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俺の目の前にいたのはアズライト。
セレスタイトと同じだとすると、アズライトは戸破を写す鏡だ。
着替えたアズライトは、美少年に見えるほどのかわいらしさと凛々しさがあった。
だけど白いシャツから膨らむ胸は、女性らしく見えるが。
それにしても戸破の顔立ちと同じなのに、目が曇っていないように見えた。
戸破の素直そうなこの顔は、やっぱり昔の顔だ。
そんなアズライトは、いきなり俺の方に剣先を向けてきた。
いきなりショートソードを抜いて、俺に剣先を見せていた。
剣先は刃こぼれしていて、ところどころがいたんでいた。
「それは?」
「ああ、それはボクの兄さんの形見だよ」
「形見?」
俺は一瞬嫌な予感がした。
戸破に似たアズライトに兄の形見とか言われると、「俺死んだのか」と錯覚してしまう。
もちろん死んではいない、ゲーム内での設定なのだろうが複雑な気分だ。
それとも今回のゲームでは俺が死ぬのか。
「うん、ボクの家は代々騎士団長の家系さ。
常に前線で戦う義務を有している。だからボクたちは強くなければならない」
「強くなるって騎士の家系は大変だな」
「中でも兄ちゃんは最強の騎士だった。ボクの憧れの人なんだよ」
「その兄さんは?」
「かつてセクルガングという蛮族の集落を滅ぼしたのが兄ちゃんだ。
騎士団長として戦い、勝利を収めた。ボクの兄ちゃんはセルクガングの英雄だよ」
「すごいなそりゃ」
セルクガングとは、ジュエル☆プリンセス♡スクールでも出てきた蛮族の集団。
エメラルド王国に敵対して、戦争を仕掛けてくる、言ってしまえば敵だ。
戦争イベントもあったり、蛮族の仲間がスパイでエメラルド王国に侵入したりしてくる。
結構面倒なイベントだった。
なにかといいところでよく邪魔をするセルクガングだけど、まさかこの世界では滅んでいるとは。
ジュエル☆クイーン♡スクーリングは、ジュエル☆プリンセス♡スクールより何年か経過した時代設定だな。
センチネル将軍もそうだったし。
「だけどリッチ山での戦いで……ライチョウ軍の包囲にあって……そのまま連絡が取れない」
「アズライト……ごめん」
設定であっても、アズライトの辛い過去を聞くのは気がひけた。
それにしてもリッチ山は知っているが、『ライチョウ軍』か。
こっちの名前は初耳だ、ジュエル☆プリンセス♡スクールでもその名前はない。
リッチ山は地図を広げてみると、エメラルド王国の北にある気高い山だ。
もちろんジュエル☆プリンセス♡スクールにも出てくる山で、修行とかしたなぁ。
それにも気になるのがライチョウ軍、一体なんだろう。初耳だ。
「当然のことだけど、ボクは兄さんを探しに行きたい。
だけど今のボクにはまだその力が足りない、大ちゃんボクを教育……」
「ちょっと待った!」
遠くから太い声が聞こえた。そのあと、どこからともなくスタスタと足音。
すぐさま、アズライトが険しい顔で剣の柄に手を添えた。
険しい顔のアズライトは、目を鋭くさせて周囲を見回す。
「そこかっ!」
静かに剣を抜いて、右から襲ってくる何者かと刃を交えた。
ガギッと鈍い音が部屋に響く。
「曲者!」
「いや違うぞ、わしは……」アズライトと剣を交えているのは小さな姿だ。
まるで一寸法師のようなその人物は、
「ドワ太か、変な登場するな」
そう、アズライトが剣を交えている相手は小さいヘルパーのドワ太だった。
白い帽子と白いローブ、何より白いひげで、ほぼ真っ白ドワタが、アズライトと剣を交えたのちに後ろに退く。
彫の濃い顔で、じっとアズライトを睨む。だけど真剣な顔をやめて剣の構えを解いた。
アズライトも、敵意がないのを感じるとドワ太相手にしゃがみこんだ。
そのまま、白いドワ太はアズライトとなぜか握手をした。
「ふむ、なかなかよかろう、わしの立ち回り」
「なんでいきなり切りかかるんだ?」
「それはだな、アズライトの強さを確認するためだ。それより大臣」
「お……おう」
ドワ太が俺の方を見て、深々と頭を下げた。
「アズライトの教育を頼まれてくれてありがとう、まずは礼を言う」
「礼というより、戸破が……」
「そうだな、彼女はきっとこの指輪に惹かれたのだろう」
「惹かれた?」
「そうだ、『菅原 戸破』は迷わずこの指輪を選んだ。
指輪が彼女を選んだのかもしれない……それよりいいものを見せてやろう」
そう言いながらドワ太が、取り出したのが一冊の本だ。
その本を開くと、『!』マークが現れた。だけどすぐにマークが変わる、髑髏の旗に。
「イベント?……てか死亡フラッグ?やはりそうか」
俺は思わず唇をかみしめた。
「当然、彼女にも運命がある。その運命は、ゲームに参加した時点で変わらない」
「これって、イベントを見なければ……」
「運命は変らない、これは所詮警戒のサインに過ぎない」
ドワ太の言う言葉に、俺はこれを見ない選択肢はないだろう。
「全くヒドイ運命だ、リアル女と同じじゃないか」
そう言いながらも俺は髑髏の旗をタッチしていた。
そしてタッチするときに見つけた、クリスタルゲージのそばにすでに髑髏の旗が揚がっていたのを。




