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学校からいつも通り、路面電車に乗って駅に降りた。
そのまま歩く住宅街で、今日は一人でゲームをしながら歩いていた。
残暑の厳しい夕暮れ、コンビニでジュースを買って帰るというただそれだけ。
いつもの帰り道が、結論から言うとこの日は全く違っていた。
ジュースを買った俺は自動ドアが開いた時、目の前にいた男がいた。
そして目の前にいた人物は、ゲームで見たことのある人物だ。
口にピアスの不良、首にタトゥーといきなり出会わしたのだ。
鉢合わせしたくはないタイプの不良の男は、俺を下品そうな笑みを浮かべながら近づいてきた。
「お前か」
金髪に染めていた長髪の男は、目つきが悪く、俺を明らかに睨んでいた。
しかし俺にはそんな男に面識がない、名前すら知らない。
「あなたはなんですか?」
「遊ぼうぜ、兄ちゃん」
「残念ながら……俺は急いでいるので」
怖がらない、怯えない、戸破と接することで学んだことだ。
俺は一目散に退散しようとしたが、すぐさま別の男が現れた。行く手を阻むように。
完全に待ち伏せの様だ。
「用があるんだよ、戸破のお兄ちゃん」
「どうやら戸破の知り合いか?」
「そうだよ。榊さんが呼んでいるんだ、話をしようぜ。
戸破のお兄ちゃん、戸破が待っているんだぜ」
そのまま力づくで、俺の右肩を引っ張ってきた不良の男。
抵抗をしたが、周りには運悪く人がいなかったのだ。
コンビニから不良共に俺は引きづりこまれたのが、人気のない近くの空き地だ。
群れるのが好きそうな、高校の落ちこぼれみたいな奴らにあっという間に俺は取り囲まれた。
だけど、俺はいきなり現れたあいつらの目的が分からない。
五人組の不良に囲まれた俺は、驚くほど声を枯らして叫んでいた。
だけど口をあっさりとふさがれていた。完全な拉致だ。
「なんだよ、お前たち!」
「俺たちは戸破の友達だよ。仲のいい友達さ、そうだろ戸破」
そう言いながら奥には戸破がいた。
「戸破……」
だけどあまり関わりたくないのか、俺から離れてうつむいていた。
「だけどな……戸破の兄ちゃんよ。いろいろ戸破にやってくれたそうじゃないか」
「お前に言われたくない、戸破を返せ!」
残念ながら俺は喧嘩のパラメーターが低い。
仮に低くなくても、五人相手に戦う特別な力がない。
リアルでは超能力者じゃないからな。
「そうそう、戸破はこれからも俺たちの仲間だ。もう帰ることもない」
確かに戸破は昨日の電話の後、帰ってはこなかった。
こいつらが、おそらく戸破の暴行事件や不良になったことに関わりがあるのが直感で分かった。
俺は変に刺激することなく、周りを見回した。
情報を引き出して、なんとか逃げる算段をたてるために頭をめぐらす。
できれば戸破と一緒に逃げられればいいが、こいつらの目的が何かわからない。
「それで俺を、白昼堂々コンビニの前で待ち伏せたのは?」
「一つ聞こう、菅原 光輝お兄ちゃん」
「俺はそんなに有名人なのか?」
「ああ、知っているとも……『ジュエル☆クイーン♡プリンセス』の大臣だものな?」
それは唐突に聞かれて、驚いてしまった。
それと同時に俺はポケットのDSPを警戒した。
なんでこのゲームを知っている、俺は表情に出して動揺してしまった。
ジュエル☆クイーン♡スクーリングの存在は、ネットでも全く聞かない。
こいつがオタク風にも見えないし、意味がよくわからない。
「なんだそれは?」
「じゃあいい、俺の前にDSPを差し出せよ」
「は?」
間違いなくジュエル☆クイーン♡スクーリングを長髪の男は知っていた。
だけど俺はそれだけは譲れなかった。これは大事なゲーム機だ、命より大事なDSPなのだ。
「DSPは俺のゲーム機だ、それは命同然の価値がある」
「じゃあその命を渡せばいい、どのみちお前は痛い思いをして死ぬのだからな」
明らかに長髪男は、俺のことを馬鹿にしたように笑っていた。
俺はどうしても許せなかった、唇をかみしめて体をかがめていた。
俺はおそらく勝てない、自分のパラメーター的に相手の戦力的に見てもやれることは一つ。
「渡せるか!」
俺は不良の集まる隙間にダイブした。逃げの一手だ。がすぐさま、
「ぐあっ!」
俺は不良男の一人の蹴りが、俺の頭を打ちぬいていた。奇襲で逃げる策はあっけなく打ち砕かれた。
そのまま地面に転がった俺は、頭を押さえていた。運悪く頭を切ったようだ。
血のヌメヌメした感触を抑えて右手ではっきり感じた。
「くそっ!」
「さて、探すか」歩み寄る三人の男。
一人が立ち上がる俺の背中に回り込んで、抑え込んだ。
間もなくして俺のポケットの中に入っていたDSPは、簡単に見つけられた。
「あったぜ、こいつだな!」
そう言いながら意識が遠のく俺は、目を大きくさせた。
視界がぼんやりする中で、俺が最後に聞こえたのがガシャンと地面に叩きつけられたDSP。
「や……やめ……」
声を発する間もなく、DSPは不良の足に踏まれて無残に壊されていた。
「榊さん、なんでわざわざDSPを?」
「こいつは女王を育てる資格はない、所詮はクズだ」
何を言っているのかわからないが、俺は見てしまった。
俺の愛用のDSPが、無残に破壊される様を。
(クソッ、これって俺は本気で死ぬのかよ)
悪態をつく中、俺は何もできないでいた。
そんな時、俺の前に天使が舞い降りた。
薄れゆく視界の中、「やべえ、サツきた!」と声がどこからともなく聞こえた。
同時に走る音が聞こえ、榊たち不良は一目散に逃げてきた。
次の瞬間、俺の空き地には警察らしき男が一人やってきた。
さらにはもう一人、倒れた俺の前に屈んだ人間がいた。
「大丈夫ですか?菅原君」
その声は女の少し甘く優しそうな声だった。天使のように思えたから。




