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第11話 交錯する真実と虚像

203×年7月9日 午後5時 台北市內各地


台北市政府前に集まった市民たちの間で、異様な緊張が走っていた。SNS上では「阿里山神社跡地に関する隠された文書が存在する」との噂が瞬く間に拡散され、テレビでも取り上げられ始めていた。

──だが、それは「誰かの手」によって仕組まれた情報だった。


街角のスクリーンには速報のテロップが流れる。


「阿里山神社跡地に謎の加工痕跡 元政府関係者が証言か」


市民のざわめきが渦となり、台北の空気が張り詰めていく。だが、阿里山ではなく、実際のその神社跡地は──「台北市中山区の某ホテルの地下」に存在していた。加工された構造物の中に、劉 明哲リウ・ミンジョーの最期の記録が隠されている。それを知る者は、まだ限られている。



台北市警察局情報課地下フロア。公安調査員・杜 凱文ドゥ・カイウェンは、無言で資料をめくっていた。彼の視線は鋭く、しかし冷静だった。

彼はこの任務で劉 宗憲リウ・ゾンシエンの補佐として急遽投入された新たな相棒──その裏には「宗憲の監視」任務というもうひとつの目的が隠されていた。


「…拡散元のアカウント群は、ほぼ同時に投稿を開始しています。IPは偽装。背後に組織的意図があると見ていいでしょう」

カイウェンは冷静に言い放ち、次の資料を宗憲に手渡した。


「操作してるのは…影子シャドウか」

宗憲の声には、かすかに怒りが混じっていた。


「可能性は高い。だが、もう一つの可能性も排除できません」


「つまり、政府内部か」


二人の視線がぶつかる。信頼はまだ浅い。だが、確かな連携の芽はあった。



一方その頃──中国・北京、中南海の一室。


重厚な木製の扉が軋むように閉じられ、部屋の奥にはひとりの中年男性が静かに座していた。白髪交じりの男、名を白燕バイ・イェン

彼は中国政府の影に潜む情報操作部門の幹部であり、現在の情報戦の「指揮者」でもある。


「台湾側のSNSは混乱状態。情報は予想以上に波紋を広げている」


部下の報告に、白燕は何の感情も見せなかった。


「問題は、彼らが“本物”の鍵に近づきつつあるということだ。…あの場所には、確かに我々も知らない記録が残っている」


男は手元の古びた地図を見つめる。そこには赤線で印がつけられていた──「台北市中山区・●●ホテル地下 旧神社跡」。



その夜、林 海翔リン・ハイシャンは独自に行動していた。公安調査局の元同僚から得た匿名の情報を頼りに、拡散元とされる地下サーバーの存在を突き止めようとしていたのだ。


「…この辺りの電波状況、おかしいな」

廃ビルの裏手でスマート端末を手に、彼は通信状況の乱れを確認する。


──カツン


背後で足音が響いた。振り返った瞬間、林は誰かの気配を感じたが、そこには誰もいなかった。


「……勘違いか?」


数歩、前へ踏み出したその時。何かが空気を切り裂いた。


──銃声。


とっさに身を伏せた林の肩を、何かがかすめた。血が滲む。


「…チッ、本気で消すつもりか…!」


林は即座に身を翻し、夜の闇に消えた。彼の中には疑念が膨らんでいた。


(自分を狙ったのは誰だ?…影子だけじゃない。内通者が…近くにいる…)



その頃、劉 宗憲はカイウェンとともに、外交部ビルに戻っていた。空気が張り詰めている。

「明日、例のホテルを確認するつもりだ。父が遺した手帳に、それらしき記述があった」

宗憲はポケットから、古びた手帳のページを一枚開いた。


「…“神域は都市の影に隠されている。かつて祀られ、今は忘れられし境界。”」


カイウェンの目が一瞬鋭くなる。


「この“境界”という表現…、地理情報に変換すれば、地下構造物か。都市計画以前に存在していた旧宗教施設の名残り…それなら一致します」


宗憲の中に、確信が芽生え始めていた。

そしてふたりの後ろで、廊下の影に佇む人影が──音もなくその会話を聞いていた。



夜。SNSには新たな動画が投稿される。


「【緊急速報】台北地下に隠された“真実”──元公安関係者が告発!」


動画の冒頭で、目元だけを隠した人物が語る。


「彼らは知っている。だが、隠している。火種は、もう撒かれているんだ──」


宗憲はそれを見つめ、呟いた。


「これは…偶然じゃない」


その瞬間、彼のスマホにメッセージが届く。


「“鐘の音”がまた鳴る。場所は、知っているはずだ」


宗憲の指先が震える。


「…まさか、あの時の──」


視線の先には、夜の台北。何も変わらないはずの都市が、どこか違って見えた。

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