68
いきなり怒声が俺に浴びせた。
「デレデレしているんじゃないわよ!」
すぐさま、俺はほっぺを引っ張られた。純花が俺に対して手を出してきたのだ。
「純花っ!」
「最近、デレデレして、ニヤニヤしてミツノマルいるからつけて見たらこういう事ね。
やっぱりあの時からつき合っていたのね、変態!」
「ええっ、何を言っているんだよ純花」
「問答むよ……」
そのまま俺は純花のヘッドロックの餌食になった。
純花のヘッドロックは、技として完成されていて簡単に抜けることがない。
俺の頭を容赦なく締めつける。
「ストップストップ!」
「言い訳は聞かないわ!」
久々のヘッドロックは磨きがかかっていた、タップしても簡単にほどいてくれない。
それを見た男子たちは、純花の味方だ。『やれやれ、女たらし』と声援が純花に送られた。
純花は笑顔で男子たちの声援に応えた。
「純花……俺が悪かった」
「何が悪いのよ、全然悪くないわ」
「じゃあ、悪くないなら外してくれ」
「うるさい、あたしは絶対許せないの!」
悪くないのになぜかヘッドロックを外してくれない。
右腕にしっかり力を残したまま、俺の頭をさらにきつく締めつける。
これでは呼吸もかなり苦しい。
「純花、みんなが見ているって」
「問題ないわよ。それより今週の日曜は開いているでしょ」
「いえ~、それが空いていないんです~」
そう言いながら、出てきたのは佳乃だった。
佳乃の登場で運よく純花はヘッドロックを外した。
佳乃の登場に合わせて、俺はクラスの視線を一気に集める形になっていた。
「えと、あなたは伊勢ヶ崎さん?」
「はい、『伊勢ヶ崎 佳乃』っていいます~。よろしくお願いしますね~」
相変わらず、天然風なゆっくりとした喋りの伊勢ヶ崎さ……じゃなくて佳乃だ。
純花の割と大声張り上げる喋り方とは対称的だ。
「それより、日曜空いていないってどういう事?」
「それは言えません、私と菅原君との秘密です」
「ちょっと……」
佳乃の言葉はさらに誤解を招く。純花の視線が、男子の視線が一気に俺に向けられた。
完全な敵意だ、榊や不良たちを思い出して背筋が凍る思いだ。
確かに秘密にした方がいいけど、さらに純花の心に火をつけたのは間違いない。
当然純花は納得できない……だと思った。
「ふーん、そう言う事情があるなら仕方ないわ。
どうやらその様子だと伊勢ヶ崎さんと一緒でしょ、ミツノマル」
と純花が俺に聞いてきた。腕を組みながら、距離をとった俺のことを睨んでいた。
よかった、ここでは襲ってこないみたいだ。
「えっ……まあそうだけど」
「だったら、あたしも連れて行きなさい。それなら問題ないでしょ」
「はい、構いませんよ」
それをいともあっさり了承したのが佳乃だった。
そんな佳乃に対して、純花はなぜか不敵な笑みを浮かべていた。
「だってあたしは、ミツノマルの彼女だから。腕が鳴るわよ」
純花の一言で、俺は体が震えていた。強張った顔で佳乃を見ていた。
「いいの……か?」
「はい、構いませんよ。宿坊さんの格闘能力は、むしろ役に立ちますから」
それでも微笑んで佳乃は、拳を鳴らす純花を見ていた。
楽しみから一転、俺は日曜を迎えるのが憂鬱になってしまった。




