1話 元国立志望エリートの俺
澄み渡る青空、爽やかに吹く風、美しく輝く太陽。世間から見れば、今日はとても素晴らしい日なんだろう…この俺、牛田乾酪を除いて。
「お前、痴漢したんだろ?証言も出てるんだよ、白状しちまえ。」
地獄みたいな空気、ウザイ警察官、日差しとかほとんど見えない取調室。
なあ神よ、どうしてこうなった?
なぜ俺がこんな目にあっているかは、だいたい三時間前くらいに遡る。
いつも通りの電車で行きたくもない滑り止め私学に向かっている時に、それは起きた。
「ちっ、痴漢!!この人痴漢です!!」
そう、いきなり前に立っていた私文にうじゃうじゃ居るいかにも量産型って感じの女がいきなりそう叫んだのだ。
(おいおい、相手を間違えたなw俺は元国立志望エリートだぞ?こんな女くらいいつも通り論破してやるかw)
X(旧Twitter)での激戦を幾度となく制してきたこの俺に痴漢冤罪なんて、この女も馬鹿だな。見せてやるか、俺の論破テクをw
「いっ、イヤソノ、別に触ってないって言うかその普通にあの、えっとう、ウソツクノヤメテモラッテイイデスカ。」
決まった、これはこの女さん(笑)も何も言い返せないだろう。所詮女なんてTwitter上でもまともに思考できない奴らなんだから、最初から冤罪とかすんなよな。
「ねえ、あの人やったんじゃない…?」
「なんか挙動不審だし、次の駅で駅員にでも…。」
おかしい、周りから聞こえる声によるとどうやら俺がやった事でほぼ確定しつつある。まずい、どうにかして弁解しないと。
「ぼっボクハッ、その、えっと…」
「なあ兄ちゃん、さすがにそれは苦しいわ。自分わかりやすすぎやろ、一緒に駅員さんとこいこか、な?」
俺が再び華麗な論破を決めようとしているところに、頭の悪そうな私文量産型ヤンキーが水を挟む。こいつが割って入ったせいで周りのムードはさらに俺有罪ムードになった。まずい、こいつをどうにかしないと。
(ここはいつもの脳内シュミレーションの通り、サクッと撃退しますかw)
「アッアノボウリョクハチョット…」
「あ?なんもしてへんやんけ。兄ちゃんが大人しくしてくれたら俺もなんもせえへんから、とりあえずこの子に謝って大人しくしとき。」
「アッハイ、スミマセンデシタ…」
そこからは何故かトントン拍子で警察に行くことになって。今、こうなっているというわけだ。
(俺の人生、終わった…ロクな人生じゃなかったな…。)
第一志望の国公立大学にも落ちて、やったことといえばネットだけ。
(あー、もういっそのこと漫画みたいに異世界にでも飛ばねえかな。)
そう思った瞬間、この部屋をほとんど真っ暗にしていた要因の小さな窓が眩しく光り輝いた。警察官はそれを見て呆気にとられ、呆然と見ていることしか出来ない。
そしてその光は様々な物理法則を無視して俺の所まで伸びてきて、俺は光に包まれた。
「う、うお、うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
(こ、これが異世界転生ってやつか!?これで俺も可愛い二次元の女どもに囲まれてハッピーライフってわけか!!)
やはりエリートの俺にはこっちの方が似合っているな。そう思っていると、俺を包んでいた光が薄れ視界が開けて来る。
(おお、ついに俺が無双するファンタジーの世界が目の前に…)
完全に光が消えたタイミングで目を開く。
そこはファンタジー感溢れる平原…では無く、悪役令嬢の屋敷…でもなく、まさかの魔王パターン!?…でもなく…
裁判所だった。
「えー、では主文。被告人、ドンギュウ・チーを」
「下着泥棒及び大勢の女性への痴漢行為及びわいせつ物陳列罪を確定し、懲役十年とする。」
「は?」
「以上で、この裁判は結審となります。」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
俺の異世界ライフ、始まる前に終わった件について。
友達と会話してたらこの文章が浮かんでしまった。
なんか炎上しそうな気がする