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影の能力を操る探偵・榊影三郎短編集  作者: ♪西谷武♪の小説世界 ♫


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【File 04】解決しない事件

 影三郎(えいざぶろう)はときに影に宿る。あたかもそれが己の住まいであるかのように、どこぞの影に身を潜め、人知れず探偵活動にいそしみ、またあるときは影の中にあって安らぎを得ているのだ。

 そんな男が真に正義のヒーローたり得るだろうか。答えはノーだ。影を本質としてこの世に生まれついたその日から、影三郎はまさしく日の当たらない存在として生きることを余儀なくされた。

 いつしか彼は事件解決の報酬として、奇怪なものを望み、依頼主に要求するようになった。

 その先駆けとして次のような出来事があったことを、ここに記そうと思う。題して「解決しない事件」。


     *


 東京世田谷にある(さかき)影三郎とその妹らが暮らす家。都内としては敷地の広い部類に属するその邸宅に宛てて、一通の手紙が届けられた。しかしこの手紙、差出人の記載はなく、それでは宛名はと言えば、榊家の家族に宛てたものでもなく、ただ、住所だけは合っていて、おそらくはずっと昔の住所録でも見ながら宛名を書いたのではないかと推察された。


「開けてみるか」


 影三郎の言葉に戸惑いを覚えない夏花(なつか)ではなかった。

 夏花というのは影三郎の一人目の妹である。彼女が言った。


「他人様の手紙を勝手に開けちゃあ駄目だよ」

「うちに配達されたのがこの手紙の運の尽きだ。もしかしたらわが榊家がこの土地に引っ越してくる前の住人に宛てた手紙かもしれない」

「どうなっても知らないからね」


 早速、影三郎が封を切って中から便箋と何かの地図を取り出すと、もう一人の妹で末っ子の春花(はるか)がのぞきこむなり言った。


「それ、この家の地図、と言うか、この土地の地図だよ。ほら、敷地の角にある大きな柿の木が書き記してある。家屋のほうはきっと昔の家だろうね。この家とは違う」

 影三郎が手紙を読み上げる。

『お約束の品はお庭にある池のほとりに咲くツバキの根元に埋まっています。何も言わずにお納めください。』

「どういうことだろうな」


 影三郎にはわけがわからない。それもそのはず、他人の手紙を読んだのだから、意味がわかろうはずもない。それでも行動するところが、この榊影三郎という男には、ある。


「池の横にあるツバキの根元を掘ればいいんだな」

 妹二人も少しばかり興味が湧いてきたようで、夏花が、

「お兄ちゃん、掘ってみてよ」

 と言えば、春花は春花で、

「兄貴、ちょうど池のそばのツバキと反対側の縁側の下に大きなシャベルがあるよ」

 などと言う。

 外は晴れ、昼間の明かりは明るく目指す場所を照らしている。少しの木陰を作りながら……


「このシャベル、そう言えば使うのは初めてだな」

 意気揚々と掘りはじめるその影は、昼間の光に似つかわしくないほど色濃く、まるで元気よくシャベルを振るうことが正反対の動作であるかのように感じさせる。


 カチンッ!


 シャベルが何かに当たった。

 慎重に取り出されたそれは、壺のようなものだった。春花が言う。


「中に何かが入っているかもよ」

「待て、栓がしてある。危険なものが出てきたらまずい。みんな離れろ。おれが開ける。おれはこの身を影のベールで包んで守ることができる」


 二人の妹たちが遠目に見守る中、影三郎が思ったよりも簡単に栓を開けた。何のことはない、木製の栓は朽ちていたのだ。


「これは……何だ」

「何が入っていたの、お兄ちゃん」

「兄貴、見せてよ」


「ミイラだ」


 影三郎が片手でつまみ上げたものは、いわゆる想像図にある宇宙人の姿を子猫のサイズに縮小したような、未知なる生命体のミイラであった。


「何でうちの庭にこんなものが」

「赤ん坊を育てられなくなった宇宙人が、捨て子したのかな」

 春花の台詞はまだ、この発見の奇怪さに充分気づいたものではなかった。


     *


「少し整理してみよう」

 屋内に戻った影三郎が妹二人を相手に持論を述べる。


「まず今日、住所は同じものの、宛名がうちと異なる手紙が誤配達されて届けられた」

「うん」「そう」

 影三郎は妹たちに念を押すように話を続ける。

「そしてそこにはうちの地図が記されており、手紙の文言からツバキの根元を掘ったところ、宇宙人のミイラが出てきた」


「もしかしたら」

 夏花が言った。

「どこかの星の宇宙人が子どもを壺に入れて宇宙をさまよっていた。そのとき、地球に遭遇して、何かの事情で壺を土中に隠した」


「いや、違うね」

 今度は春花が言った。

「これは未来人の仕業だよ。宇宙人のような容貌に進化しているんだ。相当な未来からタイムマシンに乗って、人類の再生を願ってミイラとなったわが子を、タイムカプセルのように埋めにきたんだよ」


「何のため」

 影三郎が問うと、春花は予言めいたことを言った。

「きっと将来、何かの理由で人類は滅亡するんだ。その未来を教えるために、うちの庭にミイラとなったわが子を埋めた」


「誰に教えるためよ」

 夏花は自説を否定されて少し機嫌を損ねたようだ。

「まさか、お兄ちゃんに」


「そのまさかだよ。兄貴が影の能力を持つことを知った未来人が、人類救済の最後の砦として望みをかけたのが、兄貴なんだ。榊影三郎なんだ」


 結局、この一件は未解決のままだが、未来人の説には影三郎も、一応の納得を示している。なぜなら相棒の探偵・夢の能力の持ち主である早見准一(はやみじゅんいち)が次のような夢を見たからだ。


「……ある日、影三郎の前に未来人が現れる。そしてあの子のミイラはわたしが最後に産み落とした子どものものだと言う。いつの日か、あなたたち、過去を生きる人々は、あのミイラのもとにひれ伏し、人類の未来を祈るのだ。そして未来が変わり、ミイラが復活するならば、人類は滅亡を免れる。未来から贈るミイラの名前はラミイ。ミイラ、未来、ラミイ……、言葉遊びのような、それでも言葉が導く未来世界へ、ようこそ、榊影三郎……」


 この一件で得た宇宙人のようなミイラは、そののち、榊家の風変わりな家宝として、大切に保存されている。


 いつの間に、誰が、何の目的で埋めたのか、直接の解明もなされないままに眠る、宇宙人のようなミイラ……


 手紙の差出人の謎。

 早見が見た夢の意味。


 ただ一つだけわかっていることは、このときから影三郎は誰の目にも明らかなほどに、奇怪、異常、怪奇な世界を、それがまるで当たり前であるかのような明晰さで受け取るようになっていったのである。


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