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3/3

おもいでばかりがあたたかいの。

【前書き】

自作をお読みくださる皆様へ、また加えてブックマーク、評価、コメント等をくださる皆様へ、心より感謝を申し上げます。本当に嬉しいです、ありがとうございます。

この度は、先日まで記載することができていなかったコメント返信についてのご説明のため前書きを記させていただきます。

当方の未完作品につきまして、コメント返信は次話更新時に行う形としております。

理由はいくつかございますが、基本的には『返信を更新通知の代わりとしてもご活用いただけるため』『いただいたお言葉にきちんと考えた返信をさせていただきたいため』という2つが主な理由です。

当方の都合で返信をお待たせすることとなってしまい大変恐縮ですが、ご理解賜われましたら幸いです。


最後になりましたが、コメントをくださった方へ、心からの謝意を申し上げます。本当に本当に嬉しかったです、ありがとうございました。また、当方の説明不足によりご心配をおかけしてしまったのでしたら申し訳ございませんでした。

今後とも皆様に作品をお楽しみいただけるよう精進してまいります。


気温も厳しさを増してまいりましたので、皆様どうかお身体を大切にお過ごしくださいませ。


※こちらの前書きは作品を読む上で邪魔とならないよう、次回更新時に削除させていただきます。




 お姉さんと出会ってから一年半が経つ頃。共に過ごす夜も増える内、僕らは次第に眠る以外にもいくらか話をするようになっていた。

 ……会話というより、自分が一方的に話しているだけのような気もするが。


 それでもお姉さんは相変わらず大人で、優しくて、穏やかで、ずっと一緒にいたくなる人で。


「ねぇ、お姉さん」

「なぁに?」

「お姉さんってさ、その……コイビトとか、いるの?」

「恋人はいないなぁ」

「じゃあ、好きな人は?」

「好きな人もいないねぇ」

「……そっか」


 どこかふにゃふにゃと眠たげに答えるお姉さんに、僕は驚いたのが声に出ないようにしながら小さく言葉をこぼす。


 意外、というのは少し違うか。……『変だ』と思ったのだ。


 だってお姉さんはこんなに優しくて、あたたかくて、素敵な人なのに。誰だってお姉さんのことを好きになるはずなのに。

 ……と、いうことは。


「お姉さんは、コイビトなんていらない?」


 今はそういう人も多いのだと誰かが言っていた。ましてや、お姉さんは妖精だ。

 コイビトやハンリョなんてもの、必要ないどころか邪魔ですらあるのかもしれない。


 そう思って問いかけたのだが、お姉さんは僅かに難しい顔をして、それから困ったように、やはり眠たげにふにゃりと口角を上げて、答えた。


「いらないっていうか、作れないの」

「……なんで?」

「なんでって……んー、むずかしいなぁ」


 お姉さんは夜目がきかない。妖精なのに、とは思うが、きっとお姉さんは基本昼にしか活動しない妖精なのだろう。

 けれど、それでも僕が説明を求めるようにお姉さんを見上げていたことは分かったらしく、お姉さんは考えるような表情のまま口を動かした。


「恋人っていうのはさ、お互いに支え合うものだと思うんだよね」

「そうなの?」

「そうだよ。恋人に限った話じゃないけど、恋人は特にそう。

 君のお父さんとお母さんだって、困ったり悩んだりした時は支え合ってるんじゃない?」


 たしかにそうだ。

 僕は国政のことについて話し合う父様と母様を思い出しながら、こくりと頷いた。


「だよね。でも、私はそれができないの」

「できない?」

「うん」

「……支えてばっかりってこと?」


 よく分からなくてそう問うと、お姉さんはおかしそうにくすくすと笑った。


「あははっ、違う違う、逆だよ」

「…………支えられてばっかりってこと?」


 お姉さんが?


 信じられないような気持ちでまた問いかけたのに、お姉さんはさも当然だと言わんばかりの表情で頷いて。


「うん。私はなんていうか……あんまりにも足りてないっていうか、未熟だからさ。そういう相手ができたら多分、寄りかかり過ぎちゃうと思うんだよね。そしたら相手も疲れちゃうでしょ?

 だから、まだ恋人は作れない」

「……相手が疲れなければいいの?」


 僕だったら、お姉さんにいくら寄りかかられたって疲れないのに。

 けれどお姉さんは「そういう問題じゃないの」と微笑むばかりで。


 お姉さんが僕のことをただの子どもとして扱ってくれるのに救われていることは確かだ。

 だけどこういうとき。お姉さんに子ども扱いされるのを、無性に歯痒く感じてしまう。


 ……いや。

 人間の何倍も長生きする妖精には、人間なんて皆ただの子どもに見えているのかもしれないが。


「……お姉さん」

「んー?」


 お姉さんは、僕に名前を教えない。


「お姉さん」

「はぁい?」


 お姉さんは、僕の名前を訊かない。


「おねえさん」

「ふふ、どしたの」


 それでも、呼べば穏やかに微笑んでくれる。

 やわらかく撫でてくれる。


「……ぎゅってして」

「うん、いいよ」


 求めれば当たり前のように頷いて、僕をぎゅっと抱き締めてくれる。


 ……お姉さんは僕を甘やかす。

 どこにでもいる子どもにするように、まるで我が子を愛でるかのように。


 でもそれは、お姉さんが優しいからだ。ただ優しさだけを以て僕を甘やかしているだけで、そこに情なんてなくて。


 だからきっと、この妖精は僕がいなくとも、なにも。


 ──依存している。わかっている。自覚がある。


 それでも、僕は。


「あの、さ」

「なぁに?」

「恋人になりたい人、いないなら」

「うん」


 緊張で震える唇をぎこちなく動かして、告げた。


「大きくなったら、僕と結婚してよ」


 自分でも何故かわからないまま泣きそうになりながら告げた言葉がいわゆる“恋愛感情”から出たものなのかは、実のところよくわからない。

 ただの“子ども”でもなくただの“人間”でもなく、お姉さんの“特別”になりたい一心だったかもしれないし、ただ『お姉さんとずっと一緒にいたい』という感情から出ただけの言葉だったかもしれない。


 けれど恋愛感情ではなかったとしても、僕にとっては本気の言葉だった。


 それを聞いたお姉さんは俺の言葉に目をぱちくりと瞬かせて、それからいつものようにやわらかく微笑んで。


「君が大きくなったとき、他に結婚したいと思う人がいなかったらね」

「大きくって、いつ」

「いつって……う〜ん、そうだなぁ。……二十五歳、とか?」

「わかった! 約束だよ!」

「あはは。うん、約束」


 本気だったから、その言葉が本当に嬉しかった。

 今はそうでなくとも、いつかはこの妖精に“対等な大人”として見てもらえるのだと、名前を呼び合うことのできる仲になれるのだと。



 それからはとにかく努力に努力を重ねた。


 お姉さんに見合う存在になるために。

 お姉さんに誇れる“大人“になるために。

 お姉さんから嫌がられるような要素が何一つなくなるように、ただただ完璧を目指した。


 魔術を磨いた。

 剣術を磨いた。

 マナーを磨いた。

 社交術を磨いた。


 お姉さんを守れるように。

 お姉さんに守られなくてもいいように。


 一番頑張りを伝えたいヒトは僕の前に姿を見せなくなった。だけどそれでもよかった。

 寂しかったけど、僕には、僕たちには、約束があったから。


 実績を築いた。

 人脈を築いた。

 地位を築いた。

 信頼を築いた。


 瑕疵無き者になれるよう、ただひたすらに容姿も実力も知識も、何もかもを磨いてお姉さんを待った。


 その内「王位を狙っているのでは」と囁かれるようになったから、王位継承権を放棄した。

 他者からの疑念や悪意は、お姉さんを傷付ける要因になりかねないだろうと思ったのだ。


 成果を挙げた。

 成果を挙げた。

 成果を挙げた。

 成果を挙げた。


 だが、お姉さんは現れない。あれから一度だって、姿を見せてはくれない。

 幼かった子どものことなど忘れてしまったか、はたまたあの約束が嫌だったか。


 だとすれば。

 あのヒトはもう、自分の前に現れるつもりなど……。


 ……違う。

 あのヒトは幼子を情なく切り捨てるようなヒトではない。

 好意を厭うような人ではない。

 約束を破るようなヒトでは、ない。


 忘れないように、掠れないように、曇らないように。

 記憶にある彼女を暈そうとする煤を払うように、まだ記憶の中で火を灯し続けている思い出の輪郭を丁寧になぞる。


 ……完璧で在らなければ。

 約束を果たすことが彼女の不幸とならないように、彼女を幸福にできるように。


 そう考えて、また眼前の研究へと意識を戻す。

 そんな日々が、何年も何年も続いて。




 ──けれど。

 二十五の誕生日を迎えても、彼女が私の前に姿を現すことはなかった。


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