少し……」
「行くしかないじゃない!」
肩を怒らせながら純花が、すぐに伊勢ヶ崎部長のそばに向かっていく。
俺は慌てて止めようとしたが、純花はそのまま伊勢ヶ崎部長の背後に立った。
スマホを構えて写真を撮った部長の首を、いきなり掴んだ純花。
背の高い部長も、借りてきた猫のように持ち上がった。
さすが、格闘98の純花だ。純花は大柄ではないのに、よく部長が軽く持ち上がるな。
「あなた、怪しいわよ」
そして何の躊躇もなく伊勢ヶ崎部長に言い放つ。
この瞬間、俺は顔を抑えて頭を抱えていた。
路面電車の視線が一気に純花と部長に集まったのは言うまでもない。
そう、それは前の佳乃の視線も向けていたのだから。




