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俺はシルエットで何度か見たことあるが、実際見るのが初めてだった。
少し背が高く、長い髪ストレートヘアーの女性がいた。
きらびやかな純白のドレスを着た女性を、両脇を十名ほどの衛兵が固めていた。
王室ではシルエットしか出ることがないその人物は紛れもなく、
「エメラルド女王!」
俺は叫んでしまった。
そして出てきた人物の顔を見て、また俺は驚いてしまった。
顔が真っ黒だ、黒いのっぺらぼうのような顔だ。
鼻と目と口の形が見えるが、色がない真っ黒の顔。
俺と戸破の母親ではない、第三者なのかもしれない顔の輪郭があった。
「エメラルド女王、てめえがそうか」
そう言いながらいきなり持っていた曲刀を構えたサカキ。
当然エメラルド女王の周りの衛兵が女王を守るように身構えた。
だけどそれを制して、エメラルド女王はサカキを見ていた。真っ黒な顔を向けて。
「ああ、そうだとも私がエメラルド女王だ。そしてエメラルド女王ではない」
口に色はないが彼女から紛れもなく声がする。
「何を言っているのだ、お前は?」
「今はまだ決まっていない」
「決まっていない?」
よくわからないが、だけど俺はそれが助けだと信じた。
エメラルド女王の表情がよくわからないが声は落ち着いていた。
「出てきたか、人からなんでも取り上げる悪の女王」
「心狭き賊よ……何もわからぬな」
「賊とは随分な言われようだな、お前の方が賊なくせに。
実の娘であるアズライトのことを道具としか思っていないお前に、アイツの何が分かる?」
女王を睨んで、周りに兵士がいて劣勢であったとしてもサカキは一歩も引かない。
エメラルド女王はいきがるサカキを見ているようだ。
それにしても周りの衛兵の数が多い。
サカキのライチョウ軍はあっという間に取り囲まれて抑え込まれた。
「お前は何もわかっていない、アズライトはお前が愛想をつかしている!」
「そうか」
「お前が道具として利用している……アズライトを自由にしろ」
「どうなのだ、アズライト?」
エメラルド女王は真っ黒な顔をアズライトに向けた
アズライトはじっともじもじしながらうつむいたままだ。
サカキもまたアズライトに手を伸ばす。
だけど衛兵に抑え込まれて、アズライトとの間に隔たりがあった。
アズライトの周囲も衛兵が敵の様に取り囲んでいた。
「アズライト、こいつといてもお前のためにならない!俺と来い!
お前をもっと俺が強くしてやる。こんな鉄仮面女の言いなりになる必要はない!」
「……そうだね、ボクは……」
サカキの言葉にアズライトは顔をゆっくりあげた。
何かを悟ったような顔を見せていたアズライト。
「ダメだ!アズライト、そいつについて行っちゃ!」
「なんで?なんであたしは窮屈なお城にいないといけないの?
ママはあたしに愛を与えてくれないのに」
「……欲しがるな、娘よ。お前は出来損ないだから」
エメラルド女王はそれでも冷たく突き放した。
おののいた俺は、思わず背後のエメラルド女王に振り返った。
「何言っているんだよ……」
「本来、我がエメラルド王国は女王ではなく王の方がふさわしい。
アズライトよりライトの方がふさわしいのだ。
ライト王子は頭もいいし、優しく、器用で、運動もできる。
社交性もあり、全ての能力が高い優秀な王子だ。
彼は国民的英雄だ、王位を継ぐのにこれ以上の存在はなかろう」
「……わかっているよ」
「だが、最適な選択のライト王子はもうこの世にはいない。
よって仕方なく後継者を四人の女王にゆだねることにした。
三人の侯爵と一人の娘。だがアズライトはその中でも劣等生のようだな」
「うるさい!」
叫んだアズライト、その顔は悔しさに満ちていた。
その瞬間、アズライトを取り囲む衛兵がアズライトの両手を掴みだした。
「劣等生のくせに、私を裏切るなんて……何もできないくせに」
「結局ボクは道具だったんだ……ボクは」
「そうね、でも使えない道具はいらない。
エメラルド王国は、あなたは今ここで反逆罪としてアズライトを処刑します」
そう言いながら衛兵から一本の剣を受け取ったエメラルド女王。
迷いもためらいもない、エメラルド女王はまっすぐにアズライトを見下ろしていた。
外野で騒ぐサカキは、抵抗するも衛兵に取り押さえられた。
「てめえ、やっぱりそうか!クソ、離せ!」
サカキは曲刀を取り上げられて、抵抗するにも衛兵で取り押さえられた。
アズライトは抵抗する様子もなく、ただショックで目から涙があふれていた。
なんだよ、これ……こんな演出なのか。
こんな結末はありなのか、いや違う。戸破の中の母親に対する感情だ。
そんな俺の気持ちを察してか、選択肢が出てきた。




