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愛してる、俺と一緒に死んでくれ――前世で私を殺した夫がなぜかぐいぐい迫ってきます  作者: マチバリ


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 ヘルバにやってきて一週間ほどが過ぎた。

 用意されたきれいな部屋でメイドに髪を整えてもらいながら、ビアンカはいまだに慣れない状況を噛みしめていた。

(か、快適すぎる)

 ビアンカはまるでお姫様のように扱われている。

 おはようからおやすみまで笑顔のメイドたちが傍につきそい、いつ用意したのか見たこともない可愛らしいドレスもたくさんで、食事やお菓子などの準備は完璧。

 冷遇されていた前世はもちろんだが、伯爵令嬢として育った今世でもこんな扱いをされたことがない。

「ビアンカ様の髪はとてもお美しいですわ」

 ビアンカ付になったメイドがにこにこと微笑みかけながら髪を編んでいく。

「ありがとうございます」

 素直にお礼を伝えれば、メイドはますます微笑みを深くする。

「ビアンカ様は本当にお優しい方ですね。ネロ様がお選びなったのがわかります」

「は、はは」

 メリーの態度からも感じたが、彼らはネロを本当に慕っており、そのネロがようやく連れてきたビアンカのことも大切に扱ってくれた。

「ネロ様は、王族でありながらも私たちのような立場の弱いものたちにとても心を砕いてくださるんですよ」

 彼女は数年前に火事で焼け出され行く当てもなかったが、ネロが推し進めていた支援施設のおかげで助かり、そこで教育を受けここのメイドになったのだという。

 乳母であったメリーも、元はとある貴族の夫人だったが夫が亡くなり家督を親族に奪われかけていたのをネロが助けたそうだ。

「ここに働いているものたちはみなネロ様に助けられてここにいるのです。皆、ネロ様に幸せになって欲しいと思っております」

 ネロは仕事に熱心で人々を助ける活動に勤しみつつも、自分のことはいつも二の次だったという。

「そうなの……」

「あんなに楽しそうなネロ様ははじめてです」

 ビアンカにしてみればはじめて会ったときからあの調子なので、そうではないネロがうまく想像できずに戸惑っていると、部屋の扉がノックされた。

「やあビアンカ」

「ネロ様」

 顔を覗かせたのはネロだった。

 ビアンカの支度が終わっていることを確かめると部屋の中に入ってきて、大きな花束を差し出してくる。

「今日もきれいだよビアンカ」

「ありがとうございます……」

 花束を受け取りながらビアンカはちらりと部屋の中に視線を向ける。

 室内には所狭しと花やぬいぐるみが飾られており、それらすべてはここに来てから毎日ネロに渡されているものだ。

 それ以外も服や靴、アクセサリーなどが勝手に増えていることがある。

「あの、こんなに毎日していただかなくても大丈夫ですよ」

「いや。毎日でも足りないくらいだよ」

 ネロはにっこりと微笑むと、ビアンカの手を取りその甲に口づけを落とす。

「君が俺の傍で毎朝目覚めることが本当に嬉しいんだ。贈り物くらいでしか俺は君に感謝を伝えられないからね」

 後ろでメイドたちがきゃあと声を上げる。

 ビアンカも思わず悲鳴を上げそうになるが、それは彼女たちとは違い恐怖からの悲鳴なのでなんとかぐっとこらえた。

(プレゼントといいなんなのよ)

 ネロはどういうつもりなのか顔を合わせるたびにこうやって甘い言葉を吐いてくるのだ。

 かわいいと言ってみたり、これからずっと一緒と言ってみたりと、本気なのか惑わそうとしているだけなのか、判断が付かない。

 メリーのおかげで部屋に軟禁は免れたが、いまだに屋敷の外には一歩も出ていないのもビアンカがネロを信じ切れていない理由のひとつだった。

「あの、ネロ様。そろそろ陛下たちにご挨拶をしたいのですが……」

 恐る恐る話を切り出せば、ネロは笑顔を貼り付けたまま緩く首を振る。

「ごめんよ。まだ色々準備が終わっていないんだ。君はゆっくり待っててくれればいい」

(まただわ)

 ビアンカがやんわりとネロの家族……つまりこの国の王族に挨拶したいと伝えるもこうやってかわされてしまう。

 ビアンカの方は国王から送り出されたので、この婚約が認められていないとは思えないが、ここまで会えないとなると妙な勘ぐりをしたくなる。

(もしかしてこの婚約はネロの独断だったりして)

 嫌な想像に表情を曇らせていると、ネロが申し訳なさそうに眉を下げた。

「不安にさせてごめん。でも大丈夫。必ず俺が君を幸せにするから」

「……ネロ様?」

 どこか切なげに瞳を揺らしたネロがビアンカの髪を一房掴むと、まるで宝物のようそこに口づけた。

「今日は休日の予定だったんだが、少し用事ができてね。すまないが屋敷を開ける。帰りも遅くなるから先に食事を取っておいてくれ」

 思わずえっと言いかけるがすんでの所で飲み込む。

 ここに来てからネロはちょくちょく屋敷を空けているようではあったが、必ず食事の時間には戻ってきていた。

 まるでそれが義務であり絶対に守らなければいけない約束のような必死さだったので、少し驚いてしまう。

「寂しいかもしれないけど、夜には戻る」

「はい……いや、あの、お気をつけて……」

 まるで寂しいに同意するような返事になってしまったので慌てて言葉を濁せば、ネロがどこか切なげに目を細める。

「ビアンカを頼む」

「かしこまりました」

 そう言ってネロは颯爽と行ってしまった。

 残されたビアンカは花束を抱えたままぼうっとその背中を見送ったのだった。



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