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愛してる、俺と一緒に死んでくれ――前世で私を殺した夫がなぜかぐいぐい迫ってきます  作者: マチバリ


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 ビアンカはきゅうっと唇 を引き結ぶ。

 自室で一人、ベッドの上でコロリと丸くなって今日までのことを思い出していた。

 ネロに「大嫌い」と告げてしまった翌日、朝食の席でビアンカは謝ろうと思っていたのだ。

 いくらなんでも言い過ぎた。ちゃんと話をしよう。そう伝えるつもりだったのだ。

 だというのにネロは朝食の席に顔だけ出して、会話を拒むようにすぐに姿を消してしまった。

 声をかける暇さえ与えてくれなかった。

 避けられたショックで追いかけることもできなかった。

 なんとか夕食時には気持ちを持ち直し、再び声をかけようとしたが、ネロはそれきり食事の席にすら顔を出さなくなってしまった。

 寝室にやってくることもなく手紙やプレゼントが届くこともない。

 相変わらず自由はないが、それだけだ。

 まるで自分の世界からきれいにネロだけがいなくなったような喪失感。

「……自覚した途端にこれだもの。最悪」

 一人きりの部屋でそう呟けば、情けないほどに胸が痛んだ。

 ネロは自分を見限ってしまったのだろうか。

 もう二度と、これまでのように過ごすことはできないのだろうか。

 ネロが自分を見限ったわけではないのは感じていた。

 ふとした瞬間に視線を感じることがあったし、部屋の中にあるものが新品に変わっていたり、なぜか些細なメイドとのおしゃべりで口にした欲しいものがそろっていたりと、そこかしこにネロの気配があった。

 きっとビアンカの大嫌いを真に受けて、側にいないことを選んだに違いない。

 自分がまいた種とは言え、まさかここまで徹底的に避けられるとは想像もしなかった。

 ほうっておいたら自分が死ぬまでこの状況は続くのかもしれないとさえ思う。

 ネロならやりかねない。

 でもそんなのは嫌だ。

「……一緒に死んでくれって言ったくせに。うそつき」

 再会したあの日、ネロは確かにそういった。

 どうかしていると思ったけれど、今になってみればあの瞬間にビアンカの心はもうネロに奪われていたのかもしれない。

『どうか俺と一緒に死んでくれ』

 嬉しそうにビアンカに告げてきたネロの顔を思い出す。

 きれいな顔で前世と同じことを言うのだと。

「え……? 同じこと……?」

『……死んでくれ』

 ネロの顔に前世のテリウスが重なった。

『俺と一緒に死のう』

 それは、ビアンカが何度も何度も繰り返し見てきたアルルとしての人生の終わりの光景だった。

 ビアンカに向かって無情にも剣を振り上げたテリウス。

 死ねと言いながら白銀の刃をアルルに突き立てた冷酷な姿、だったはずなのに。

『すまない。俺を憎んでくれてかまわない。だから、俺と一緒に死のう』

 テリウスは泣いていた。

 あの日、ビアンカに拒絶されて泣きそうに顔を歪めたネロと同じ顔で泣いていた。

 振り上げられた手が握る剣は震えていた。

 こんなことをしたくないと全身で叫んでいるのがわかる。

『苦しまないようにしてやることしか、俺にはできない』

 そして振り下ろされた刃がアルルの身体を貫いた。

『ごめん、ごめんアルル。俺もすぐに行く。アルル、愛してる』

 強く身体を抱きしめるテリウスのぬくもりをありありと思い出す。

 気がついたときにはボロボロと涙があふれていた。

 テリウスの腕の中で命が尽きていったあの日、アルルは後悔したのだ。

 テリウスに何も告げられていなかったこと。こんなことをさせてごめんなさいと謝りたかったこと。抱きしめかえせなかったこと。

「……何が、あったの」

 思い出せたのは最後の瞬間に感じた衝動だけ。

 でも間違いなく、テリウスは愛していると言ってくれた。

「この記憶は、間違いなんかじゃない」

 やはり自分は重大ななにかを忘れてしまっている。

 それがなにかをネロは絶対に知っているのだろう。

 だからこそ思い出すなとあれほど必死になったに違いない。

「確かめなくちゃ」

 このまま待っているだけでは解決しないのはわかっている。

 自分の気持ちに気がついた以上、次は自分から動かなければ。

「絶対に 諦めないんですからね……!」

 ビアンカはぎゅっと拳を握りしめ、勢いよく立ち上がる。

 どうにかしてネロに会わなければ。

「どうするか、よね」

 この屋敷はネロの屋敷。使用人たちは皆、ネロに従っている。

 だからこそここ数日、ネロに会わないような生活ができていたに違いない。

 でも、きっとみんなこの状況をよくないと思っているに違いない。

「……よし」

 ビアンカは頭の中でひとつの計画を練ると、不適に微笑む。

「待っていてくださいね、ネロ様。今度は私があなたを追いかけてさしあげますから」


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