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第3話 頼もしい騎士たち(下着)

 幸い、玄関で再びオリヴィアに遭遇することはなかった。

 廊下を足を忍ばせて歩く。ほんの少し気の緩みが床の(きし)みにつながるのだ。


 視界に、自分とは全く系統の異なる淡い水色の髪の毛がよぎった。


(——はっ!)


 ヴァイオレットは慌てて壁に身をひそめた。

 義理の妹であるルーシーだ。こちらに気づく様子もなく、そのまま通り過ぎて行った。


(危なかった……)


 ホッと息を吐いた。背中を一筋の汗が流れた。

 ルーシーに見つかれば最後、魔導書は彼女のものになってしまう。


 せっかく時間もお金もかけて手に入れたものをこれ以上奪われてなるものか——。

 ヴァイオレットは、その後も警戒を緩めずに足を進めた。


 自室に入ると、思わず息を吐いてしまった。

 しかし、ここで気を抜いてはいけない。ルーシーは義姉が何かを手に入れたとみるや、掃除のメイドとともにこの部屋に侵入して徹底的に探索をするのだ。


 彼女にはヴァイオレットが胸の内に秘めているはずの興奮を見抜く洞察力と、何が何でも自分のモノにしてやるという執念があった。

 そして見つけるや否や筋の通らない論理を展開し、実子というだけで両親を味方につけて大切なものを奪っていくのだ。


 机の奥はもちろん、重ねた服の間に巧妙に挟み込んでも無駄だった。

 もう、最後の手段を使うしかなかった。


「——よし!」


 意を決して下着入れを開けた。

 中の物を全て取り出し、魔導書を一番底に置いた。

 そしてお気に入りのいわゆる一軍下着を少々とほとんど使っていないもの全てを、ある程度は規律を保ちつつも枯れ葉のように魔導書に重ねた。


 ヴァイオレットは元々大雑把な性格なので、衣類が多少雑に収納されていることはよくある。もしルーシーが普段から下着入れまで調べていたとしても、違和感を覚えることはないだろう。

 ただし、下着程度ではおそらく抑止力にならない。作戦の真髄(しんずい)はここからだった。


 ヴァイオレットは生まれたままの姿になった。

 今し方外したばかりのブラジャーとパンツを手に取り、手前の空いていたスペースに並べて鎮座させた。


「お前たち、頼んだぞっ……!」


 起きてからの数時間をともに過ごしてきた二人の赤色の戦友に、ありったけのエールを贈った。

 一軍の下着をいくつか紛れ込ませたのはカモフラージュのためだ。さすがに使用済みの下着と新品のものを一緒にしておきたくなかったため大部分は年季の入ったものを投入したが、それだけでは見破られてしまう可能性があった。


「ベテランと若手の融合こそが最強のチームを作り出すのよ、うん」


 貴族の令嬢として、いや、そもそも人間としてどうなのかという思いは当然あったが、背に腹は代えられない。


「明らかに使用済みの下着という鉄壁の防壁を前にすれば、さすがのルーシーもここの探索は断念するはず……!」


 ヴァイオレットは満足げにうなずいて、下着入れを閉めた。

 そして出しっぱなしだった下着の中からブラとパンツを一枚ずつを選んで身につけ、他は別の引き出しに収納した。


 服を着直したタイミングで、扉がノックされた。


「ヴァイオレットお嬢様。お仕事のお時間です」

「すぐ行くわ」


 これから夕食まで、家の仕事をしなければならない。

 そろそろ呼びに来るだろうとわかっていたからこそ、すぐに読まずに隠したのだ。


 夕方には掃除が入る。

 普段はこのタイミングで見つかっていたが、今回の作戦は完璧だ。


「待っててね。お前たちも必ず主君を守り通すのよ」


 暗闇で息をひそめている我が子同然の宝物、そしてそれを覆い隠す頼もしい騎士たち——特に最前線で体を張るダブルエース——にそっと語りかけ、自室を後にした。




 冷遇されているとはいえ、世間体を気にしているのかはたまた別の理由があるのか、夕食は家族全員で取るのが慣わしだ。

 食事が始まっても、ルーシーは魔導書の話を持ち出さなかった。


(よかった。今回こそはバレなかったみたいだ)


 ヴァイオレットはそっと安堵した。

 顔を合わせたときになんだかルーシーがソワソワしていたため気が気でなかったが、彼女はヴァイオレットがこっそりと入手したものを見つけた際には、決まって食事開始と同時に話題に出していた。


(人間として何か大事なものを失った気がするけど、それでも宝物は失わなかったから良しとしよう!)


 ヴァイオレットは表情に出さないように気をつけつつも、内心では歓喜の雄叫びを上げていた。


 ——彼女は後に、自分がまだルーシーという少女のことを理解していなかったと知ることになる。

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