80 解呪
「うわあ……」
アイリスたちを虚な目で囲んでいる人たちに苦笑するアイリス。これではフリードの言う通り本当にゾンビだ。
「フリード、アイリス。この状況は一体……」
頭を押さえながら立ち上がるユーリ。状況が理解できないのも無理はない。
フリードは周りの様子を見渡してからアイリスを見る。
「アイリス。感知できそうか?」
「やってみます。ちなみに、フリードは闇属性の魔力を持っていますけど、感知はできないのですか?」
「悪いが間近じゃないと感知できない」
「そうですか……」
アイリスは気合を入れ直す。それに仲間の解呪に成功してもそれは一時的でしかない。
次にアイリスが行う仕事は呪いの核の感知だ。
しかし目の前の人々は鍬や武器を持って襲い掛かってくる為、対処しなければならない。状況を理解していないユーリ、オーウェン、ルイも慌てて応戦する。
「あの! ゾンビみたいな顔していますけど皆さん生きているので絶対傷つけないでくださいね」
アイリスは襲い掛かってくる人たちを避けたり背負い投げをしたりしながらこの状況を理解していないユーリたちへ叫ぶ。
「あ。そういえばあのゾンビ軍団の先頭にお前たちいたからな」
「げ……」
フリードの言葉にオーウェンは顔を青くする。
「あはは……とりあえず呪いの核を……」
感知しようと集中する際人に襲われかけたが、オーウェンの蹴りで吹っ飛ぶ。
「加減はいずこへ……」
やはり感知に集中するためにも仲間の解呪を優先してよかったとアイリスは実感する。
そもそもアルマの人々を一人一人解呪するには、人数的に時間が必要だ。
それに解呪した人間が正気に戻ったことでゾンビ軍団に襲われれば怪我をしてしまう。
そういう意味も込めてユーリたちを先に解呪したのだった。
(でもありがたい)
三人が応戦しているおかげでアイリスには感知できる余裕が生まれる。
「……………………ない」
集中するが、それらしいものの気配がしない。
(やっぱり私には…………)
その時横から石が飛んできたが、何とか躱し、襲ってきた人を背負い投げる。
(それでも感知しないと、この人たちはずっとこのまま……ユーリさんたちだって……)
ユーリたちも今は一時的に解呪できた状態にすぎない。その為いつ呪いの影響を受けてもおかしくはない。アイリスは大きく息を吸う。
(集中して……大丈夫)
アイリスは後ろに倒れこむ。
「アイリス!?」
ユーリの焦った声が聞こえる。だがアイリスにとって聞こえた声はここまでだった。
一人無防備な姿を見せたことにより、アイリスの存在は集団の隙となってしまう。それに乗じるように目が虚な人々はアイリスに襲い掛かる。
「はっ!」
フリードが回し蹴りをする。
「フリード。アイリスは……」
「彼女は、彼女のできることを。それなら」
フリードはゾンビ軍団を見据えるのだった。
***
(どこにあるの……どこに……)
アイリスは集中して感覚を研ぎ澄ませている。微細な魔力の気配を少しでも拾えるように。
(ここらへんじゃなく、もっと遠くに?…………遠く)
アイリスは一つの方法を思いつく。
(できるか分からないけど)
アイリスは自分の風の魔力を放つ。
『呪いの源はどこでもいいというわけではないの』
思い出すのは出発する前に話したカミラの言葉。
『場所によって効力が変わる。特に呪いは感情に密接な繋がりがある。つまり、あの人の強い気持ちが宿る場所にきっと……』
(考えて。カミラさんの旦那さんなんて私が分かるわけがない。でも、夢で出てきた人は優しい人だった。何よりカミラさんを見ているあの視線。優しいものだった)
アイリスは夢の出来事を思い出す。
(夢…………そうだ。何か夢にヒントは…………)
その時アイリスは思い出す。夢の中にあった写真立てにあったカミラたちの笑顔の写真を。
そして会話と走った先にあった物。
(あ!)
気が付いたと同時に自分の魔力でも感知した。
『いつもの場所まで見送れたらよかったのだけれど』
カミラはいつも同じ場所で見送り、迎えていた場所。
この町の境にある橋であり、ここからも見える距離にある。
アイリスは勢いよく起きる。
「ここ!」
アイリスは腕を振り上げ、人々を避けて風魔法で源を壊そうと一歩踏み出す。
しかしぐらりと視界が揺れる。ぐにゃぐにゃと歪んでくる。
(これって……魔力酔い? こんな時に)
魔力酔いとは普段使っていない量の魔力を一気に使用することで体に拒絶反応が起こることだ。
(だったら)
アイリスは自分の太ももに巻いていたベルトから苦無を抜き取り、魔力をこめて橋に埋め込まれている核に向かって思いっきり投げる。そしてアイリスは勢いのまま倒れこんでしまう。
「うっ!」
「アイリス!」
顔を歪ませて倒れ込んだアイリスにユーリが駆け寄る。
アイリスは揺れる視界の中投げた苦無を見つめる。
苦無は魔力酔いの中投げたせいか目標の場所にたどり着く前に地面に落ちてしまう。
「そんな……」
「まだだ」
そんな声が聞こえたとき、地面に落ちた苦無をフリードがもう一度投げる。
アイリスが投げたかった場所に向かって。
橋の柱に苦無が勢いよく刺さるとその場所から眩しい光が放たれたのだった。
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