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第8話 ルーシーの真意

 ヴァイオレットはこれまでずっと魔法が使えないと言われてきた。特にルーシーは常にそれを強調してきた。

 実際は違った。ヴァイオレットは使えたのだ。最も強力な代わりに、使用者の命すら失われかねない禁術の破壊魔法を。


 だが、かつてその使用者が一人で国を滅ぼしかけたことから破壊魔法は世界的にタブー視されるようになり、使用者であることが露見した際には施設に収容されてしまう。

 そのため、ヴァイオレットは実質的には魔法が使えないし、だからこそ両親の脅しにも逆らえないでいるのだ。


 もしも本気で内側から解除不可能な暗い密室に閉じ込められたなら、取り乱して破壊魔法を使用してしまうだろう。

 脱出はできるかもしれないが、代わりにその後の人生は収容所に囚われることになる。それも、ヴァイオレットが反動に耐えて生き延びられればの話だが。

 前述したように、破壊魔法はその威力の反面、使用者自身が死に至るほどリスクを抱えているまさに諸刃の剣なのだ。


 ただ、身体能力を引き上げる身体強化だけは、魔力をうまく調節して体に負担のかからないように発動できる。

 バク宙などを軽々しく行えるのもそれが理由であり、暴走のリスクを減らすためには定期的にガス抜き代わりに発動させる必要もあった。


 だが、それも見る人が見れば禁術だと見破られてしまう可能性がある。

 使用の際には十分に他人の目を気にする必要があった——とある二人を除いて。


 そう。ヴァイオレットの周囲には二人だけ、彼女が破壊魔法の使い手であることを知っている者たちがいた。

 それが義妹のルーシーと古本屋のイヴリンだった。


 破壊魔法を発現したのはヴァイオレットが十六歳、ルーシーが十歳のときだった。

 ルーシーとともにイヴリンの元へ遊びに行って魔法を教えてもらっていたときに、ヴァイオレットが無意識のうちに破壊魔法を発動させようとしていることにイヴリンが気付いたのだ。


 イヴリンは顔をしかめ、ルーシーに至っては真っ青になった。

 破壊魔法が使用者の身を滅ぼしかねないほど危険なものであり、露見すれば収容されてしまうと知っていたからだ。


 しかし、当の本人であるヴァイオレットの反応は違った。

 小さいころから魔法が何よりも好きだった彼女は、それまでルーシーと違ってほとんど魔法が使えていなかった悔しさも相まって、自分が破壊魔法の使い手であるという事実に歓喜した。

 なんとかして仕組みを解き明かしたいと思い、ますます魔法にのめり込んでいった。


 ヴァイオレットはとても魔力の扱いに長けていた。

 ある程度自由に調節できるのは身体強化だけだが、他のもっと強力な破壊魔法に関しても威力を抑えるだけならできていた。


 イヴリンも、自分と一緒にいるときだけに限定して破壊魔法の使用を許可していた。

 もちろん様々な制限は設けたが、全面的に禁止して一人でこっそり練習されるよりはマシだと考えた。それほど夢中になっていたのだ。


 勝って兜の緒を締めよ、という言葉が状況に相応しかったのかはわからない。

 しかし、当時のヴァイオレットが自分の才能に浮かれていたのは確かだった。


 十七歳のころ、魔力の操作を誤って破壊魔法を暴発させてしまった。

 警戒を緩めていなかったイヴリンにより周囲に被害は出なかったが、反動は大きかった。


 ヴァイオレットは死線を彷徨(さまよ)った。

 もしもイヴリンがかつて稀代の治癒師でなかったら、そしてルーシーが全力でイヴリンをサポートしていなかったら、彼女は死んでいたかもしれなかった。


 それ以降、ルーシーはどんな手を使ってでもヴァイオレットの魔法勉強を阻止するようになった。イヴリンがなかなか魔導書を渡さないのもそれが原因だった。

 ——彼女に関しては、自身も魔法に人生を捧げた身として最終的にはヴァイオレットの熱量に負けてしまうことも度々あったが。


 ルーシーがこれまでヴァイオレットの大事なものを全て奪ってきたのも、自分の身よりも魔法を優先しかねない義姉の命を守るためだったのだ。

 両親の前では姉を見下す嫌な義妹を演じているのも、ヴァイオレットから物を奪いやすくするためだった。


 もっとも、これには別の決して小さくない理由もあるのだが、今は直接関係のない話だ。


「だって、これ以上魔法使ったらお姉ちゃん死んじゃうじゃん!」


 ルーシーの悲痛な叫びに、心配をかけた心当たりしかないヴァイオレットはそれまでの怒りの表情から一転、焦りを浮かべて言い訳めいた口調で、


「も、もうやりすぎない! 次からはちゃんと加減するから!」

「一年前にそう言ってもう一回死にかけたのは誰⁉︎」


 ルーシーは間髪入れずに切り返した。

 そう。彼女は事故から一年後に、一度だけヴァイオレットが破壊魔法を扱うことを許したのだ。そうしなければ、我慢の限界を迎えた義姉が暴走してしまうような気がしたから。


 しかしその際、ヴァイオレットは再び命を危険にさらした。久しぶりに身体強化以外の魔法が使えることにテンションが上がってしまい、魔力操作を誤ったのだ。

 それ以来、ルーシーの監視の目はさらに厳しくなった。


「あ、あれはちょっと久しぶりで調子乗っちゃっただけだし、じっくり慣らしていけば大丈夫だから!」

「可能性がないとは言えないでしょ! どうしてそこまでして魔法だけにこだわるのよ!」


 叫ぶルーシーの瞳には、大粒の涙が溜まっていた。

 思わず言葉を詰まらせたヴァイオレットに訴えかけるようにして続けた。


「着飾ったりとか、美味しい物を食べたりとか、他にも楽しいことはたくさんあるじゃん! 私があげた服も全然着てくれないしっ……せっかくお姉ちゃんに合うと思ってあのクソ親父にねだって、保存だってめちゃくちゃ気を遣ったのに!」


 ルーシーが時々自分の趣味に合わない服を父親であるサイラスにねだっていたのは、魔導書と交換という名目でヴァイオレットにおしゃれをさせるためだった。

 ——前から薄々義妹の狙いに気づいていたヴァイオレットは居心地の悪さを覚えつつ、控えめに反論した。


「ふ、服なんて着心地が良くて着やすくて脱ぎやすければいいでしょ」

「いいわけないでしょ! まったく、平民のみんなは何もわかってないわ」


 ルーシーがビシッと指を突きつけてきて、


「こんないい加減な人にお飾りなんてあだ名、つけていいわけないじゃない!」

「あのお飾りってそういう意味じゃ——」

「わかってるわよ! でもどちらにしろでしょ! もう、お姉ちゃんはおしゃれすれば今以上に可愛く……って、今はそんなことはどうでもいいの! とにかくっ、私はお姉ちゃんがなんと言おうともう魔法はやらせないから!」

「本当に次から気をつけるから、もう一回だけやらせて!」


 ヴァイオレットは両手を合わせて拝んだ。

 ルーシーは冷めた瞳で、


「みんなそうやって言って、またやらかすのよ」

「で、でもほらっ、三度目の正直って言うし!」

「二度あることは三度あるとも言うわ。それに、お姉ちゃんが私の言うことを聞かないのはわかりきってるから。昔も一年前も、私がいくら注意してもずっとギリギリを攻めてたじゃん。それで二回も事故が起きてっ……姉ちゃんが死んじゃうんじゃないかって、本当に怖かったんだから……!」

「うっ……そ、それは本当に悪かったけど!」

「けど、何?」


 ルーシーが鼻をすすりながら睨みつけてくる。

 そんな表情を向けられては、さすがのヴァイオレットもそれ以上は食い下がれなかった。


「……ま、まあ、この件はまた後にするとして。二つ目の条件は?」

「またすぐそうやって誤魔化そうとする……二つ目は、別の婚約者を見つけることよ」


 ヴァイオレットはスッと目を細めた。


「まさか、あなたも男爵とか次男とかくだらないことであの人を判断するの? 魔法に関してはそうかなと思ってたけど、リアが婚約者かどうかについては関係ないじゃん」

「……続きは本人も交えたほうがいいわね。今から会いに行きましょう」

「……わかったわ」


 釈然としないが、恋人に会えるというならヴァイオレットに拒む理由はなかった。

 並んで窓枠に足をかける。


「行くわよ」

「えぇ」


 破壊魔法という強大な魔法しか使えないヴァイオレットに対して、ルーシーは治癒魔法を軸に様々な小技を使える。

 彼女が本気を出せば、魔法適性のある者が多くないクラーク家から人知れず抜け出すのは難しいことではなかった。


 敷地に出たら、今度はヴァイオレットの出番だ。

 ルーシーを背負い、身体強化を弱く発動させて裏路地を駆け抜ける。


「そういえばルーシー。さっきはちゃんと防音魔法使ってたよね?」

「えぇ」


 小声で会話をする二人は覆面を被っていた。

 当然人とすれ違うことはあったが、誰も疾風の如く駆け抜けていく怪しげな二人組がクラーク家の姉妹だとは思わなかった。

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