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純花の言うとおり、市街地から少し離れたところを歩いていた。
人気が無いこの場所、周りは畑が見えた。
田園地帯という風景が広がっていて、どこかの企業の倉庫があった。
薄暗い倉庫の中で、戸破と俺はすっかり不良連中に取り囲まれていた。
中央にいたのが榊。
榊を見つけるだけで、俺は自然と震えと高揚感があった。
「榊!」
「ああっ、何の用だ?」
周囲の不良たちは五人。俺をこの前ボコボコにした奴らだ。
そんな不良を束ねたリーダーの榊が、俺の方に振り返っていた。
まさに金髪に口ピアス、ジュエル☆クイーン♡スクーリングのサカキそのものだ。
「お前と決着をつけに来た」
「決着?お前か……まだゲームを続ける気か?」
「ああ……Jクイ、ジュエル☆クイーン♡スクーリングを取り返しに来た」
「やっと気づいたか。俺が本当のプレーヤーだという事」
そういいながら、榊はまっすぐ俺の方に歩いてきた。
金髪の髪がなびき、顔には迫力があった。
「戸破はおかしくなっていない、元に戻っただけだ」
「なんだよ、つまんねえ。もう少し遊ばせろよ、戸破はこっち側の人間だろ」
「榊、悪いけどあたいはもうそっちの人間になれない」
「はっ?おいおい、冗談はよしてくれよ。裏切りって俺、嫌いなんだよ」
「もう、戸破とは関わらないでくれ」
次の瞬間、俺は深々と頭を下げた。
頭を下げた俺を苦笑いしながら榊が見ていた。
「おい……馬鹿じゃねえの、俺たちと話し合いで解決すると思ってんの?」不良の一人が騒ぐ。
「思っていなくても戸破からは金輪際、手を引いてくれ」
「そうだな、いいぜ」
さっきのセリフをあっさりと撤回した榊。
そのまま、ゆっくりと俺のそばに歩いてきた。
「俺は馬鹿な女はいらねえ、そうだろ戸破」
「くっ……ああ。そうでいいさ」
グッとこらえて榊の挑発に乗らなかった戸破。
榊は素直すぎる言葉を言いながら俺の方に歩み寄ってきた。
「なあ、顔を上げなよ……兄さん」
俺が顔を上げた瞬間、躊躇なく俺の顔面を殴ってきた榊。
よけることなく、目をつぶってしまった俺は、そのまま無様に後ろに飛ばされた。
それを見るなり、不良たちの嘲笑が聞こえてきた。
「やべえ、パネぇよ。マジ切れてるぜ、榊さん」はやし立てる不良。
榊はそのまま倒れた俺の腹を蹴り飛ばした。
痛い……というか苦しい。
思わず口から吐き出しそうな、苦痛が俺を襲った。
「熱いねえ、そういうの」
「熱くて結構、だけど戸破にはこれ以上……近づくな!」
「戸破には手を出さねえでやるよ、が条件つきでな」
「条件?」
「兄さんよ、お前はジュエル☆クイーン♡スクーリングでアズライトを殺せ」
「なんだよ……それ」
おののいた俺はその意味をはっきり知っていた。
その言葉を聞いて、戸破が不思議そうな顔を見せた。
「『死亡フラッグ』が立っているだろ、殺せばいいんだ。
今の俺にはできないが、お前にはできる。どうやらあのじじいが妨害しているみたいだ」
「それは……できない」
榊の挑発に、戸破が俺と榊を交互に見返した。
「兄貴……それは?」
「ゲームだよ、DSPのゲーム」
「ふーん、兄貴がいつもやっているヤツか」
「そう、ただのゲームだよ。ただの。だから殺せるだろ」
「できるわけない!」
「そうか……そうだよな」
やはり小ばかにしたような反応の榊。
俺はじっと榊を見ながら立ち上がった。だけど俺の目の前に榊が立ちふさがる。
「安心しろ、お前を殺したら戸破もあちらに送り込んでやる」
不敵な笑みを浮かべて、榊は俺の腹を踏みつけた。
すると戸破が榊に拳を向けた。
「やらせねえよ!」
戸破は榊に対して拳を向けて殴る。が、榊に戸破の拳があっさり止められた。
「なあ、戸破。お前は俺が喧嘩の天才だってことを知っているだろ」
それは勝ち誇った嘲笑。榊は戸破に笑みを浮かべていた。
その笑みは背筋を凍らせるほどの恐怖を与えていた。
それと同時に榊は後ろの不良たちに指示を出していた。
不良たちも空気を読んで戸破をすっかり取り囲んでいた。




