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愛してる、俺と一緒に死んでくれ――前世で私を殺した夫がなぜかぐいぐい迫ってきます  作者: マチバリ


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 その日は突然やってきた。

 顔色を変えて部屋に飛び込んできた使用人の様子に、テリウスに何かあったのかとアルルは息を呑んだ。

「将軍様が、兵士たちと共に城に攻め込んだそうです」

 クーデターだとアルルは瞬時に悟った。

 以前から感じるものはあったのだ。戦のせいで国は疲弊し続けていた。国民の不満は積み重なっており、いつ爆発してもおかしくなった。

 テリウスは隠しているつもりだったが、最近は何か考え混んでいることが多く、アルルの顔を見て何か言いたげにしていることもあった。

 きっとずっと前から立てていた計画なのだろう。

『……君にいずれ話したいことがあるんだ。時が来たら必ず話す』

 そう、告げられたのはほんの数日前だ。

 テリウスが何かを抱えていたことはずっと気がついていた。彼が将軍にまで登りつめたのには、きっと深い理由があるのも感じていた。

 いつか話してくれる日が来ると信じて、アルルは何も聞かなかった。

「では私はどうしたらいい?」

 このままここにいれば王国軍がアルルを狙ってくる可能性があるだろう。

 それに将軍の妻とはいえども、王族であることを厭う者たちが攻め入ってくる可能性だってある。

 使用人はテリウスから言いつかっていたのだろう。

 アルルの覚悟に感心したように頷くと、すぐに身支度を調えるようにと言った。

「ここにいては危険です。避難します」

「どこに行けばよいでしょうか」

「将軍様は、何事かが起きたときは、ブラン様の元へ行くようにと」

「わかったわ」

 これもどこかで予感していたことだ。

 テリウスあてによくブランからの手紙が届いていた。きっとこのクーデターにはブランがかかわっているのだろう。

(ブランお兄様が関わっているのならば、きっと大丈夫だわ)

 ブランは誰よりも優しく気高い人物だ。

 父が国王のままでいれば、この国はいずれ疲弊する。ならばブランが新たな王になるべきだ。

 兄と夫の計画がうまくいくように願いながら、アルルは使用人たちの手によりブランが所持しているという隠れ家に向かった。


「やあ、久しぶりだねアルル」

「お兄様!」

 隠れ家は森の中にある小さな屋敷だった。

 人気のない建物に入ると、ブランが出迎えてくれた。

 結婚してからは手紙のやりとりしかしていなかったが、会わない間にひどくやつれたような気がする。

 つんと鼻を刺激する薬のにおいに、アルルは眉を下げた。

「お体の具合はどうですか?」

「なんとか生きているよ。腹立たしいね。僕がもっと健康ならば、やれたことは多かったのに」

「お兄様……」

 悔しげなブランの様子に、アルルは胸を痛める。

(病弱という理由で、お兄様は政務から遠ざけられたんですものね……)

 そのせいで政治が乱れ戦況にも影響が出るようになったことを、父はどこまで理解しているのだろうか。

 もしブランが中央にい続けていれば、クーデターまでは起きなかったかもしれないのに。

「大丈夫ですわお兄様。きっとテリウス様がことを成し遂げてくださいます!」

 テリウスがブランの剣となり、この国を変えるはずだ。

「私もできうる限り、二人を支えますわ」

「……二人、ね」

「お兄様?」

 不意にブランを包む空気が変わったのを感じ、アルルは動きを止めた。

 こちらを見つめる瞳にはどこかじっとりとした熱気が宿っており、落ち着かない。

 ぞわぞわと肌が粟立つような感覚に、思わず一歩下がると、突然腕を捕まれた。

「アルル。お前は本当に美しい」

 ねっとりと名前を呼ばれ、ぬるい泥水を浴びせさせられたような気持ちになる。

 それはかつて、父から好色の目を向けられたときに感じたおぞましさだ。

「お兄様、どうしたんですか、急に」

 なんとか逃げだそうと身をよじるが、ブランの手は緩まない。

「なぜよりにもよってテリウスにお前を与えたのだろうね、父上は」

 地鳴りのような低い声に身体がこわばる。

 こちらを見ているブランの瞳にはなんの光も宿っておらず、深い穴蔵を見ているような気分だった。

「全部あの女たちのせいだ。お前の美しさを妬んだあの女たちがお前を生贄にしたんだ。そのせいで僕のかわいいアルルが奪われてしまった。あんな平民風情に。僕の道具だったくせにアルルと結ばれるなんて。父上も、アルルのことなんて忘れていたくせに、テリウスに与えたことをずっと惜しんでいた。お前が美しい花になるなんて生まれたときからわかっていたのになんて馬鹿なんだろうね父上は。そう、お前は僕の物になるはずだったのに。ああ、許せない許せない。何もかも許せない」

 ブランはうなるように呟きながら、アルルを掴んでいない腕でガリガリと己の頭をかきむしる。

「父上は本当にどうかしてるよ。僕ほど優秀な子どもはいないのに病弱だからというくだらない理由で僕に継承権を与えないといいだしたんだ。戦しか能のないクズどもめ。この国は僕の物だ。すべて僕だけの物なんだ。渡さない渡さない。絶対に全部僕だけのものだ」

 その異様な光景にアルルは身体を震わせた。


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