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金曜日になって俺はようやく部活に向かう。
俺が在籍している部活はパソコン音楽部。三日もいかないと懐かしく感じた。
そこにいるのは、いつも通りパソコン三台と珍しく全員そろった部室。
もちろん工藤先輩も部長もそこにはいた、いや五人の部員が勢ぞろいしていた。
パソコンがあかないので、俺はそばに置いてあるベンチでみんなの仕事ぶり?を見ていた。
カレンダーには十一月最初の土日に行われる岩本祭がしっかりマークされていた。
岩本祭、岩本高校の年に一度の文化祭。
そして俺たち『パソコン音楽部』が部活として唯一の披露の場だ。
音楽づくりも一年かけて、ようやく終わりを告げようとしていた。
そして、この文化祭が終わると三年生は引退になる。
背が高く眼鏡をつけた知的の伊勢ヶ崎部長が、俺の隣に座っていた。
「菅原はしばらく学校休んでいたがどうだ?」
「えと……結構時間ギリになりそうです」
「まあ、体調不良だからしょうがないな」
「すいません」
俺は部長に謝った、伊勢ヶ崎部長にはいろいろと迷惑をかけっぱなしだ。
「来週から、朝もここで作っていいですか?間に合いそうもなくて」
「許可はとっておくよ」
「ありがとうございます」
「なにせ、来年の部長候補だからな」
「ええっ、マジですか!」
俺は『部長』という面倒な役どころは嫌いだ。
だけど部長に言われると簡単には断れない。
伏線として春休みからずっと言われ続けていた、実に耳の痛い話だ。
だからあえてとぼけることにした。
「部長候補って?」
「まあ、菅原はA組だろ」
「ええ、二年A組です」
「A組はエリートクラスだからな、将来のことを考えて人を束ねる役目を……」
「A組はテストの点数が高いパラメーターを持った人間が集まっただけのクラスです。
決っして俺なんかが部長っていう肩書が似合うとは……」
「なに、俺の妹のクラスを馬鹿にするのか?」
「いえ……違います」
そうだった……伊勢ヶ崎部長は、妹の佳乃さんを侮辱されるのが許せない。
不機嫌な顔にとってかわった伊勢ヶ崎部長は、俺から視線を逸らしてパソコン作業中の生徒を見ていた。
「佳乃は……クラスで元気か?」
「はい、伊勢ヶ崎さんは人気者ですよ。クラスのアイドルです」
男子に特に人気なのは、最近嫌というほど痛感したが。
「そうか、それはよかった。佳乃も年頃だからな」
「年頃って……」
「だからこそ気になっているのだ。佳乃に悪い虫がついているんじゃないかと」
「はあ……そういえばストーカー……」
「なんだと!」
いきなり狭い部室で立ち上がった伊勢ヶ崎部長。
狭い部室なので当然作業中の生徒の視線を集めた。
視線を感じて、部長らしく威厳のある咳払いをした。
「ごほん、邪魔した」
伊勢ヶ崎部長の一言で、再びみんなが作業に戻っていく。
「菅原……それは本当か?」
「そうですね、本人から相談を受けました」
「むむむっ、どういうことだ?俺には全く相談がなかったぞ。そうか!」
何かを閃いた伊勢ヶ崎部長。なにかを閃くなり、俺の方に顔を向けてきた。
鼻息が荒く、俺のことをじっと見てきた。背も高いので上から顔が飛んできたそんな様子。
「菅原、お前に頼んだのはクラスメイトにストーカーがいるからだ」
「まあ、無くはないと思います……むしろその線だと思います」
「菅原!俺からも頼む。佳乃のことを助けてやってくれ!
佳乃はきっとストーカーに怯えて夜も眠れないはずだ!」
「えっ、そのつもりですけど」
「そうか、そうか、それはいい!」
と今度は感激したのか急に俺の手を握ってきた。
男同士で手を握ると、なんだか気持ち悪い。部長の手がヌメヌメしているし。
普段は冷静な部長も、佳乃が絡むと純花にたがわぬ変り者ぶりを発揮しているな。
「じゃあ、佳乃のことを頼むぞ。兄である俺からもお願いだ!
いいか絶対犯人を捕まえろよ、捕まえて俺の前にしょっ引き出せよ!」
「はい、分かりました。できる限りやってみます」
俺はそこで柄にもない返事を返していた。
しかしこの後、俺は思いがけない後悔をするとはこの時の俺は思わなかった。




