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おひるやすみの前。


四時間目の水晶占術の授業がおわると、ていねいにじぶんの水晶をいつも提げているきんちゃくにしまいこんで、フローリアはすこしだけ急ぎ足で教壇にむかいました。

「先生。お忙しい時にごめんなさい。少し、お時間をいただけますか?」

先生はきれいなぎんいろの髪を揺らしてふりむき、深いふかい藍色のひとみでにこりとほほえみました。

「もちろん、だいじょうぶよ。何かわからないことでもあったかしら」

ふんわりとつつこむ綿のようにやわらかな声に、いいえと首をふると、それにつられて一緒にゆれたお花にそうっと手をやり、フローリアは問いました。

「授業のことではないのですけれど、あさおきたらおはながはえていたので、どうしたらよいか先生にきいてみようとおもったの。ひっぱらなければいたくはないのだけれど、いったいどうしたら良いかしら?」

しんけんな顔をむけると、先生はほっそりとしたあごにゆびをあてておはなをながめ、ぱちりとまたたいて言いました。

「まぁ…めずらしい。夢見草ね」

「ゆめみ、そう?」

きいたことのないなまえです。きょとんとしてくりかえすと、先生はすこしわらって教壇のよこの本棚から図鑑をとりだし、ページをひらいてひとつの絵をゆびさしました。

「夢見草。とてもしあわせな夢を栄養としてはえる植物のことよ。花のいろや形はみた夢によってちがうの。夢見草がはえるのは、その人にとってとびきり幸せなゆめをみたあかしよ。ふつうは夢をみている間にはえて、目が覚めたときには枯れてきえているのだけど…きっと、ほんとうにしあわせな夢だったのね。だいじょうぶ、今日眠ってあすの朝目がさめたときには、きっと枯れてしまっているわ」

図鑑のおはなをじっとみつめながら、先生のはなしに耳をかたむけ、フローリアはようやく安心したようにわらって、はたりと胸の前でりょうてをあわせました。

「すてきだわ。せっかくの幸せな夢をおぼえていないのが残念だけれど、今朝はとっても良いきぶんだったの」

おぼえてはいないけれど、たしかにそれはしあわせな夢でした。先生がほほえむのにあわせて、おはなもよかったねというようにふわりとゆれます。


きれいなおはな。

みずをあげなくてもつちがなくても、しあわせな夢を糧に花ひらくそれが、あすの朝には消えてしまうのはすこし悲しい気もしますけれど、たとえおはなが消えてしまっても、フローリアはもう、それはそれはしあわせな夢をみたことをわすれません。


「先生。おしえてくださって、ありがとうございました」

ぺこりと頭をさげると、先生はいいえと笑ってフローリアをうながしました。

「さぁ、おはなは夢を糧にするけれど、私達には形のある糧が必要だわ。ランチに行きましょうか」

「たいへん。先生、いそぎましょ」


教科書をしまう先生をてつだって、ふたりは教室を後に食堂へと向かいます。

ふたりの足音にあわせて、初夏のひざしが作る影もふたつ、ろうかをおどっています。


それは、フローリアがわすれてしまった、それはそれはしあわせな夢によくにた光景でした。


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