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俺と戸破は一緒に帰っていた。
路面電車から降りた俺と戸破は、自宅目指して住宅街を歩いていた。
いつの間にか夜になっていた、月が闇夜にぼんやりと輝いていた。
二学期初日から妹の迎えという、最悪のイベント真っただ中。
制服シャツ姿の俺はくたびれた顔を見せていた。だけど俺の仕事はまだ終わらない。
隣の戸破も不満そうに、肩を怒らせて歩いていた。
けだるそうに歩く戸破を、俺はいつしかうっとおしくさえ思っていた。
「あん、こっち見るなよ」
目つきが悪く、俺に対してガン飛ばしてきた戸破。
どう考えても戸破は態度が悪い、不良少女は路上に唾を吐いた。
顔を合わせるのも難しそうなので前を向きながら、俺は話し始めた。
「戸破、警察に厄介になるなよ」
「うるせえ!クソおまわりの分際で!あいつ、ぜってえ殺す」
「暴行事件というのは……」
「お前も黙れよ、クソ兄貴!」
戸破は、そのまま隣にいる俺の制服のシャツを掴んでは睨んできた。
俺は怯えることはしない、震えることもしない。ただ面倒な顔を見せていた。
昔は、ここまでやさぐれたわけじゃなかったんだけどな。
戸破の手から解放された俺は、一つため息をつきながらそれでも戸破の隣を歩く。
「学校は行っていないのか、今日は九月一日だぞ」
「学校?ああ行ったさ」
「本当か?学校では真面目にしているか?」
「ウチの学校、クソ学校なのを知っているんだろ、冨十高」
相変わらず戸破の機嫌はよくならない、俺の会話術パラメーターでは難しいと思う。
Jプリでもこんな手を焼く不良はいない。リアルな女が嫌いな理由に一つだ。
でももうすぐ家だ、それまで戸破の機嫌を取らないといけない。
でないと家の中が大変なことになるのを分かっていたから。
兄として家庭を守る正義感より、過去に起きた別の感情が俺を動かしていた。
「戸破……おとといは一人でいたのか?」
「ああ、一人だよ」
「深夜十一時過ぎの駅に一人でいたのか?」
「たりめぇだよ、文句あるのか?」
そう言いながら、再び俺の方に振り返っては俺のシャツの首元を掴んできた。
年頃の女の子がそんな時間に一人で駅にいることも、それだけで充分問題なのだが。
今にも殴りそうな戸破だけど、どこか迫力はない。
さすがに交番に補導されていて疲れた様子だ。
「本当に一人でやったんだな」
「ああ、文句あんのかよ。クソおまわりみたいに言うな!」
「文句は……ない。悪かった」
そう言うと、俺のシャツの襟から手を放した。
戸破はそのまま俺に目もくれずスタスタと歩き出す。
「クソ、つまんねえ!」
苦々しい顔で肩を怒らせて戸破は、近くの電柱にあった麻袋を見つけては蹴り飛ばした。
そのまま、何事もなかったかのように歩いていく。
「戸破……家に帰っても大人しくしてくれないか?」
「あいつの出方次第な」
最後もけだるそうな返事を返して、戸破は家のある方へ向かっていった。
俺はがっかりした顔で、戸破の後ろをついていくしかなかった。
(どうやら、面倒なことになりそうだ)と心の中で思いながら。




