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第11話 義妹の前でアヘ顔を晒した

「リアム様と私が本当に婚約?」


 ヴァイオレットは怪訝そうな表情でアリアを見た。


「うん。変だと思わなかった? あんなにあっさり私たちのことを受け入れてくれるなんて」

「ちょっと違和感は覚えたけど、研究第一な人だからそれ以外のことはどうでもいいのかなって」

「それはあるだろうけど、それだけじゃないんだ。言ってなかったけど、実はリアムお兄様も私たちと同じ趣味なんだよ」

「「えっ」」


 ヴァイオレットとルーシーの声が重なった。

 姉妹は思わず顔を見合わせた。全く想像もしていなかった。


「えっとー……彼の場合は、男の人が好きってこと?」

「そ。双子だから趣向まで似たのかも」


 アリアは冗談めかしてそう言った。表情を真剣なものに戻して、


「お兄様とヴィオラが子作りをするのはさすがに複雑だから今まで提案してこなかったけど、そうすれば私はヴィオラの義妹になるからもっと一緒にいれるし、理解のある婚約者も作れて一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなる。いい案だと思わない?」

「いい案どころかこれ以上ない選択肢だと思うけど……リアは本当にいいの?」


 ヴァイオレットは(うかが)うように尋ねた。

 いくらメリットが多いと言っても、実の兄と恋人が体を重ねるというのは相当抵抗感は大きいだろう。

 アリアは頬を緩めてうなずいた。


「大丈夫。提案した時点で覚悟は決まってるよ。僕にとっての何よりも優先事項は少しでも長くヴィオラといることだから、そのためならどんなことでも受け入れるよ」

「っ……ありがとう、リア……!」


 ヴァイオレットはアリアに抱きついた。

 男の人ならばまずあり得ないであろう柔らかい感触に顔を埋める。男装できるだけあって彼女はなかなかの貧乳だし、今もサラシを巻いているため一見すると盛り上がっていないが、やはり触れてみれば柔らかさは感じられるのだ。


「これからはもっとヴィオラの気持ちを考えて、少しでも君が笑って過ごせるように努力するから」

「なら、少しでも長く一緒にいてね?」

「っ……!」


 アリアが息を詰まらせた。

 頬を桜色に染め、気恥ずかしそうに笑った。


「まったく、僕の恋人は可愛いね」

「リア……」


 ヴァイオレットは甘えるように恋人の愛称を呼んだ。

 アリアが愛おしげに目を細める。

 二人の顔が接近して——、


「——あの、私もいるんですけど」


 呆れを隠そうともしない声が聞こえた。


「「っ……!」」


 お互いのことしか見えていなかったヴァイオレットとアリアは反射的に飛び退いた。気まずそうな表情を浮かべる彼女らの顔は真っ赤だった。

 ルーシーは半眼のまま、


「申し訳ないけど、そういうのは私のいないところでやってもらっていいですか? 姉のイチャイチャとか甘える姿とか居た堪れないし、抱きしめられただけでアヘ顔してるし」

「し、してないよ!」

「アヘ顔?」

「気持ちよさそうな恍惚(こうこつ)とした表情のことです」

「あぁ……」


 ルーシーの説明に、アリアが納得したようにうなずいた。


「ちょっとリア、心当たりありますみたいな反応しないで!」

「いたっ。やったな?」

「ちょ、リア——」

「言われたそばからイチャイチャすんな」

「「っ……!」」


 ルーシーに鋭い口調で注意され、一瞬で自分たちの世界に戻りかけていた二人は再び赤面した。気まずい沈黙が落ちる。

 ——特に義妹の前で醜態を晒しているヴァイオレットにとって、居心地は最悪だった。


(なんとか空気を変えないと恥ずか死ぬっ……!)


「そ、それにしてもさルーシー。いくら私のためとはいえ、資料の不備まで偽装するのはやりすぎだったんじゃない?」

「えっ? なんの話?」


 ルーシーはキョトンとした表情になった。


「一週間前のやつよ」

「あぁ、いえ、あれは本当に何もしてないわ。魔導書のことを考えて気もそぞろになってたんじゃないの?」

「うっ」


 ルーシーに呆れたように指摘され、ヴァイオレットは言葉に詰まった。可能性は大いにあったからだ。


「で、でも、だったら何でいつもみたいにすぐ言い出さなかったの?」

「だ、だって、あんな隠し方するなんて思わないもん!」


 ルーシーは頬を染めて叫んだ。

 アリアが興味深そうにヴァイオレットに尋ねた。


「どんな隠し方をしたんだい?」

「魔導書の上に下着を重ねて、そのピラミットの頂点に使用済みのブラとパンツを置いて鉄壁の要塞を築いたのよ」

「へぇ、面白いことをしたね」

「でしょ」


 笑みを交わす二人を見て、ルーシーは再び半眼になった。


「……アリアさんも意外とぶっ飛んでるのね」

「そうよ」


 ヴァイオレットは得意げにうなずいた。


「というより、リアは実は私よりやばいと思う」

「「それはない」」

「ひどくない⁉︎」


 アリアとルーシーが同時に吹き出した。

 ヴァイオレットは不満げに二人を睨みつけていたが、やがて相好を崩して一緒に笑い出した。


 それからかなり滞在してしまったことに気づき、クラーク家の姉妹は慌ててスミス家を辞去して実家に戻った。

 幸い、怪しまれた様子はなかった。


 使用人に手伝ってもらいながら手早く入浴を済ませ、ヴァイオレットは自室のベッドに飛び込んだ。


「ジング帝国に行くって考えはなかったな……」


 リアムのコネがあっても入国が許可されるかはわからないし、そこで何かが得られると決まったわけではないが、とりあえずの目標ができたことでスッキリしていた。

 何よりアリアと今まで以上に会えるようになるのは嬉しかった。彼女とたくさんの時間を過ごせるのなら、魔法欲も我慢できそうな気がした。


 明日、訪ねてきてくれることになっている。今日来れなかった理由は先程三人で入念に考えた。

 ルーシーも口添えをすることになっているため、まず間違いなく両親は信じるし、アリアとの恋人関係——表向きはリアムだが——も問題なく続けられるだろう。

 カモフラージュではないリアムとの婚約については、アリアのほうから先に話をつけてくれるらしい。


「リアが来なかったときは人生最悪の日になるかと思ったけど、結果的に今日得たものは多かったな……」


 魔力が体内をみなぎる。腕を振って助走をつけた後、ヴァイオレットは飛び上がって空中でくるっと宙返りをした。


「——シュタっ!」


 効果音を声に出しながら華麗に着地をして、格好つけたポーズまで決めた。


「……何やってんの、私」


 数秒後に我に返り、羞恥に悶えて布団の上を転げ回った。

 こんなに明るい気分でいられる夜は久しぶりだった。

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