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第8話 沈黙の座標

静まり返った台北の夜。かつて台北の繁華街を照らしていたネオンは、今や戒厳に近い緊張のなかで力なく瞬いていた。車の往来も減り、パトロール車両だけが時折、地面を赤と青に染める。


劉宗憲リウ・ゾンシェン林海翔リン・ハイシャンと共に、信義区のビルの一室に足を踏み入れた。そこは、林の旧知であり元軍技術者だった賀凱文ハー・カイウェンのオフィスだった。部屋には、古びた金庫や通信解析用の旧型端末が所狭しと並んでいた。


「このUSBか。懐かしい手口だな」

賀がニヤリと笑いながら、端末にそれを差し込んだ。


中に格納されていたのは、いくつかの階層に分けられたデータだった。表層は貿易に関するごく普通の通商ログ。しかし賀はすぐに不自然な構文の連続を見つけ、深層を覗き込んだ。


「……出たな。これ、座標情報だ。しかも時間制限付きだ。解読ウィンドウが限られてる」


「時間制限?」

宗憲が身を乗り出す。


「特定の時刻――例えば、毎日午後9時9分9秒にしか開かない暗号。それに似てる。台湾の旧鐘塔で、その時刻に鐘が鳴っていた記録がある。関係あるかもしれん」


林が目を細めた。「……鐘?」


宗憲の脳裏に、父・劉明哲リウ・ミンジャーの声がよみがえる。


――“本当に危険なのは、敵よりも味方の顔をした敵だ。”


ふと林を見ると、彼の表情が一瞬だけこわばったように見えた。しかしすぐにいつもの沈着な仮面に戻る。


「この座標、どこを指してる?」宗憲が聞く。


賀は地図を呼び出すと、旧台北刑務所跡地を指差した。

「このエリアだ。今は一部立ち入り禁止になってるが、戦前は秘密収容施設だったって話もある」


そのとき、部屋の照明が一瞬、明滅した。


「EMP?」賀が警戒して立ち上がる。「この部屋、電磁妨害の影響を受けるはずがない。誰か、探ってるぞ」


林がすぐさま窓際へ走る。「……尾行か。いや、傍受か……。すぐにここを離れよう」



一方、中国・中南海、北京。


重厚な調度品に囲まれた部屋に、陳梓豪チェン・ズーハオが立っていた。彼の前には巨大なホログラムが浮かび、台湾からのデータ発信源を指し示していた。


「“賀凱文”か。……まだ生きていたとは」


彼の背後に黒い影が現れる。「Kには伝えてある。“標的”は優先排除対象。だが、監視は継続しろ」


陳は静かに頷いた。「眠れる者が、目覚め始めている。そうなれば、計画は……修正が必要になるだろうな」



その夜遅く、宗憲たちは賀の車に乗り込み、問題の座標地点――旧台北刑務所跡地へ向かっていた。


車中、宗憲は助手席で目を閉じた。父がかつて、秘密裏に記録していた“影子シャドウ”の存在。その記憶が断片的に蘇る。


「もし父が……本当にその座標を追っていたとしたら」


林がふと宗憲に問いかけた。「どうする? そこに“鍵”があると分かっても、政府が隠したいものだったら」


宗憲は迷いなく言った。「俺は、事実だけを掘り起こす。それがたとえ、誰かの都合を壊すことになっても」



夜の刑務所跡地。外観は廃墟に近いが、警備は厳重だった。


しかし賀は「地下配線図」を解析し、旧い職員通用口の“盲点”を発見する。


「ここなら、警備網の死角になる」


三人は身をかがめ、廃れた裏通路へと入り込む。鉄製の扉をこじ開けると、地下へと続く階段が現れた。


その奥に、かすかに響く“鐘の音”が聞こえた――。


「今の……録音か?」林が囁く。


「いや……本物だ。これは、誰かが――“起こそうとしてる”」

宗憲の声に緊張が滲む。


階段を下りる彼らの背後で、暗闇に何かが潜んでいた。

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