60
それから二時間後、夜七時が回った駅は多くの人でにぎわっていた。
学校からそのまま来た俺は戸破と駅で待ち合わせた。
戸破は駅前のロータリー、セーラー服姿でスマホをいじって待っていた。
何よりソバージュの髪は健康そうなショートヘアーに戻っていた。
「遅くなってごめん」
「兄貴、女を待たせるなよ」
「戸破は覚悟を決めたのか?」
「ああ、あたいなりに考えて結論を出すことにした」
戸破に促したある事、それは母親とかわした約束だ。
戸破は榊たちのグループでいつも夜遊びをしていた。
夜な夜な遊びに出歩いては、朝がえりで学校にも行かない。
でも戸破は改心したが、不良のリーダーである榊は黙っていないだろう。
そこで考えたのが、榊と話をつけるというものだ。
もちろんまともに取り合ってはもらえないだろう、奴らは不良だ。まっとうな人間ではない。
だからこそ榊たち不良を何とかするために俺たちは動いていた。
「そっか……なあ戸破」
「ん?」
「榊は一体何者なんだ?」
「榊はこのあたりの番長みたいなものさ。番長って言っても古臭いが。
あたいの十高の元生徒だけど……暴行事件を起こして退学している。
かなり札付きのワルだったらしいぜ」
「元っていくつなんだ?」
「榊は二十代後半じゃないか。結構年季入っている」
「そうか……」
俺はそう言いながらDSPのケースだけを持っていた。
そのDSPのケースの中身は入れていない、ゲーム本体は家に置いてある。
「榊ってゲーム好きなのか?」
「さあな、でも街中でガキからDSPを奪ったらしいな。
なんでも『ジュエル☆クイーン♡スクーリング』をやっていたとか」
「そうか……榊はこのゲームを知っているんだな」
俺はずっと気になっていた。榊はこのゲームを知っている。
だけどネットに情報が全く流れていないゲーム、誰も知らないゲームだ。
榊は俺と同じで、3Dドワ太をきっと見ているんだよな。
「兄貴はなんで難しい顔をしているんだ?」
「ああ……気にするな」
「行くぞ、兄貴。あたいのけじめをつけないと終わんないんだからよ」
戸破はそれでも笑顔で俺に言っていた。
すっかり心を入れ替えた戸破は、とても頼もしく見えた。




