18
机を挟んで向かい合わせに座ると、ますます鏡を見ているような気分になる。
だがアルルと決定的に違うのは、プルメリアはつねににこにこと笑みを浮かべていることだろう。
記憶の中にいるアルルは、冷遇され夫からも見返られず、いつだってうつむいていた。
だが、プルメリアの紫の瞳は何もかもを見透かしたような余裕が感じられる。
生まれながらの王族と呼ぶべき風格に、思わず背筋が伸びる。
「あの……それでプルメリア様は」
「そんな呼び方はよして。どうかプルルと呼んで」
「……プルル様はどうしてこちらにいらっしゃったのですか?」
様とつけたのが気に食わないのかプルメリアは軽く唇を尖らせたものの、ふうとため息を吐いてから話しはじめた。
「先ほども言ったけれど、あなたに会いたかったの」
プルメリアは無邪気に微笑む。
「ネロの選んだ人に会いたかったの」
「そう、なのですね」
「なぜ、って思った?」
「え?」
紫の瞳が探るように輝く。
「ふふ。私、昔ネロの婚約者候補だったの」
「え……!」
息を呑めば、プルメリアが面白がるように口の端を吊り上げた。
「いとこ同士だったから認められなくてその時は話が流れたんだけど、ネロがあまりにも相手を決めないから今回だけ特別にって話がまとまりかけていたのよ。でもネロはあなたを見つけてきた」
ひたとこちらを見据える視線に心臓を鷲づかみされたような気持ちになる。
ネロと結婚するはずだった人。
ネロがビアンカを見つけてしまったせいで、プルメリアの人生が変わってしまったのだとしたら。
「……もしかして、私のせいでプルル様は……」
「ああ、気にしないで。まわりが勝手にそういう話を進めていただけだから。むしろあなたを見つけてくれて私は嬉しいの」
本気で喜んでいるらしいプルメリアの態度に、ビアンカは困惑する。
「これからはどうか仲良くしてちょうだい。私たち、家族になるんだから」
身を乗り出してきたプルメリアがビアンカの手をやわく掴む。
女性らしいほっそりとした指が絡みつくように触れてくるのがひどく不愉快で振り払いたいのになぜか動けない。
(……怖い)
身動きが取れずなすがままになっていると、誰かの足音が近づいてきた。
「ビアンカ!」
空気を震わすような大きな声に反応し、ビアンカの固まっていた身体がようやく動く。
「ネロ様」
プルメリアに掴まれていた手をするりと奪い返し、すがるような視線を向ければ、ネロは大股でこちらに近づいてきてビアンカを引き寄せ己の腕の中に囲いこむ。
「プルメリア。何を考えている。俺の許可なくここに来るなんて」
「あら、いいじゃない。この屋敷は私たちのおばあさまのものでしょう? ひとりじめなんてずるいわ」
「だとしても今の主は俺だ」
にらみ合う二人の間にひりついた空気が流れる。
「だって会ってみたかったのよ。あなたがようやく見つけたお姫様に」
にんまりと笑うプルメリアにネロがぎりりと奥歯を噛みしめる音が聞こえた。
「だったらもう気は済んだだろう。帰れ」
「あら、つれないのね。もっとお話したいわ」
「駄目だ。帰れ」
取り尽く島もないとはこのことだろう。
完全にプルメリアを敵と見なしている姿に、傍にいるビアンカのほうがはらはらしてしまう。
「あの、ネロ様、私は大丈夫ですから」
「駄目だ」
ビアンカを隠すように抱きしめるネロにどう声をかけていいかわからないでいると、プルメリアは深いため息を吐く。
「いやだわ、独占欲が強い男は。仕方がないわね。またくるわ、ビアンカ」
にっこりと微笑んだプルメリアは優雅に立ち上がると、それ以上何も言わず、来たときと同じようにふわふわとした足取りでその場を去って行ってしまった。
(何だったの?)
まるでけむに巻かれたような気持ちになっていると、ネロに強く肩を掴まれる。
「あいつに何を言われた」
「えっ」
婚約者候補だった話を伝えるべきかと迷っていると、ネロの眉がつり上がる。
「プルメリアには関わるな。二度と会うんじゃない!」
「……!」
叱りつけるような口調はテリウスのものだった。
アルルを拒み見下し続けたテリスウと重なるネロの姿に、ビアンカは思わずその胸を両手で押して突き飛ばす。
「っ……」
そんなに強い力ではなかったはずなのに、ネロはよろけて数歩後ろに下がった。
ビアンカを見つめる瞳には動揺が滲んでいる。
(私、何を)
ビアンカもまたひどく動揺していた。
せっかく近づいたと思っていたのに、どうしてと裏切られたような気持ちが湧き上がってしまい、咄嗟に身体が動いてしまったのだ。
お互いにかける言葉がみつからずにただ見つめ合う。
先に視線をそらしたのはネロだった。
ビアンカではなくメリーに向き直った彼は口を開く。
「プルメリアが来ても二度と屋敷に入れるな。誰が来てもだ」
「……かしこまりました」
「ビアンカ。しばらく部屋の外に出るのを禁じます。俺にはあなたを守る責任がある」
「そんな……」
ひどいとネロに近寄れば、腕を引かれそのまま腕に囲いこまれる。
「あなたの瞳に映るのは俺だけでいいんだ」
「ネロ様……?」
痛みをこらえるような昏い光を宿したネロに見つめられ、ビアンカはただ唖然とすることしかできなかった。
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