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愛してる、俺と一緒に死んでくれ――前世で私を殺した夫がなぜかぐいぐい迫ってきます  作者: マチバリ


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 こちらに向かってくるのは、メイド服に身を包んだ女性だった。

 ビアンカの母よりも少し年上くらいだろうか、上品そうな顔立ちをしているが、怒りに染まったているためかなりの迫力だ。

(ひえっ)

 ビアンカは思わずのけぞる。

(これはもしかして、私を連れてきたことに怒っているのでは)

 前世のことに気を取られていて失念していたが、冷静に考えてみれば第二とはいえ王子が隣国で勝手に婚約者を決めるなど普通はありえない。

 国で王子の帰りを待っていた人たちに取ってみれば寝耳に水にどころではない。

「ネ、ネロ様」

「なんだいビアンカ」

「私のことは、皆さまご了承済みなんですよ、ね……?」

 恐る恐る問いかければ、ネロは少し目を丸くした後「うーん」と考えてから、爽やかな笑みを浮かべた。

「うん。ちゃんと帰国の日程を知らせるときに一緒に連絡しておいたよ」

「……!」

 それは了承ではなくただの報告だ。

 つまり、今のビアンカはネロが勝手に連れてきたどこの馬の骨ともしれない女でしかない。

(いや、一応は隣国の貴族令嬢だけれど……第二王子の婚約者になれるような身分じゃないわよね)

 カルポスは平和な国だが、国としての力は強くない。せめてビアンカが王族かそれに次ぐ地位のある貴族ならばまだ釣り合いが取れただろうが、実際ただの伯爵令嬢だ。

(もしかして帰れって言われちゃうとか? それはそれで助かるけど……変に拗れてうちの家に何かあったらどうしよう)

 頭の中でぐるぐると考え込んでいると、先ほどの女性がすぐ近くまでやってきていた。

「ネロ様!」

「やあ、メリー。出迎えかい?」

 ネロの気安い声かけに、メリーと呼ばれた女性が眉を吊り上げた。

「出迎えどころではありません! まったく! 何をお考えなのですか!」

 ずいずいとネロに向かっていき怒るメリーの勢いにビアンカがおののいていると、彼女はくるりとこちらを向いた。

 怒られる!? と身構えたビアンカだったが、次の瞬間にメリーが起こしたアクションは予想外のものだった。

「お嬢様、ようこそいらしてくださいました」

 先ほどネロに向けていた声音ががらりとかわり、こちらをいたわるような音色になった。そして深々と優雅に頭をさげてきたのだ。

(えっ……?)

「私はこのお屋敷のメイド長メリーと申します」

「あ……はじめまして。ビアンカ・アプリコと申します。カルポスから参りました」

 精一杯淑女らしく頭を下げれば、メリーがなぜかうるうると瞳を潤ませる。

(何? どうしたの?)

 何かとんでもない粗相をしてしまったのではないかとビアンカが怯えていると、メリーがハンカチで目元を拭いながら何度も頷いた。

「こんな素晴らしいお嬢様をお連れになるなんて……ネロ様! どうしてもっと早く連絡をくださらなかったんですか!」

 メリーは到底主に向けるものとは思えない口調でネロに詰め寄る。

「悪かったよ。とにかく早くビアンカを連れて帰りたかったんだ。でも、国境を越えてすぐに知らせを出したわけだし……」

「それでは遅すぎます! お嬢様をお迎えするのですよ! こちらにも準備があるんです!」

「大丈夫だよ。ビアンカの身の回りのものはあちらで揃えてきたから」

 ネロはにっこりと微笑み荷馬車を指さした。

(やたら荷物が多いと思ったら!)

 ビアンカが驚いているとメリーは大げさなくらい大きなため息をこぼす。

「持ち物の問題ではありません。お部屋の準備やお食事……お嬢様のお世話係などの采配もあるのに!」

「ビアンカの部屋は俺と同じ部屋で構わないし、世話係もメリーがしてくれれば……」

(一緒の部屋!?)

 とんでもないネロの発言に目を剥いて文句を言おうとしたら先にメリーが声を上げた。

「いけません! 婚約済みとはいえ同室など……何よりお嬢様は隣国からわざわざこの国に嫁いでくださった御方なのですよ! お嬢様がどのように思われるかお考えください!」

(メリーさん!)

 はっきりと正論を告げてくれるメリーの手を取りたくなる。

「まったくもう……! お嬢様……いえ、ビアンカ様。今お部屋を整えておりますので、少しお待ちください」

「お気になさらず! 私はどこでも……」

「そうだよ。ビアンカは俺と同じ部屋で寝ればいい」

「ネロ様!」

 するりとビアンカの腰を抱くネロにビアンカが声を荒らげる。

 しばらく屋敷の正面で押し問答をしていると、中から執事服を着た男性が出てきて手を叩いた。

「メリー、お嬢様が困っていますよ」

「まぁ! もうしわけありません、ささ、応接間にお入りください!」

 ようやく屋敷の中に通される。

 外から見たときも大きなお屋敷と思っていたが、中に入ってもその広さにとても驚いた。

 落ち着いた色合いの壁紙に大きな窓、丁度品も高級なものばかりなのが見てわかる。

 案内された応接室もゆったりとした空間で、置かれている大きなソファにビアンカとネロは並んで座る。

「すごいですね」

 部屋の中を不躾に思われない程度に見回しながら感心していると、ネロは興味なさげに肩をすくめた。

「城を出る条件が王族らしい屋敷に住むことだったからね」

「え?」


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